4月19日①(忍びよる不安)
久し振りの我が家でぐっすりと休んだ敦志は昨晩の梨絵とのことをさっぱりと忘れ、家族で過ごす休日を満喫することで頭はいっぱいだった。
「パパァ~、ふぁ~~」
次女の亜依が一番先に目を覚まして起き、おぼつかない足取りでゆっくりと階段を降りてくる。
敦志が階段まで迎えに行くと、亜依は目一杯の力で敦志を抱き締めてくれた。何気ないやり取りだが、愛娘のおかげで敦志は自宅に帰ってきた喜びを感じることができた。
亜依がテレビを見ている音で、燐太郎と葉菜も目を覚ましてドタドタと階段を降りてきた。
「パパー、今日はどこに行くのー?」
たった一言だが、笑顔で話す葉菜がこの休日を楽しみにしてくれていたことがよくわかり、敦志は嬉しかった。
「ママが起きたら決めようね」
「わかったー、でも葉菜はゲームセンターに行きたいなー」
葉菜はUFOキャッチャーで可愛いグッズを取るのが大好きなのだ。
「燐はどこに行きたい?」
敦志は答えはだいたいわかっていたが燐太郎にも希望を聞いてみた。
「・・・どこでもいいよ」
「やっぱりゲームキングに行きたい」
ゲームキングは燐太郎が唯一、行きたがる場所でゲーム機やカードといったこの年頃の子供が欲しがるもので溢れたショップだ。
家族みんなが起きてから30分程して、梨絵が少しイライラした様子で起きてきた。
やはり1ヶ月も家を空けたことに怒っているのか、ゆっくりと眠れなかったことに怒っているのか敦志は考えたが梨絵の表情から答えは見つけられなかった。
敦志以外の家族がいつものように朝食を済まし、出掛ける準備が始まると行き先もあっさり決まった。
自宅から約1時間で行けるショッピングセンターは家族の目的を全部叶えてくれる、家族みんなが大好きなお出掛けコースだった。
ショッピングセンターでの過ごし方は決まっていて梨絵が一人で買い物をし、敦志が子供たちを遊びたい場所へ連れて行くのだ。
別行動をして、仲の悪いように見えるがたまの休みで梨絵に少しでも奥さん孝行したいと敦志は考えていたので特別なことではなかった。
梨絵の買い物も終わり、子供たちも充分遊んで満足したところで遅めのお昼御飯に一家は向かった。
お昼御飯は敦志が好きな食べ放題のバイキングレストランである。店を決めたのは珍しく梨絵で、敦志はこの心使いがとても嬉しく、梨絵が自分のことを気に掛けてくれたことで心が満たされることを感じた。
敦志が料理をとって席に向かって歩いていると、梨絵と葉菜の不自然な会話が耳に入ってきた。
「ママー、今度はいつ来るのー?」
葉菜が楽しそうに笑顔で梨絵に聞いている。
「もう一緒に来るのは今日で最後だよ」
梨絵は寂しそうな顔で葉菜に答える。
「何で最後なの?」
一瞬で笑顔が消えた葉菜が梨絵に聞くが、敦志に気付いた梨絵は何も言わずに食事を再開した。
敦志の脳裏を昨日のわずかな違和感が再び過った。やはり梨絵はどこかおかしい。いや、何かを自分に伝えようとしているのか?
食事を終え、車で自宅に移動していると子供たちは後部座席でぐっすり眠っている。子供たちが寝ることを待っていたかのように梨絵が何気ない素振りで話しだした。
「敦志、もし離婚したら子供をどうしたい?」
予想していない質問に敦志は少し動揺して、答えに詰まっている。