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腹ペコ人狼さんと夜更かし赤ずきん(中編)

直接的な描写はありませんが、セクハラぐらいの描写とヤンデレ要素があるので苦手な方はご注意ください。

コトッと私の目の前に最後のお皿が並べられる。

暖かそうな湯気を出すポトフ、しっとりとしたミートローフ、こんがり焼けたかぼちゃパイ。全部私の好物ばっかり。

最後に私が持参した葡萄酒をグラスに注げば立派なディナーになるだろう。

食事を前に私が固まっていると、イケメンは不思議そうに首をかしげた。

「レイチェルお腹すいてるんでしょ?食べないの?」

「え・・・あ・・・お腹はすいてるんだけど、その前に聞きたいことがあるっていうか・・・。」

「聞きたいこと?」

いや、そんな不思議そうにしなくても、イケメンが私の立場だったら腐るほど質問あるでしょう。

名前とか、おばあさんの知り合いなのかとか、なんで私の名前知ってるのかとか、おばあさんはどこかとか。

「えっと・・・まずあなたは誰?私はおばあさんのお見舞いに来たんだけど、おばあさんはどこかしら。」

「あ!そうだよね、びっくりするよね。レイチェルに会えたのがうれしくってうっかりしてたよ。でも、料理が覚めてしまうから食べながら話そう。」

ニコニコと目を細めて嬉しそうに目の前のイケメンが笑う。

けれど彼の前には葡萄酒のグラスしか置かれていない。

「あなたは食べないの?」

「ああ・・・。俺はいいんだ。レイチェルが食べているのを見たら満足だよ。」

ニコニコしながらそういわれると、おなかもすいているし、何となく逆らえない。

私は頷いてポトフを一口食べた。

小さなころから食べなれたおばあさんのポトフの味がする。

・・・なんで私の名前を知っているかも後でしっかり尋問させてもらおう。

「俺の名前はヨハン。この森に棲んでて、マーブルとは仲良しなんだ。それで、ちょくちょくこの家に遊びに来てたんだ。」

ほう。イケメンの名前はヨハンというらしい。

しかし、ヨハンはパッと見20代前半の青年という感じだ。60歳過ぎのおばあさんと仲良しで家に行きかう仲って・・・え!?まさかおばあさんの愛人!?私のおじいさん候補なの!?

私がミートローフを切り分けながら一人で混乱していると、それに気づいていないのか、ヨハンは話を続ける。

「それで、マーブルのことなんだけど。マーブルが腰を痛めてたのは知ってるよね?」

「え?ええ。それで私はお見舞いに来たからね。ぎっくり腰だって聞いたけど。」

ヨハンの言葉に頷くと、ヨハンは悩まし気に眉をひそめた。

「そう。それで、俺も今日様子を見に来たんだけど、マーブルがひどくつらそうな様子で床に倒れこんでいたから、ただ事じゃないと思って町の病院に連れていったんだ。そしたら・・・。」

「そ、そしたら?」

ツゥーッと私の額に汗が流れる。あの頑丈なおばあさんに一体何が・・・!?

「ぎっくり腰じゃなくって椎間板ヘルニアだったらしくて。マーブルは安静にしなさそうだから入院することになったんだ。けど、君たち家族に連絡を取ろうにも俺は連絡先を知らないし、どうしたものかと思ってマーブルの家にいたら、いつのまにか寝ちゃってて・・・。」

「私が来て、あなたを起こしちゃったってわけね。」

どうやらおばあさんは無事らしい。私はほっと胸をなでおろした。

しかし、ヨハンとおばあさんの愛人疑惑は晴れたわけではない。

どう聞き出すのがいいのだろう。正直身内のそういった話はあまり聞きたくないけれど。

「ねぇ、ヨハンはその・・・おばあさんのことが好きなのかしら?」

とりあえず、まどろっこしいのは苦手だから直球で聞くことにする。

「え?そりゃあ好きだけど。」

愛人確定・・・!!!

これでほとんどの謎は解けたというものだ。

おばあさんの愛人だから、おばあさんの家に出入りしていた。

おばあさんの愛人だから、おばあさんの家のものに詳しい。

おばあさんの愛人だから、孫娘である私の名前を知っている。

万事解決してしまった。・・・でもこんな母さんと父さんより若いおじいさんなんて母さん嫌がるんじゃないかな。ああ、だから紹介が今までなかったのかしら。

それとも他の・・・あっ!

「ねぇヨハン。気を悪くしたら悪いのだけれど、一つ聞いていい?」

「なに?」

私は、ごくり、と息をのむ。たぶんあっていると思うけれど、違っていたらどうしよう。

彼は私のおじいさんになるかもしれないのに。

「あなたって人間じゃない・・・というか、人狼、よね?」

私がそういうと、ヨハンはたちまちとても悲しそうな顔になって、その瞳は絶望したかのように、虚ろになった。

あまりの変わり身に私はビクつく。

「・・・そうだったら、レイチェルは嫌?やっぱり人間がいいの?」

「え・・・?いや、私自身はあまりそういうのにこだわりはないけど・・・。あなたを起こしてしまった時、尻尾みたいなのが見えた気がして。」

このご時世、私の住む村は閉鎖的だからともかくとして、王都のほうでは親族に人狼のような人外の人がいるのも珍しくないという。私はバリバリの現代っ子なので、人狼だからどーとかこーとかはあまり気にしない性質だ。というか犬派なので、よければ尻尾とかを触らせてもらいたいくらい。

そういうと、ヨハンの表情はこの世の終わりを見た人ってこんな顔かな?と思うような絶望顔から一転して、パっと明るく笑顔になった。

「そう!レイチェルがそういってくれてうれしいよ!俺は確かに人狼だよ。ほら。」

ポンっと軽い音がして、ヨハンの体が一瞬ぶれる。

パチリと瞬きをしてから改めて見ると、毛先のほうが黒くて、てっぺんに向かって灰色のグラデーションになっている耳と尻尾がふさふさと揺れていた。

とても触り心地がよさそうだ。

「私、人狼って初めて会った。この森に皆住んでいるの?」

かぼちゃパイをさっくりフォークで切りながら尋ねると、どこか恍惚とした様子でヨハンが答えた。

「いいや、この森に棲んでいるのは俺だけだよ。ふふふ、そっか、初めて人狼にあったんだぁ・・・。」

ぞくっ!

なぜだか急に寒気が・・・。

「ねぇ、レイチェルは今日は村に戻らないんだよね?」

「え?あ、うん。一応その予定。」

窓の外を見れば、もうとっぷりと日は暮れていて、手持ちのランプ一つだと夜の森は心もとない。それに今日はハロウィンの夜だから村だってひっそりしているだろうし、このままおばあさんの家に泊まる方が無難だろう。

おじいさん候補のヨハンになれそめとか聞いてみたいところではあるし。

「今日はもう暗いし、何よりハロウィンだ。マーブルの家にいたほうがいいよ。」

なぜだかヨハンは真剣な顔できっぱりと言う。そりゃあ私だって同じ考えだけど。

「暗いのはわかるけど・・・。ヨハンって人狼なのにハロウィンの夜のこと信じてるの?」

人狼が魔物を恐れるなんて聞いたことがない。人狼という種族は人間の何倍も力が強くて、魔人の中でも相当な力を持つのだと聞いている。もし本当に魔物が出たところで、人狼ならすぐに追い払ってしまえそうだけど。

「信じるも何も、あの村の風習じゃないか。レイチェルはいい子だから、参加したことないと思うけど・・・。」

またどこか薄暗い瞳でヨハンが私をじっと見る。

参加したことがないって、ハロウィンパーティのこと?

彼の中で私はハロウィンパーティにも誘われないぼっちな孫娘なんだろうか。

いくらなんでも私にだって村に友達くらいいる。村の友達と夕方までハロウィンパーティをしたり、仮装してお菓子をねだったことだってある。今日だって村の子どもたちにキャンディをあげるくらいにはイベントに参加しているつもりだ。

私はムッとして、葡萄酒を飲みほした。

「私だって参加したことあるもん!キャンディもらったり、あげたりしたことだってあるし・・・。私だって友達くらいいるのよ。」

そういうが早いか、ヨハンの瞳がまたどろりと濁った気がした。

ぴんっと耳を立てて、尻尾をゆらゆらさせながらヨハンは私をじっと見る。

「だれ?」

「え?」

「誰に誘われてレイチェルはそんなことしたの?」

「誰にって・・・。」

村の子どもたちとだけど。そんなこと言った同い年くらいの友達がいないみたいだ。いや、事実私より少し年上のお姉さんお兄さんやうんと年下の子は村にいるのだけど、同い年くらいというのは住んでいないから、そうなんだけれど。

「油断したなぁ・・・。」

ゆらゆら揺れる尻尾と同じように、ゆっくりとヨハンが立ちあがった。

え?なに?どうしたの?

「君はずっと変わらなかったし、俺だってできる限り見ていたつもりだったから君は綺麗なままだと思っていたけれど・・・違ったんだね。」

「え?は?ちょっ・・・!」

ヨハンはテーブルをよけて近づくと、私の腕をガっとつかむ。痛くはないけど、ガッチリと固定されて動けない・・・!

「俺はね、君にきちんと会えるようにってマーブルと約束して、ずっとずっと頑張っていたんだよ。君が好きな食べ物を作れるように練習だってしたし、君が森に入るときは危なくないように森の獣に言い聞かせたり、マーブルを病院に連れていったのだって、君が悲しむと思ったからなのに。」

「な、何の話してるの・・・?」

ちょっと本気でヨハンが何言ってるかわからない。

なんでこんなに怒ってるのかも、なんで腕をつかまれてるかもわからない。

怒ってるイケメン怖い。

「うひゃっ・・・!?」

ぺろりと頬を舐められる。信じられなくて思わずヨハンの顔をみると、彼はどろりと濁った死んだ目のまま、恍惚とした表情を浮かべていた。

「もういいよね?俺はたくさん我慢したし、君は初めてじゃないんだし・・・。君のキャンディを頂戴?」

「ひぅっ・・・!」

今度はかぶっていた赤い頭巾を外されて、カプリと耳を噛まれる。甘噛みだとは思うけど、ぞわぞわするし、なんか怖い・・・!

「いい匂い・・・。それにとっても甘くて本当にキャンディみたい・・・。俺はね、おなかペコペコなんだよ。ずーっとずーっと我慢していたから。

でも、こんなことになるなら早くレイチェルを食べてしまえばよかったね。」

か、かにばりずむ・・・!?

人狼は人を襲わないって聞いてたのに、やっぱりあれは嘘なの・・・!?

ってか孫娘になろうという私を食べたいとかどんだけ狂気的なの!?

「や、やだっ!」

ばりぼり食べられてたまるもんかと力の限りヨハンの胸を押してみるけれど、びくともしない。

ど、どうしよう・・・!

私が死ぬのも嫌だけど、おじいさん(候補)が孫娘を殺して食べたなんて知ったらおばあさんはどれだけ悲しむことか・・・!

「なんで抵抗するの?俺が嫌なの?俺が・・・俺が人狼だから・・・?」

ぶわっと尻尾の毛が膨らむ。なんか事態悪化してないですか!?

「じ、人狼とかそんなの関係なく食べられるなんて嫌に決まってるでしょ!

おじいさんなのに、なんでこんなことするのよぉ・・・・!」

あんまりにも怖くてじわじわと潤んでいた瞳から涙がこぼれる。それを見てヨハンはぐっと奥歯を噛みしめるように私を睨んだ。めっちゃ怖い。

「ああ、決めた相手以外嫌なんだ。でも安心していいよ。事が済み次第、相手は殺すから。レイチェルからキャンディをもらうなんて幸福を味わったんだ、死んだって悔いはないだろう?」

私だけじゃなく、村の子どもまで惨殺する気なの!?

「そ、そんなことしないでよっ・・・!あの子達は悪くないじゃないの!」

私はなんでだか機嫌を損ねてしまったみたいだけど、村の子どもたちは完全にとばっちりだ。かわいそうすぎる。

「あの子達・・・?一人じゃないんだ・・・。ふーん・・・。」

しまった!なんか悪化したっぽい!

「悪いことだらけだよ。君からキャンディをもらったんだもの。君からもらうのは俺だけのはずだったのに・・・。」

さっきからキャンディキャンディ言ってるけど、もしかしてヨハンはキャンディが欲しくてこんなことしてるの?キャンディを私が渡さないから怒ってるの?

お腹すいてるって言ってたし、もしかして人狼の主食ってキャンディなの?

・・・・・・一か八か!

私はヨハンに掴まれていない方の手を思いっきりポケットに突っ込むと、握れるだけのキャンディを握って、ヨハンの目の前に手を突き出した。

「これ!あげるから!」

手を開くと、勢い余ってキャンディがばらばらと零れ落ちる。ヨハンは一瞬キョトンとした顔をしたけれど、すぐにギッと私を睨みつけた。

「何のつもり?おちょくってるの?」

「ちがう!」

私は千切れんばかりにぶんぶんと首を振った。

「なんだかよくわからないけど、私がおじいさんになるヨハンに飴をあげないで、村の子どもたちにあげたのが嫌だったんでしょう?取り返してくるのはかわいそうだから無理だけど、残ってるのは全部あげる!・・・だから・・・。」

惨殺だけはやめてください!切実に!

「は?おじいさん候補?子ども?レイチェル、何言ってるの?」

「えっ?だからなんでだかわかんないけど、ヨハンは孫娘になる私が村の子どもたちとハロウィンパーティして、仮装した子にキャンディあげてたから怒ったんでしょ?

毎年やってたから今更抜けるのは子どもたちが悲しむかもしれないけど、殺されるのよりはましだし、おじいさんと良好な関係を築くためだもの、我慢してもらう。」

私がそういうと、あっけにとられた表情で、ヨハンが私の腕を離した。いつのまにか、どろりとした瞳ではなくなっている。

「レイチェル・・・。俺と君の間にはだいぶ誤解が生じているみたいだ。」

「え?」


全3話の予定なので、後編は今日の夜から明日の深夜にかけてのどこかでアップします。

※上記のようなことを言っていましたが、編集が思いがけず早く済んだのでUPさせていただきます。

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