第72話「駄菓子屋さんにお買い物」
ミコちゃんが首を傾げながら、
「ねぇ、千代ちゃん」
「はい?」
「でも、なんでお店に遊びに……買い物に来てくれないのかしら?」
本当、小学校の子供達、なんでパン屋さんに来てくれないのかな?
「ふう、今日もあとちょっとです」
「うむ、ポン、頑張るのじゃ」
今はおやつの時間です。
お客さんもいないのでコンちゃんのテーブルで昨日の残りのパンをおやつ中。
テーブルにはあとミコちゃん・レッド・千代ちゃん。
レッド、メロンパンをおいしそうに食べています。
千代ちゃんもメロンパンを食べようとしてますよ。
「千代ちゃんっ!」
「な、なに? ポンちゃん!」
「千代ちゃん、食べてはいけません」
「?」
「メロンパンは百円なんですよ」
「これ、ポン、千代はよいではないか」
「コンちゃん、なに言ってるんですか、ここはお店」
みんなポカンとしています。
「千代ちゃんは家族じゃないから、お金を払わないと食べちゃダメなんです」
「胸が小さいと心も貧相になるのかのう~」
「こ、コンちゃん、なんて事を!」
「事実ではないか、千代、食べてよい、わらわが許す」
「いただきます」
「大体ポン、なにをいきなり言い出すのじゃ」
「そうよ、ポンちゃん、どうしたの?」
「コンちゃんもミコちゃんもわたしを攻撃してモウ!」
「実際変ではないか、どうかしたのかの?」
「コンちゃんもミコちゃんも考えた事ないんですか!」
「?」
二人とも「キョトン」としてます。
わたし、レッドと千代ちゃんを見て、
「コンちゃんもミコちゃんも、よーく思い出してください」
「だから何じゃ?」
「コンちゃん、いつもTV見てボンヤリだけど、お客さんくらい見てるでしょ」
「だから何じゃ?」
「学校の子供、全然お店に来ませんよ」
途端にコンちゃん・ミコちゃんの目、大きく見開かれました。
「ふむ、確かにそうじゃの」
「ポンちゃんの言う通りね」
ミコちゃん、千代ちゃんを見ながら、
「何で学校の子供は来ないのかしら?」
「あの……その事なんですけど……」
「何、千代ちゃん?」
「ポンちゃんも、みなさんも配達来ますよね」
わたしたち、頷きます。
「老人ホームや役場にも配達しますよね」
「千代、何が言いたいのじゃ」
「村は大体、見て回ってるんですよね」
「……」
わたしたち、キョトンとしちゃいます。
「子供、どこにいると思います?」
「え……」
「わたしはおばあちゃんの家に住んでます」
そう言われると……学校以外で子供って見た事ないかも。
わたし、ついつい聞いちゃいます。
「他の子供はバスで通学してるとか!」
「ううん、違う」
「じゃあ、子供はどこから?」
わたし、言ってから思いつきました。
「もしかして、みんな妖怪とか!」
「ぽ、ポンちゃん……」
「みんな妖怪だから、わたしのしっぽだけモフモフするんです」
そーなんですよ、みんなわたしのしっぽだけモフモフ。
レッドもたまに触られてるのを見ます。
でも、わたしほどじゃない。
コンちゃん、シロちゃん、みどりのしっぽをモフモフしてるの、あんまり見た事ないですよ。
千代ちゃんあきれ顔で、
「『村の』子供はあんまりいないの」
「じゃ、やっぱりバス通学とか!」
「ううん、寄宿舎に住んでるの、寮って言うのかな?」
「そ、そんなのがあるんだ!」
「老人ホームの空き部屋みたいだけど」
「そういえば、老人ホームは大きいから……」
「だから、村の子供はわたしとあと二人三人くらいだよ」
「そうだったんだ」
ミコちゃんが首を傾げながら、
「ねぇ、千代ちゃん」
「はい?」
「でも、なんでお店に遊びに……買い物に来てくれないのかしら?」
「それは……お小遣いなんてもらわないから……」
千代ちゃん力無く笑いながら、
「だって、村にはお金使うところなんてほとんどないし……」
それにはこっちも脱力ですよ。
「おやつは村長さんがここで買ったパンを出してるみたいです」
結局パンは売れていたわけです。
村長さん径由なのでピンと来なかったんでしょうね。
役場か老人ホームに配達したのが、おやつになってるんでしょう。
「不買運動ではなくてよかったのじゃ」
コンちゃんは別にどーでもいいみたいだけど……
「お店にお買い物に来て欲しいわね」
ミコちゃんは子供好きだから、残念みたいです。
千代ちゃん、ミコちゃんを見ながら、
「寄宿舎暮らしの子供もお小遣いもらうんです」
「え……さっきお金使うところなんてないって言ってなかった?」
わたし、千代ちゃんにジト目送っちゃいます。
「ポンちゃんは知らないの?」
「?」
「えーっと、寄宿舎の子供は一週間に百円もらうの」
「百円……千代ちゃんも?」
「わたしは全然……で、寄宿舎の子供は駄菓子屋に行くの」
「え!」
「ポンちゃん、駄菓子屋さん知らないの?」
わたしとコンちゃん、千代ちゃんに詰め寄ります。
「わたし、駄菓子屋さん知りません」
「わらわも知らぬのじゃ」
「ともかく……百円で買い物だから、ここには来れない」
ですね、百円だとパン一個だもん。
駄菓子屋さん、わたしだって知ってます。
漫画なんかではおばあちゃんが安いお菓子を売ってるお店ですよ。
「そんなお店、あったっけ?」
「ポンちゃん、知らないの!」
「え……ミコちゃんは知ってるの!」
わたしとコンちゃん、ミコちゃんに詰め寄ります。
「ミコちゃん、駄菓子屋さん、どこ?」
「神社の下には広場あるでしょ、あそこにあるわよ」
たまおちゃんの守っている神社の下には広場があります。
普段は駐車場に使われてて、お祭りの時には櫓が立つの。
「そ、そんなお店、あったっけ?」
「そうじゃそうじゃ、お店なぞ、ないのじゃ」
ミコちゃん、微笑みながら、
「タバコの看板、見た事あるでしょ」
ああ、言われたら思い出しました。
タバコの看板のお店があるんです。
「タバコ屋さん……わたし苦手かも……コンちゃんは?」
「わらわもタバコはたしなまぬからのう……」
わたしもコンちゃんも興味なしで、素通りだったみたい。
そんなわけで、お小遣いもらって駄菓子屋さんにお買い物に行く事になりました。
駄菓子屋さん、発見です。
ってか、神社に配達の時に前を通るんです。
でも、通りに面したところには、タバコ屋さんしか見えません。
「ポンちゃん、こっちこっち」
千代ちゃんに案内されて路地に入ると……マンガで見た事あるお店です。
奥からおばあちゃんが出てきました。
「あら、めずらしいお客さんだね」
「こんにちは……はじめまして……」
「いつも神社に配達に行ってるタヌキ娘だね」
「見てたんですか?」
「そっちのお姉さんはキツネ娘だね……そして……」
おばあちゃんの服を引っ張ってるのはレッドです。
「キツネがたくさんだね」
「けのいろがあかいからレッド」
「はいはい、いらっしゃい」
レッドは千代ちゃんに連れられて、お菓子を見に行っちゃいました。
わたしとコンちゃんはベンチに腰をおろして、
「おばあちゃん、いつも見てたんですか?」
「うん……あんた達はお祭りでプロレスやってるからね」
うう……プロレスの事は触れてほしくないところです。
「お店に遊びに来ないか、待っていたんだけどね」
「ここ、ちょっと入っていて表から見えないんです」
「タバコ屋の看板があるだろう」
これにはコンちゃんが、
「わらわ、タバコは好かんのじゃ、煙い」
「キツネ娘はタバコが似合いそうないい女なんだけどね」
「褒めても何も出んのじゃ」
「あんたらも何か買わないのかね?」
言われました。
わたしもコンちゃんも百円もらってます。
「コンちゃん、なに買おうか?」
「ポン、おぬし、一応設定では中学生じゃろうが」
「まぁ、そんな感じの設定です」
「駄菓子屋という歳かの」
「でも~」
レッドと千代ちゃん、ザルを手に楽しそう。
うーん、でも、ちょっと大人な買い物をするべきなんでしょうか?
「ね~、コンちゃ~ん」
「むう、確かにせっかくの百円じゃしのう……」
わたしとコンちゃん、お店を見回してピンと来ました。
「かき氷!」
「かき氷なのじゃ」
わたしとコンちゃん、同時です。
かき氷は五十円、このお店のお菓子では高い方ですよ。
「お好み焼き」「もんじゃ焼き」ってあるけど二百円です。
「あんたらの母親もかき氷を食べてたよ」
「あの……おばあちゃん、母親ってだれ?」
「うん? 長い黒髪の綺麗な」
「ミコちゃんはお母さんではないですよ」
「そうかい、しっかりしていそうだから、母親かと思ったよ」
おばあちゃん、機械を操作してかき氷をカップに山盛り。
「何味かね?」
「わたし、メロン」
「わらわはイチゴなのじゃ」
すぐに緑と赤のかき氷出てきました。
コンちゃん、すぐに一口、苦味走った顔でこめかみをおさえてます。
わたし、キーンとするのが嫌だから、ゆっくり食べますよ。
「今日は来てくれて嬉しいよ」
「そうですか……あの、ミコちゃんよく来てるんです?」
「ここにどら焼き、配達してもらってるけどね」
「そうなんだ……わたし、たまたま当番じゃないのかも」
「そうだね、配達頼んだのは最近だしね」
「そうなんだ」
「あんたやキツネ娘は、さっさとこの前を通り過ぎるだろ」
「うーん……神社に配達したら学校や老人ホームもあるから」
「あんたらの母親……ミコちゃんだっけ、結構ゆっくりなんだよ」
おばあちゃん、笑いながら、
「だから、歩いている時、呼び止められたんだよ」
「そうなんだ」
あ、レッドと千代ちゃんが来ました。
ザルにラムネやガム、うまー某がたくさん。
おばあちゃん、そんなお菓子を新聞紙で作った袋に入れてくれます。
レッドはコンちゃんにお菓子を見せながら、
「コン姉~、たくさんげっと~」
「レッド、それは持ち帰って、一日一個なのじゃ」
「え~」
「ごはんが入らんようになるであろうが」
「なるほど~」
「ほれ、わらわのかき氷をやるゆえ、お菓子は明日のお楽しみじゃ」
「わーい!」
コンちゃん、氷イチゴをレッドにあげちゃいます。
『コンちゃん、頭がキーンとしたんだよね』
『楽しんでおったのじゃ、あのキーンがかき氷の醍醐味なのじゃ』
『つよがり~』
わたしも千代ちゃんにかき氷あげちゃいましょう。
レッドと千代ちゃん、並んでベンチに座って食べてますよ。
「じゃ、これからわたしも配達に来るかも」
「ふふ、その時はよろしくね、タヌキ娘」
「わたしのことはポンちゃんでお願いします」
「ふむ、ポンちゃん……で、そっちのキツネ娘は?」
「わらわはコンちゃんと呼ぶのじゃ」
「ふふ、コンちゃんよろしくね」
コンちゃん、ちらっとおばあちゃんを見ると、
「残念じゃが、わらわはもう、こんな店には来んのじゃ」
コンちゃん、腕組みして歩き始めます。
「駄菓子屋とは子供の社交場なのじゃ、大人の女は来ないのじゃ」
行っちゃいました。
「あのあの、おばあちゃん!」
「うん、何だい、ポンちゃん」
「コンちゃんがあんな事言ってすみません、ごめんなさい」
「なーに、いいんだよ、確かに子供の社交場だしねぇ」
「ふふ、わたしはまだ中学生って設定だから、遊びに来ますね」
「じゃ、ポンちゃん、お小遣い持って遊びに来てね」
さっそく駄菓子屋さんからどら焼きの注文です。
お店にお客さんはいなかったけど、コンちゃんも学校の配達から戻って来ないの。
そんなわけで、わたしが配達です。
今日はシロちゃんと一緒ですよ。
「コンちゃん学校でサボってるのかなぁ~」
「コンちゃんらしいであります」
「でもでも、駄菓子屋さんに配達は楽しいかも」
「ああ、あのお店でありますね」
「シロちゃんは知ってたの?」
「ええ、駐在さんと一緒にパトロールしていましたし、今もパトロールで寄っているであります」
「えー、早く教えてくれればいいのに~」
「聞かれた事、ないでありますよ」
「そういえば、そうかも」
さ、到着です。
お店の戸をカラカラいわせて開けます。
「配達で~す」
「いらっしゃい、ポンちゃん」
クンクン。
なにかいい匂いがしますよ。
シロちゃんもクンクンしてます。
「おばあちゃん、美味しいにおいがしますよ」
「それなんだけどね……」
おばあちゃん、笑ってます。
なにかな?
「これ……」
お店の奥はお座敷なんですね。
おそば屋さんで働いていたから知ってるんです。
「あ……」
わたしとシロちゃん、一緒になって声出ちゃいます。
コンちゃんがお好み食べて、スヤスヤ寝息をたてているところですよ。
「食べてから、お金持ってないって言うからね……来てもらったの」
「うう……すみません~」
コンちゃん、子供の社交場とか言ってたくせに、なんて事でしょう。
あ、コンちゃん、寝返り打って寝言です。
「おばばよ、うまいの、もっと焼くのじゃ……ムニャムニャ」
今のコンちゃんは子供です……モウ!
夜ふかししたり…
お母さんの言う事をきかなかったり…
そんな悪い子には「コワイコワイ」!
良い子のみなさん、お母さんを困らせないでください。
とばっちり食らうのはお父さんなんだからモウ!