第70話「長老のおそば屋さん」
観光バスが五台だそーです。
わたし、パン屋の娘だけど、今回はおそば屋さんのヘルプなの。
ふふ、ぽんた王国で働いた事あるから、ばっちりです。
蝶のように舞い、配膳しちゃうんだから!
みんなわたしを見直すんですええ!
「じゃ、みどり、頑張ってね」
「ちょ……アンタはどーすんのよ!」
「わたしは老人ホームに配達だから、ここでお別れです」
朝の学校前。
わたしは老人ホームに配達ついでにみどり・レッドと一緒だったんです。
「お、お昼のパンはどーすんのよ!」
「パンはまた後で配達しますよ」
みどり、もう学校に慣れたと思うんだけど……別れる時は不安そう。
ポン吉かポン太・千代ちゃんでも出てくればサッと離れられるんだけど。
「じゃ、老人ホームの配達終ったら寄ってくから」
「ふ、ふん……アンタがそう言うなら、待っててあげるんだから」
「はいはい、じゃあね」
いい感じでポン吉登場です。
みどりとレッドはポン吉と一緒に行っちゃいました。
さーて、わたしも配達に行かないと。
老人ホームの朝イチの配達は、おじいちゃんの食べる分と職員さんの分なの。
おじいちゃんで何人かは、パンを食べるんだって。
わたし、毎朝ミコちゃんのごはん食べてるけど……
パンの時とごはんの時があります。
ごはんの方がもつから好きかな。
パンは……前の日の残りだからか、ちょっと残念な気分。
でも、そんな時もレッドを見ながら食べるといいんです。
レッド、朝から美味しそうにモリモリ食べるんですよね。
「!!」
学校の一角を改装して作ったおそば屋さん。
いつも閉まってるように見えるんだけど……
今日は表にタヌキの焼き物が出ています。
のほほーんとして宙のどこかを見つめています。
「ぽんた王国」の一件で長老はこれをわたしと間違いました。
どこをどー間違ったらこれがわたしなんですか!
「どうしたのかな?」
信楽焼きのタヌキはいますが……
お店に明りは灯ってません。
中を覗いてみたけど、薄暗くてがらーん。
クンクンしてみると、長老のにおいがします。
今はいないけど……さっきまではいたみたいですね。
そんなわけで、老人ホームに配達に行って、帰りにまた覗いてみます。
今度はのれんも出ていて、中から話し声が!
「やってますか~?」
わたし、コソコソ覗いて見ます。
でもでも、よく考えたら長老のおそば屋さんです。
コソコソする必要ないんですけどね。
見れば奥の調理場で長老とたまおちゃんが話しています。
なにかな?
「あ、ポンちゃん」
「たまおちゃん、どうしたの?」
「うん……今日は観光バスが五台来るから、食事の件で」
「五……五台!」
「店長さんやミコお姉さまには伝えておいたけど……」
「今、覚悟できたからいいや」
「じゃあ、お願いしますね」
たまおちゃん、行っちゃいました。
わたし、おそば屋さんを見回します。
「ねぇ、長老」
「はい、何ですか、ポンちゃん」
「観光バス五台だって……大丈夫?」
「『ぽんた王国』の時に経験ありますから」
「いや……このおそば屋さんは『ぽんた王国』より小さい」
「学校の体育館を借りるので……今日は給食もおそばです」
「そうなんだ」
「でも、五台はちょっと大変……ポン太とポン吉にも手伝ってもらいましょう」
「じゃ、頑張って……」
わたし、本能が「逃げろ」って囁いていたんですよ。
でも、長老につかまっちゃいました。
「ちょっ……なにするんですか!」
「ポンちゃんも是非、手伝ってください」
「えー、わたしもパン屋さんが……バス五台は大変なんだよ」
一度に五台じゃないだろうけど、二台いっぺんに来るのは覚悟しないとダメでしょう。
長老、まだ離してくれません。
「バイト代出るならやってもいいかな~」
ふふ、ふっかけてやるんです。
長老、手を放しましたよ。
「わたし、『ぽんた王国』の時のバイト代ももらってな~い」
「ふむ……その事なんですが……」
長老、ノートを出してきました。
上に名前があって……下にメニュー?
「工事の方がツケで食べられるわけですが……」
「はぁ……」
「コンちゃんもツケをためているわけで……」
「はぁ!」
コンちゃん、すごい食べてます。
天ザルにいなり寿しのセットを十。
あと、お酒も結構飲んでますね。
「ちょっ……どゆこと?」
「コンちゃん……昼の三時頃みえますね、老人ホームの帰りとか」
「うわ、帰りが遅い時あるからなにやってるのかと思えば」
「ツケを払ってもらいたいですね」
「わ、わたしに言われても!」
「それもそうですね……」
帰ろう、逃げようとしたらつかまっちゃいました。
あっという間に縄でぐるぐる巻きです。
「卑弥呼さまに電話で聞いてみましょう」
長老、早速電話です。
すぐに繋がって、一言二言言葉を交えると、お店の中が輝き出しました。
「ちょっと、長老さん、コンちゃんのツケってなにっ!」
「ミコちゃん!」
「卑弥呼さま、お待ちしておりました」
ミコちゃん、テレポートで登場です。
それがあれば配達なんて一瞬な気もしますが、突っ込まないでおきましょう。
そんなミコちゃん、片手に電話の子機、もう片手にコンちゃん。
コンちゃんはゴット・アロー受けたのかすすけてます。
長老はツケ・ノートをミコちゃんに見せなから、
「卑弥呼さま、コンちゃんのツケを払っていただきたいです」
ミコちゃん、ノートをじっと見てから、手にしていた子機をカウンターに置きます。
それから指を三度鳴らすと、コンちゃん三回しびれました。
「コンちゃん、これ、説明してっ!」
うわ、ミコちゃんおかんむり。
「そ、そこのじじいが食うてよいと言うたのじゃ」
また、指が鳴ってしびれます。
「つ、ツケで食べたのじゃ……」
「まったくモウ」
ミコちゃん、腕組みして、
「ツケを払った方がいいのかしら……それとも働いて払った方がいいのかしら?」
「後者でおねがいします」
長老の言葉にミコちゃんも頷いて、
「やっぱり私?」
「いえ……神である卑弥呼さまを働かせる事はできません」
「じゃ、コンちゃんでいいの? ツケの本人だし」
「ですね、いつも見ていて、コンちゃんでしたら看板娘として……」
「でも、コンちゃん、全然働かないわよ」
「え……」
「気分屋だし……」
ミコちゃんの言葉にコンちゃんの髪がうねっています。
「ミコ、なんじゃと、わらわがまったくのダメダメのようではないかのっ!」
ああ、コンちゃんの手に「ブウン」なんて音をさせてゴット・ソード出現。
でも、即ミコちゃんの指が鳴って、コンちゃんしびれてダウンです。
コンちゃんもミコちゃんにかなわないんだから、おとなしくしてればいいのに。
「では、ポンちゃんをお借りします」
「ちょ、ちょっと、長老!」
「何ですか、ポンちゃん?」
「ツケの本人はあっち」
「コンちゃんを御するのは、術が使えないとダメそうです、それに……」
「それに?」
「ポンちゃんは『ぽんた王国』でも働いていたから、研修不要です」
「むー!」
「久しぶりにポンちゃんと一緒に働けてうれしいですよ」
そう言われると、悪い気もしません。
でもでも、まさか「言うだ」けじゃないですよね?
ともかく、久しぶりのおそば屋さん、頑張りますよ~
そんなわけでわたし、ポン太・ポン吉と一緒に体育館で配膳です。
「ちょ、アンタ、なにやってんのよっ!」
「あ、みどり……わたしは今、仕事でいそがしいんです」
「パン屋さんは?」
「大人の事情で今はそば屋の娘なんですよ」
「……」
じっと見てます。
観光バス第一陣をさばいた後なので、ちょっとゆっくり。
「みどり、どうしました?」
「……」
「今日の給食もおそばになったと思うんだけど……」
「アンタ……おそば屋さんで働いていたの?」
「まぁ、ちょっとの間だけどね」
みどりがじっと見てたけど、ポン太が次の観光バスが来た合図を出してます。
わたし、みどりに手を振って、さっさと食事を並べないと。
ポン太がどんどんザルそばを盛って、天ぷらを揚げます。
ポン吉がテーブルを整えて、わたしがどんどん運びます。
全席準備出来たところで、体育館のドアオープン。
セーフ、間に合いました~
三人でお客さんを席に案内して、とりあえず食事が始まったら一息つけますよ。
「ポン姉、さすがです」
「ふふ、ポン太に誉められたら本物ですか」
「オレもポン姉、尊敬するよ」
「ふふ、ポン吉にほめられると嬉しいですね」
ちょっとしかおそば屋さんでは働かなかったけど、配膳だけならばっちりです。
パン屋さんだって、トレイを運んだりパンを追加したりで、レジに立ってるだけじゃないんだから。
「あのっ!」
あ、ミコちゃんです。
わたし達三人の所にやって来ると、
「観光バス、五台だったんだけど……」
ミコちゃん、ポン太とポン吉を見ながら、
「台数増えたみたいで、パン屋さんも大変なのよ」
「え……そうなの?」
「二台追加なんだけど……大丈夫?」
不安そうなミコちゃんの顔。
でも、ポン太は微笑んで、
「おそばの在庫まだあったから、大丈夫ですよ」
わたしとポン吉、テーブル回りで大忙しです。
ポン太と長老、一緒におそばを茹でて大回転。
追加二台の観光バスもチームワークで突破です。
最後の観光バスが学校を出た時、外で見守っていた生徒達から拍手がわき起ったり。
「やったー、ミッションコンプリート!」
って、体育館にミコちゃん、コンちゃん、シロちゃん入って来ます。
「あ、みんな、パン屋さんは大丈夫なの?」
「うむ、ポン、心配にはおよばん、今は店長がクッキーを売っておるのじゃ」
パンは全部売れちゃったみたいですね。
あれだけ一度に観光バスが来たら、しょうがないかも。
「本官、びっくりであります」
「?」
「ポンちゃん、そば屋の娘でも充分通用しそうであります」
「あー、わたし、ぽんた王国で働いていたから」
ミコちゃん、腕組みして考える顔。
シリアスな口調で、
「ポンちゃん、おそば屋さんにトレード?」
ああ、みんな拍手してます。
「わ、わたし絶対嫌っ!」
「わらわ、そば屋がよいと思うがの」
「本官も、転職がよいと思うであります」
「なかなか様になってたわよねぇ~」
むむ、コンちゃんもシロちゃんもミコちゃんも!
まさかわたしを本気で追い出す気じゃないでしょうね!
「ボクはコン姉がいい……」
「オレはシロ姉がいい……」
ポン太・ポン吉、あんな事言ってます。
おそば屋の娘は嫌だけど……なんかくやしいですっ!
「ポン太もポン吉も、温泉入った事は?」
「ぽんた王国の近くに温泉はあったけど……しっぽあるから」
「あ~、なるほどね」
「この村は……あんまり気にしませんよね」
そんなわけで、ポン太・ポン吉それにレッドを連れて温泉です!