第73話「パチパチじいさん」
「レッド……人の嫌がる事をしていたらね……」
「なになに~」
「コワイコワイ……が、やって来るわよ」
「みみみミコ姉……こわいこわいとは?」
「コワイコワイは、コワイコワイよ」
むー、レッドめ!
わたしがなにも出来ないからって「モフモフ」し放題です。
こっちは配達準備で反撃できないんですよ。
「レッド、やめてくださいっ! モウっ!」
「モフモフ……すてき」
「わたしは嫌! モウっ!」
「えんりょせずとも」
「レッドは遠慮するところですっ! モウっ!」
「モフモ~フ!」
「怒るよっ! モウっ!」
「モウモウ~」
「くーっ!」
レッド、超楽しそう。
誰か……助けてくれないかな?
店長さんは……いません。
コンちゃんは……こーゆー時は絶対敵側。
シロちゃん……微妙かな。
たまおちゃんも出勤準備でいそがしそう。
みどりは……だめでしょうね。
「コラ、レッド、だめでしょ」
「はわわ~」
あ、援軍到来、ミコちゃんです。
わたし、テレパシーでミコちゃんに、
『もっとレッドをしかってくださいっ!』
『でも……ポンちゃんのしっぽ、モフモフ楽しいのよ』
『ミコちゃん、怒るよ!』
『本当、ステキにモフモフなのよ』
『ミコちゃん……ここではわたしが先輩ですっ!』
『それもそうね……』
ミコちゃん、レッドに幼稚園カバンをかけながら、
『でも、人の嫌がる事はやめるように躾たいのよね~』
『なら、ぜひ、きつくしかって!』
『でも、ポンちゃんタヌキよね……』
『ミ~コ~ちゃ~ん!』
『冗談じょうだん』
本当に冗談なのかな……まったくモウ!
最近みんな、わたしを先輩って思ってません。
ああ、そーこーしているうちにも、レッド再度モフモフ。
「レッド、やめってってばっ! モウっ!」
「もうもう~!」
「モウっ!」
わたし、手が空いたのでチョップです。
でも、レッド、ニコニコしてますね。
くく……お姉さんだから本気チョップできないの。
わ、わたし、レッドになすがまましっぽをレイプされ続け!
「レッド……ポンちゃん嫌がってるでしょ」
いよいよミコちゃんのお説教開始か?
「えー、よろこんでいるのでは?」
「嫌って言ってるでしょ」
「いやよいやよもすきのうちと~」
「いいから、しっぽモフモフは一日一回よ」
「む~」
レッド、うなってます。
ミコちゃんも、なに勝手に「一日一回」なんて言うんですか。
「いいおんなのこは、けちけちしませんよ?」
「ねぇ……レッド」
「なになに~ミコ姉~!」
「ポンちゃんが嫌がってるの、わかっててやってるわよね?」
「えへへ、ちょっとだけ~」
なに「ちょっとだけ」ですか!
ぜったい「確信犯」ですよ。
「だって~」
レッド、体をモジモジさせながら、
「ポン姉みてるとたのしいし」
「な……レッド、わたしの嫌がるの、見てて楽しいのっ!」
「うん!」
って、レッドが大きく頷くと思ったらっ!
その場のみんなも頷いてますっ!
「みんなしてモウっ!」
ああ、みんな笑ってます。
ミコちゃんも笑いを堪えながら、
「レッド……人の嫌がる事をしていたらね……」
「なになに~」
「コワイコワイ……が、やって来るわよ」
み、ミコちゃん……なにが「コワイコワイ」ですか。
テキトー言うのやめてほしいです。
本気でレッドをしかる・躾る気あるんでしょうか。
わたし、レッドを見たら凍りついてます。
みんなを見たら、たまおちゃん以外固まってる!
レッド、震えながら、
「みみみミコ姉……こわいこわいとは?」
「コワイコワイは、コワイコワイよ」
「だ、だから、それはなにもの!」
「コワイコワイよ」
「だから~!」
レッド、地団駄踏んでます。
コンちゃんとシロちゃん、みどりも三人で抱き合って震えてます。
「コワイコワイ」なんて、テキトー言ってるだけに決まってます。
だってわたし、いろんな本読んで勉強してるけど知らないもん。
ミコちゃんの口ぶりだと「妖怪」っぽいです。
妖怪なんているわけないのに。
「み、ミコっ!」
あれれ、コンちゃん震えながら、
「コワイコワイとはなんなのじゃっ!」
シロちゃんも震えています。
「ミコちゃん、本官も知りたいでありますっ!」
みどりも涙目で、
「ちょ、ちょっと、おどかさないでよっ!」
おどろくところですか……まったく大げさな。
ミコちゃん、涼しい顔で、
「コワイコワイは、コワイコワイよ」
もう、動物組はわたし以外びびりまくり。
ミコちゃんそれ以上なにも言わないで行っちゃいました。
そんな時、いきなりお店のドアのカウベルが鳴るんです。
「おはよー、来てやったぜっ!」
おお、ポン吉です。
レッドやみどりのお迎えですね、ごくろうさま。
「おはよ、ポン吉」
「ポン姉、どーかしたのか?」
「ふふ……ポン吉はコワイコワイって知ってますか?」
「はぁ? なんだそれ?」
「悪さをすると、こらしめに現れるんです」
ポン吉、ニコニコ。
しれっとわたしのしっぽをモフモフします。
「ポン姉のしっぽ、すげー楽しいよな」
「こらー! コワイコワイが出ますよっ!」
「べーっ!」
なにが「べーっ!」ですか、モウ。
ポン吉、脱兎のごとくドアまで逃げると、
「コワイコワイ、出せるもんなら出してみろ」
レッドとみどり、ポン吉にしがみついて、さっさと学校に行っちゃいました。
コンちゃんとシロちゃんも一緒に着いて行きますよ。
わたしとたまおちゃん、ポツンと残されました。
「ねぇねぇ、たまおちゃん」
「はい? ポンちゃん?」
「たまおちゃんは、コワイコワイ、知ってるの?」
「妖怪……かな?」
「わたし、不法投棄のマンガ読んで知ってるつもりなんだけど……」
「マンガにはなったことないと思うけど……」
わたし、たまおちゃんと一緒にお店を出ます。
「そうなんだ」
「コワイコワイ……子供が寝ない時なんかに出てくる妖怪」
「寝ない時?」
「あと、子供が言う事聞かない時なんか」
「??」
「親が子供に言い聞かせるための……おどかしみたいなもの……かな」
「ああ、なんかわかった……やっぱりテキトーなんだよね」
「さっき、みんなこわがってたけど……」
「うん……レッドだけじゃなかったね、コンちゃんもびびってたよ」
たまおちゃん、微笑みながら、
「ポンちゃんはコワイコワイってどんな妖怪と思う?」
「え……テキトーなんだよね?」
「いいから……コワイコワイってどんな姿の妖怪と思う?」
「むむ……ろくろっ首は長い首で、ぬりかべは塗り壁」
「じゃ、コワイコワイは?」
「……」
全然思い浮かびません。
たまおちゃん、微笑みながら言います。
「きっとみんな、いろいろ想像が膨らんでるんだと思うよ」
さて、お昼も回ったところです。
お客さんもはけて、ちょっとのんびりした空気。
朝はびびって出かけたコンちゃんとシロちゃん、テーブルでおやつをしてます。
むむ……わたしのタヌキ嗅覚、発動です。
クンクン……
近付いて来るのは「ウンコ臭」です。
「な、なに?」
においの方向を見ます。
「たたたたすけてーっ!」
「こわいこわいしゅつげんっ!」
走って来るのはポン吉とレッド。
逃げたいところですが、抱きつかれました。
むー、ウンコ臭は二人からです。
「どーしたんですか、ウンコ臭いですよっ!」
「コワイコワイが出たんだ!」
「は?」
ポン吉、どーてんしてます。
「こわいこわい、ぱちぱち、せっきん!」
「ぱちぱちってなに?」
レッドもパニック中ですね。
わたしもウンコ臭くなっちゃったから、裏に回ってお風呂場に直行です。
お風呂に入って、着替えてから、
「どーしたんですか、二人とも」
お風呂とおやつで落ち着いたのか、ポン吉もレッドもいつも通り。
ミコちゃん、洗濯物を干してから、
「どうしたの……肥溜にでも落ちたの?」
店長さん、微笑みながら、
「牛のウンコの臭いだけど……」
ポン吉、ちょっとうつむいて、
「村の上の方に……牛がいたんだ」
ふむ……で、どーしたんですか?
「学校も終ったから、レッドと一緒に探検に行ったんだぜ」
子供らしい行動です。
でもね、ポン吉……兄・ポン太は働いてますよ。
ポン吉、ちょっとはは兄を見習った方がいいような気が。
「牛を見てたら、変なのが、コワイコワイが出たんだ」
いきなりコワイコワイになりましたね。
「ぱちぱちしながら、やってきますよ」
レッド、さっきから「ぱちぱち」ばっかり。
「変な歩き方でオレ達を捕まえようとするんだ」
ポン吉が語り、レッドが踊ります……踊ってるんじゃなくて、そのコワイコワイの真似してるみたい。
『ねぇねぇ、ミコちゃん』
『なに、ポンちゃん、テレパシーで』
『本当にコワイコワイ、出たみたいだけど……』
『あれ、言ってるだけなんだけど……』
『レッドだけならなんだけど、ポン吉も見たみたいだし』
『そうねぇ、ポン吉くんくらいなら見間違いでもなさそう』
あれ、店長さん、笑いを堪えてるみたい。
わたしと目が合うと、
「ポンちゃん、おつかい、いいかな」
「配達ですか?」
「ううん……たまごと牛乳を買ってきてほしいんだ」
「それは配達人が持って来ますけど」
「村の『とれたて』おいしいんだよ」
むむ、「とれたて」は確かに。
「でも、村にそんな所は……」
「ポンちゃん、一度行った事あると思うよ」
「わたし……おぼえがないです」
「馬糞のおはぎの時……おじいちゃんに会ったろう」
1クール目のお話じゃないですか。
おぼえてますよ、店長さんに捨てられたかと思った時です。
店長さん、お財布とどら焼きを持って来て、
「レッドとポン吉も、コワイコワイに会ってくるといいよ」
途端に二人とも真っ青。
わたし、二人のしっぽ、捕まえます。
「じゃ、行きましょうか」
「ポン姉、放せよ、ポン姉の方がこわいよ」
ポン吉、なにかの機会に折檻決定。
「ポン姉、ばかー! どらやきー!」
レッド、今度お風呂の時、頭からお湯かけちゃいます。
さーて、二人逃げられないように小脇にかかえて出発しゅっぱつ。
はて……店長さん、わたしに「おつかい」って言いました。
でもでも、レッド達には「コワイコワイ」?
どーゆー事でしょう。
村のはずれに到着です。
ふはー、においでわかります。ウンコ臭。
それに道の先には牛の鳴き声も聞こえます。
お家や小屋が見えてきましたよ。
「あ!」
小屋の前におじいちゃん。
こっちを見て……わたしと目が合いました。
あの時のおじいちゃんで間違いないです。
って、いきなりガニマタ&頭上でパチパチしながらやってきました。
「キター! コワイコワイ!」
とはポン吉。
「こわいこわい、あぷろーちんぐ、ふぁーすと!」
レッドたまにむずかしい言い回ししますね。
二人は絶叫だけど……
た、確かに「コワイ」かもしれないけど……
どっちかと言うと「キモイ」でしょ。
わたし、レッドとポン吉をしっかと抱きしめて逃がしません。
おじいちゃん、目の前までやってきました。
では、インタビュー開始です。
「あの、おじいちゃん、なにやってんですか?」
「いや、さっきそっちの二匹が牛にイタズラしてたから、こわがらせてた」
わたし、二人をにらみます。
「違うわいっ! 見てただけだいっ!」
「いたずらしませんよ」
まぁ、そー言っているので援護しますか。
「おじいちゃん、二人はそんな事しませんよ」
「でも、タヌキとキツネだし」
「今は人間という事で」
「でもなぁ~」
あ、おじいちゃん、わたしのしっぽを見て、
「タヌキが言ってもねぇ」
むう、ごもっともです。
でも、おじいちゃん、笑ってます。
本当はわかってるみたいですよ。
「あの……今日はおつかいで来たんです」
「うん? 何かね?」
「店長さんからタマゴと牛乳を分けてもらえって」
わたし、持たされたどら焼きを見せます。
おじいちゃんうなずいて、
「ああ、あんた、パン屋に『とり憑い』ているタヌキ」
「『とり憑い』てるんじゃなくて、恩返しです」
「怨返し?」
わたし、チョップ準備。
おじいちゃん、手をヒラヒラさせて家に戻ります。
「ほら、ご馳走するからこっちにおいで」
むう、はぐらかされた感じですが、ともかく行きますか。
絶品ですよ、しぼりたて牛乳は。
「うまうまです!」
「売ってるのと全然違うぜ!」
レッドとポン吉、あっという間に牛乳飲んじゃいます。
おじいちゃん、どら焼きを二人に渡しながら、
「昔な、パン屋の息子が牛を逃がしたりしてな……」
「そ、それって店長さん?」
「じゃな……それ以来イタズラっこを脅かしておるんじゃよ」
「そーだったんですか」
「コワイコワイ」の元凶は店長さんだったのかもしれません。
おじいちゃん、どら焼きを食べながら、
「パン屋をやってた筈じゃが……」
「材料一緒だから、ちょっと和菓子も作ってるんです」
「ふむ……なかなかうまい」
おじいちゃん、完食すると棚からタマゴ、冷蔵庫から牛乳瓶を出して、
「また来るといいよ……どら焼きじゃなくて、パンも食べてみたいかな」
「店長さんに言っておきます」
さて、おつかい完了、帰るとしましょう。
「レッド、ポン吉、どーでしたか?」
「うまうまでした!」
「じいちゃん、またごちそうしてくれ!」
レッド達、さっきまでこわがってたのがウソのようです。
おじいちゃんもニコニコ。
「まったく、さっきまでおじいちゃんの事、コワイコワイって言ってたのに……」
途端にレッドが真顔になりました。
「ポン姉~」
「はい、なんですか、レッド」
それ、口の回りの牛乳、拭いてあげます。
レッド、真剣な顔で窓を指差し。
「うしさん!」
「?」
「『もーもー』なきます」
「ですね」
「ポン姉も『もうもう』いいます」
「……」
「なのに『どらやききゅー』ですよ」
わたしの心でなにかが弾けた。
人目があるから、かろうじてブレーキ。
わたし、レッドの頭を「わしわし」撫でます。
「レッド、覚悟、できてますね?」
わたし、笑顔のつもり。
レッド、真っ青。
振り向けば、ポン吉とおじいちゃん、震えてます。
ポン吉、ポツリ。
「こ、コワイコワイがいる!」
ぎゃふん!
「ふふ、でも、レッドちゃんを手当てするのも最後かも」
「え?」
「保健の先生、雇ったのよ、明日から」
「そうなんですか」
えーいっ! 女性読者獲得のため、イケメン保健先生の投入だっ!