第66話「レッドの1日」
店長さんが走ってきます。
タキシード店長さんです。
はわわ、わたし、ウエディングドレスですよ。
見回せば、なんだか天使も舞っています。
こ、これはいよいよ結婚ですね。
「ポンちゃんっ!」
「はい?」
店長さんが走ってきます。
なにかな?
むむ、いつもと格好、ちがいますね。
タキシード店長さんです。
「ポンちゃんっ!」
「はい?」
はわわ、わたし、ウエディングドレスですよ。
見回せば、なんだか天使も舞っています。
こ、これはいよいよ結婚ですね。
「ポンちゃん、好きだっ!」
「店長さん、わたしもっ!」
「さぁ、目を閉じてっ!」
「は、はいっ!」
目、閉じました。
ドッキドキだよ。
店長さんの手、わたしの肩を握ってるっ!
店長さんの体、胸と胸でふれているっ!
店長さんの息、すぐ近くで感じられますっ!
目、閉じてたってわかるんだからっ!
「チュウチュウ!」
「!!」
「チュウチュウ!」
ああ……もう「夢」ってわかっちゃいました。
目、開けるまでもないですよ。
キスしてるのは…
ほーら、目を開けたらレッドです。
「チュウチュウ!」
「レッド……」
「チュウチュウ!」
キスしてるレッドの頭、つかまえます。
「レッド、なにやってんですか!」
「おめざのキッス~」
「レッドはキツネさんですよね?」
「は~い」
レッド、まだわたしにキスしようとしてます。
「チュウチュウいうのはネズミさんですよ」
「あはは~」
「それに……女の子の唇に安々とキスしちゃダメなんですよ」
「おんなのことはだれ?」
そーれ、レッドのこめかみ、グリグリしちゃいます。
「レッドはわたしの事、好きですか?」
「すきすき~」
「結婚しますか?」
「えー!」
それ、こめかみグリグリ。
レッド、もだえてます。
痛いんだか嬉しいんだか。
「チョップ」効いてないみたいだから「こめかみグリグリ」なんだけど……
「しっぽブラーン」がいいかもしれません。今はポン吉専用だけどね。
「あ、レッド……」
「なになに~」
「コンちゃんが寝てますよ」
「?」
「ほら、お目覚めのキッスを!」
レッド、頬染め&モジモジしながら、
「はずかしい~」
わたしの時ははずかしくない……んですね。
むー!
「ミコちゃんも?」
「みんなキスされたんじゃないのかしら」
「どうしてお目覚めのキスなんか……」
「TVじゃないの……最近アメリカのドラマ見てるから」
そんな事を話しながら、朝食の後片付けです。
「そうそう、今日の配達、いいかしら?」
「うん……どこ?」
ミコちゃんの持ってきたのは学校用のバスケットです。
朝から学校? 老人ホームじゃないのかな?
「いいのよ、学校にお願い」
「朝からですか? 給食用はゆっくりでも……」
わたし、この間まで「ぽんた王国」でそば屋の娘だったけど……
パン屋さんの仕事を忘れたわけじゃないんですよ。
「ポンちゃん帰って来たから、みんなにお知らせも兼ねてね」
「なるほど……」
「あと……レッドちゃんのお目覚めキッスで気付かなかった?」
「は?」
「最近、生傷絶えないのよ……いじめられてないかしら」
そ、それはないんじゃないのかなぁ~
村の学校、イジメはないと思うんだけど。
「どっちかというと……かわいがられてると思うよ」
「でもね……」
「ミコちゃん行けばいいのに」
「わたし、レッドちゃんの事ならモンスターペアレントになれそうだから」
「ミコちゃんレッドにぞっこんだもんね」
「それにね……今日から……」
足音が迫ってきます。
一人はレッド……足音軽い。
もう一人分、足音来ました。こっちも軽い。
見ればレッドとみどりがいます。
みどり……ランドセル背負ってますよ。
『みどりちゃん、学校に行くから、今日はポンちゃん付き添いで』
『なるほど……それで』
『レッドと一緒だけど……不安だろうからね』
『わたしもタヌキだし』
さて、バスケットを持ってみどりの前。
「さ、学校行こう」
わたしが差し出した手、みどりはじっと見つめてます。
そっと手を重ねて、にぎってきました。
「ふん、一緒に行ってあげるんだから!」
それはわたしの台詞じゃないかな?
「案内させてあげるんだから!」
みどり、こーゆーキャラみたいです。
おでこ広くて、眼鏡をしてて……委員長顔です。
「ほら、早くしなさいよ!」
むむ、生意気ですね。
その広いおでこにデコピンお見舞いした~い。
「ポン姉~、はやくはやく~」
振り向けばレッド、わたしのしっぽをモフモフしながらピョンピョンしてます。
「手、繋いで行くんですよ……」
「どうやって?」
そうだ、片手はみどりとつないでます。
もう片方はバスケットでふさがってます。
「モフモ~フ!」
くっ!
朝のキスといい、レッドにやられっぱなしです。
学校には熟女の村長さんです。
「ポンちゃんおはよう」
「おはようございます」
「うふふ、やっぱりパン屋さんがお似合いね」
「どうも……」
わたし、村長さんジト目しながら、
「ぽんた王国の時も助けてほしかったです」
村長さん微笑みながら顔を寄せてきます。
『今日、来てもらったのは解ってるのよね?』
『ミコちゃんから聞いてます……みどりですよね?』
『そこまで解ってるならいいわ……今日一日付き添ってあげてね』
わたしと村長さん、みどりとレッドを見ます。
レッド、ニコニコ顔でみどりの手を握ってます。
みどりが眼鏡だから、レッドは嬉しいんでしょうね。
問題のみどり……緊張してますね。
ちょっと震えているみたい。
そんなみどりの視線の先……吉田先生です。
髭面で、初対面だとこわいかもしれません。
「おはようございます」
職員室のドアが開いて元気な女の子の声。
「ポンちゃん、パン屋さん復帰おめでとう」
「千代ちゃん、ありがとう」
「新入生を案内するので来たんだけど……」
わたし、目で合図。
千代ちゃんウィンクで返してきました。
即、みどりの手を握って、
「はじめまして」
「ははははじめまして!」
「わたしは千代子……千代って呼んでね」
「ち、ちよ……」
「名前は?」
って、レッド割り込みです。
「ちよちゃ~、レッド、けのいろがあかいからレッド」
「レッドちゃん、おはよう」
千代ちゃん、レッドをだっこしてみどりを見てます。
「名前は?」
「みどり……」
「みどりちゃんは、ポンちゃんの妹?」
「ううん」
「よかったね、ポンちゃんの妹じゃなくて」
カチン!
「千代ちゃんっ! なにっ! それっ!」
千代ちゃん、みどりとレッドを連れてさっさと行っちゃいます。
一瞬ちらっとこっち見ましたよ。
笑ってます。
ああ、でも、みどりも笑って一緒に行っちゃいました。
仲良くなる作戦だったのかな。
でも、後でチョップしないと気が済まないかも。
「千代ちゃんも眼鏡だから、仲良くなれたのかしら」
「ですね、千代ちゃんしっかりしてそーだから」
「ポンちゃん、必要ないかしら?」
「ああ、その事なんですけど……」
「?」
「レッド、生傷絶えないそうです」
「?」
「ミコちゃんがイジメを心配してます」
「ここの子がイジメは……ちょっと考えにくいわね」
わたしもそー思うんです。
あ、でもでも!
わたし、吉田先生の所に行きます。
吉田先生、朝で生気のない顔で新聞眺めてます。
どことなく朝のコンちゃんと似てるかな。
「吉田先生、レッドをイジメてないですか?」
ああ、吉田先生ズッコケてます。違うみたい。
そんなわけで、一日学校を保護者参観です。
みどりは千代ちゃんにべったりでOKみたいだから、レッドを追いましょう。
イジメはないと思うけど、生傷絶えないのは事実だからね。
午前中半分は教室でお絵描きです。
残り半分……まず校長室に移動しておにぎりタイム。
それから算数とひらがなの勉強。
またまた教室に戻って給食を食べたら……また村長さん来ましたよ。
「レッドはこれからおやすみ」
「村長さん、どこに?」
保健室のベットで寝ちゃいましたよ。
最初は寝たくなさそうでしたが、絵本読んでもらってるうちに急速潜航です。
村長さんレッドの寝顔にニコニコしながら、
「最初預かってくれって相談あったときどうしようかと思ったけど……」
「思ったけど?」
「今はあと2~3人は幼稚園コース大丈夫な気がするわ」
で、レッドの「おねむ」が終ったら、午後は老人ホームです。
結局レッドが怪我するような事なかったですね。
「はて、どーして生傷が?」
村長さんも首を傾げて、
「でも、確かに怪我してるわよね」
わたし達の心配も知らないでレッドが、
「きょうはポン姉といっしょでした~」
「ですね、結婚したくなった?」
「え~!」
ほーら、こめかみグリグリです。
さて、帰ると……レッド、わたしの服引っ張りますよ。
「なんですか?」
「どっちぼーる、いっていい?」
「はいはい、行ってらっしゃい」
「わーい」
じゃ、わたし一人で帰るとしますか。
レッドは千代ちゃんが送ってくれるでしょ。
って……ドッチボールなんですが……
レッドが行ってから、なんか空気が変わりました。わたしでもわかる!
普段はすごい勢いで往復するボール。
でも、レッドに投げるときは「ゆっくり」「やさしく」ですよ。
むむむ、出来るな、村の子供達。
子供のくせに接待ドッチかよ!
「あ……」
声がもれちゃいます。
村長さんも一緒です。
「そ、村長さん、あれはどーすれば?」
「ドッチだめって、言えないわよね……」
敵が投げた!
ヘロヘロボールはレッドの前でバウンドです。
ワンバンボールは当ってもノーカンだからへっちゃら。
レッド、ボールをキャッチです。
な、なんでわざわざ後ろに転がるんですか。
ほこりまみれで立ち上がって、
「きょうれつ~」
ど、どこが!
変に格好つけなくていいのに。
「村長さん、どう注意したらいいんでしょう?」
「飽きるまでやらせるしかないんじゃない?」
じゃ、原因もわかったから帰るとしますか。
「ちょっとアンター!」
「あ、みどり……すっかり忘れてた」
「な、なんですって!」
怒ってわたしの服、引っ張りながら、
「アンタ、なんでいなくなっちゃうのよ!」
「……」
「今日は一緒にいてあげるって言ったのに!」
ちょっと目、涙ぐんでるかな?
なんで千代ちゃんいないのかなぁ。
ちょっと面倒くさいです。
あ、千代ちゃん、靴箱の所からこっちをチラ見してますよ。
わざとやってるな。
「なんで一緒にいないのよ!」
「はいはい、ごめんゴメン」
わたしが差し出した手、握ってきます。
「バカバカ、どこ行ってるのよモウ!」
半ベソで強がんないでください。
「みどり……学校楽しかったですか?」
「うん……楽しかった」
「よかったね」
「うん」
「きゃーっ!」
「みどり、どーしたの?」
「ててて敵ーっ!」
叫んでから、気を失っちゃいました。
いきなりなんなんでしょうね?