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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第1章 異世界のチュートリアル編
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第07話 大鬼子

 

 鬱蒼と生い茂る森の中を進む、見るからに若い村人の集団がいた。

 10人くらいの男達だけで構成されており、ナイフに農具のクワや木こり斧など様々な物を手に持っている。

 

「親父から聞いたぜ。迷宮にいる魔人とか言う親玉を倒せば、国から報酬金がいっぱいでるんだとよ」

「本当かよ!」

 

 若者の1人が口を開くと、父親から聞いた話を自慢げに話す。

 魔人というのは人語を喋り、他の魔物達を指揮する知能を持つ危険な魔物である事を説明すると、それを知らぬ者達が感心した表情を見せた。

 

「へー。お前、詳しいな」

「よーし。じゃあ、俺がソイツをブッ飛ばしてリコナも連れ帰れば、ナテーシアちゃんが……グフフフ」


 ナテーシアというのは、村で行方不明になってるリコナの姉である。

 村一番の美人で、優しい性格と包容力のある大きな胸を持ち、村の若い独身男性の憧れの的になっていた。


「おいおい、ライデのことも忘れてやんなよ」

「野郎なんか助けても、全然嬉しかねぇよ。じゃあ、お前がライデを助けろよな」

「え? いや、俺はリコナをおんぶして、連れて帰らないといけないし、手が空いてないから」

「だよなー。村長や兄貴に感謝されても、全然嬉しくねーし」


 ナテーシアを狙ってる男性が多いというのは、村の中では周知の事実だ。

 しかし、そのナテーシアを村長の長男も狙ってるという噂があり、次の村長候補がライバルと聞いて面白くないと思ってる者も多い。

 要は、リコナ達を探しに出かけた若者達は、村一番の美人にカッコイイ所を見せようと、村人達の制止を聞かずに森の中へ入った者達なのだ。


「ライデも上手くやったよな。小さい頃から気に入られとけば、リコナもナテーシアちゃんみたいに、美人になるだろうからなー」

「ケッ、兄も兄なら、弟も弟だよ。村長の息子だからって、何様なんだよアイツらは。頭がちょっと良いだけで、喧嘩は大して強くない癖によ」

 

 彼らも年頃の男性だ。

 自分達の実力で認められるならまだしも、家の都合でお気に入りの女性を横から掠め取られるような行為は、見てて気分が悪いのだろう。


 実際問題、ナテーシアの父親は自分の娘の器量の良さを分かって、相手の男性を品定めしているところがある。

 自分の娘をより良い家の所に嫁がせたければ、村長の家族とのご近所付き合いを熱心にするのも仕方がないとは言えた。

 

「でも、ライデが本当に一緒なら、もうアイツも終わりだな」

「なんでだ?」

「お前、頭わりぃな。アイツは娘を魔物がいる所に、連れて行ったんだぜ? お前が、親父ならどうするよ?」

「なるほどなー。俺なら、ブッ飛ばすな!」

「ついでに村長もアイツも、ナテーシアちゃんに嫌われちまえばいいんだよ……」

 

 村長の息子達に対する愚痴や悪口を言いたい放題言いながら、一行は森の奥へ奥へと進んで行く。

 

「そういえば、親父達が魔物が魔物がって言ってたんだけど、どんな奴なんだ?」

「俺が見た奴は、お前と似たような大きさくらいで、赤い身体に角生えた奴だったよ」

「へー。お前くらいか、じゃあ勝てそうだな」

「どういう意味だよ、おい」

 

 森の中を、ゲラゲラと緊張感のかけらもない笑い声が木霊する。

 

「親父達も怖がり過ぎなんだよ。話を聞いててもさ、いつも狩ってる奴より、ちょっと強暴な奴が出てきたくらいにしか聞こえないんだよなー」

「そうそう。ぶっちゃけ魔物とか言われてもなー。この前、親父と狩りに行った時に会った、大猪の方が怖かったぜ」

 

 村で腕の良い狩人の息子達が、親父と狩りに行った時の武勇伝を語り始める。

 負けず嫌いの集団なのか、いつの間にか話の内容は自慢大会へと発展していく。

 

「へっ、鬼なんか怖かねぇよ。向こうの山まで狩りに行った時に、おおお、狼も怖がる俺様だぜ!」

「ほう。人の子は、鬼族を怖がらんのか? 勇ましい事だな」

「……ッ!?」

 

 狩人の息子が強気な発言をしていると、若者達の会話に割り込むように別の声が聞こえた。

 森の中から現れたのは、長身で体格の良い赤鬼。

 更にその後ろからも、ゾロゾロと赤子鬼が顔を出す。

 気付けば若い男10人を、30匹にもなる赤子鬼が取り囲んでいた。

 

「こいつが……親玉?」

 

 今まで見た事も無い巨漢の魔物を前にして、誰かが喉をごくりと鳴らす。

 集団の中で、一番背が高い者で170cm程度。

 

 しかし、目の前の赤鬼は身長が2mもあり、腕を組んで見下ろされると、圧倒されるものがある。

 身体は十分に鍛えられていることがすぐ分かるくらいに、筋肉が盛り上がっていた。

 頭からは拳大の白い角が2つ生え、耳まで裂けた醜悪な笑みを浮かべている。

 

「さて、ようやく人の子に会えたな。俺は大鬼子のダンザガだ。で、誰が相手をしてくれるのだ?」

「……」

「……? どうした、人の子よ。怯えて声も出ないか? 魔物の大将がやってきたのだ。俺の首を獲れば、英雄になれるぞ? それとも、その手に持っている武器は飾りか?」


 集団の中から比較的小柄な1人の若者が、静かに進み出る。

 ククリに似た、狩りをする時に使う湾曲刀を鞘から取り出すと、一気に大鬼子の懐へ駆け寄った。

 若者が振り上げた湾曲刀の先が、大鬼子の腹をかすめる。

 

 驚いたような表情をする大鬼子だったが、その後の斬撃は素早く避け、若者の懐へと潜り込む。

 大鬼子が拳を振り上げると同時に、若者が空高く宙を舞った。

 

「ムナザ!」

「今の小僧の不意討ちは、なかなか悪くなかったぞ……。だが、俺を仕留めるには、あと一歩足りないな。さあ、次は誰だ!」

 

 腹に刻まれた傷口から垂れる血を舐めとると、大鬼子が咆哮する。

 ムナザと呼ばれた若者に数人が駆け寄るが、内臓を損傷したのか口から血を吐いていた。

 それを見た若者達の顔が、恐怖に引きつる。

 

「糞が!」

 

 集団の中で最も身長の高い若者が斧を持ち、大鬼子に飛び掛かる。

 大きく振り下ろされた斧を軽々と避け、大鬼子が横腹に拳を突き入れた。

 苦悶の表情を浮かべた若者が、殴り飛ばされて派手に転倒する。


「グゥ……骨が……」

 

 肋骨でも折れたのか、仰向けに寝転がる若者が、胸を抑えながら激痛に苦しむ。

 その様子に、数人の若者の顔が血の気が引いたように、青ざめた顔になる。


「温い! そんな攻撃で、俺が殺せると思ってるのかッ!」

 

 怒りの表情で大鬼子が一喝すると、若者達が思わず小さな悲鳴を出す。

 その後を、3人の若者が続けて大鬼子に挑戦したが、完全に腰が引けていたため、大して活躍できず倒れ伏してしまう。

 

「なんだ、威勢が良かったのは口だけか?」

 

 1人の若者が落とした手斧を握りしめると、大鬼子を怯えるように見つめる若者達に向かって投げた。

 若者達の顔の横を掠めて、飛んだ手斧が木に深く突き刺さる。


「ヒッ!」

「ろくに武器も扱えん。やはり人とは所詮、この程度か。あの住処も、たいして大きくなさそうだったしな。これなら、こっちは子鬼だけで十分か。フンッ!」

「ぐあッ!」

 

 寝転がる若者の1人を蹴り飛ばすと、踵を返して森の方へ足を進めた。

 しかし、すぐさま振り返り、若者達を見ると凶悪な笑みを浮かべる。

 

「俺は他のところへ行く。こんな弱い奴の肉を、喰らってもしょうがないからな。お前達の住処を滅ぼして、殺した奴らを迷宮に放り込んでやる」


 大鬼子が鬼語で命令を出すと、10匹の赤子鬼達が前にでてくる。


「ヒィッ!」

「む、村へ逃げろ!」

 

 負傷してない者は我先にと村の方へ逃げ始め、辛うじて動ける者は足をもつれさせながら慌てて逃げ出す。

 その情けない後ろ姿を、醜悪な笑みを浮かべて赤子鬼達がしばらく眺める。

 

「グガ、グギャア!」

「グギャアアアア!」

 

 1匹の赤子鬼の奇声につられる様に、他の子鬼が奇声を上げながら、若者達を追いかけ始めた。






   *   *   *






 ハジマの村の南には、広大な山脈に隣接する森がある。

 自然豊かな森の中では小動物が走り回り、村人達が肉の食事を得る為に、その動物達を狩っていた。

 つい最近まで人が絶対強者であった森を、1人の若者が駆け抜ける。


「ハッ……ハッ……。なんで、こんな事に……」


 何度か転んだのか、服は土まみれで、顔にも泥がついていた。

 走り疲れたのか若者が立ち止まると、ふと後ろを振り返る。


「あれ? みんなは……」


 周りを見渡すが、先程まで一緒に走っていた者達はどこにもいなかった。

 戻ろうかと1歩踏み出したところで、突然に森の奥にある茂みが動き出す。

 聞き覚えのある奇声と共に、若者の身体が硬直する。

 視線の先で、赤い身体の一部が見え隠れしていた。

 

「ヒィッ!」

「グギャァア!」

「ッ!?」

 

 踵を返して走り始めようとしたタイミングで、突然に横から別の赤子鬼が飛び出て来る。

 身体にタックルを決められ、赤子鬼と一緒に地面を転がった。

 立ち上がろうとしたところで、3匹の赤子鬼に囲まれる。


「グギャア!」

「グギャギャ!」


 身を守るように、頭を手で押さえながら身体を丸めた。

 しかし、若者の身体に、次々と激しい蹴りが飛んでくる。

 

「グゥッ……」

 

 涙目になった状態で若者が前を見ると、他の2匹の赤子鬼に引きずられて、こっちにやって来る仲間が見えた。

 顔が青痣だらけで、酷い暴行を受けたのが伺える。

 それを見た若者の顔から血の気が引き、青ざめた顔に蹴りが飛んできた。

 

「ッ! ごめんなさい、ごめんなさい、許して下さい、殺さないで!」

 

 羞恥もプライドも捨てた様に、泣きじゃくりながら若者が懇願する。

 心の叫びが通じたのか、赤子鬼達のリンチが突然に止まった。

 

「……?」

 

 不思議そうな顔で、若者が上を見上げる。

 赤子鬼達は、別の所をじーっと見ていた。

 若者も同じ場所を見て、息を飲む。

 

 よく見れば、こちらを3匹の子鬼が、茂みの中から覗き込んでいた。

 肌の色は土色だが、頭から白い角が生えているから、間違いなく子鬼だと判断できる。

 

「ああ……」

 

 更に増えた新しい子鬼に、若者の口から絶望的な声が出た。

 

「グギャアア!」

 

 奇声を上げながら、土色の子鬼達が走って来る。

 呆然と見つめる若者の上を、土色の子鬼の身体が通り過ぎた。

 

「……え?」

 

 後ろを振り返ると、なぜか土色の子鬼が赤子鬼にタックルを決めて、馬乗りになった状態で顔面を殴りまくっている。

 周りを見渡せば、色違いの子鬼同士が喧嘩を始めていた。

 

「うぅ……痛い……」

「……!」


 先程まで別の赤子鬼達に暴行されていた仲間のうめき声が聞こえて、そちらに駆け寄る。


「た、立てるか?」

「……」

「死にたくなかったら、走れ!」

 

 無言で頷く仲間の肩を担ぐと、若者達はフラフラとした足取りで走り始めた。

 背後から、犬の遠吠えなようなモノを耳にしながらも、彼らは村に向かって逃げていく。






   *   *   *






「遠吠え?」

「オニ様、魔物です!」

「オォオオオン!」

 

 勇樹の近くにいた犬人が、相手の遠吠えに応える様に遠吠えをすると走り始めた。

 それを見て勇樹も追いかける。


 クレスティーナが何かを喋ると、1匹の子鬼がクレスティーナをお姫様抱っこしながら走り出す。

 悪魔幼女も早く走るのは苦手なのか、犬人におんぶされながら勇樹達を追走した。

 

「グギ、グギャギャ!」

「キュランピ、プルピプ!」

「ウォオオン!」

「グギャー!」

「ウォン! ウォン!」

 

 森の中に散らばっていた魔物達が、奇声を上げながら次々と顔を出し、勇樹達に合流する。

 足の速い魔物は次々と勇樹を追い抜いて、森の奥へと走って行く。

 

「オニ様、赤子鬼がいました! ……オニ様?」

「はぁ……はぁ……。今度から、真面目にランニングしねぇと。リアルを忠実に再現されると、やっぱキツイわ……」

 

 目的の場所に辿り着くと、汗だくになった勇樹が地面に腰を下ろす。

 勇樹とクレスティーナの目の前では、魔物達の大乱闘が行われていた。

 

 赤子鬼が5匹に対して、勇樹側の魔物は犬人が6匹に子鬼が9匹と、倍以上の数で応戦している。

 数の暴力には敵わないのか、傍目から見ても優勢に見えた。

 

 子鬼に後ろから羽交い絞めされた赤子鬼の首元に、犬人が噛みついたり。

 押し倒された赤子鬼を子鬼達が押さえつけて、相手に青痣ができるくらいに、皆でタコ殴りにしたり。

 逆に子鬼を押し倒していた赤子鬼の後ろへ、子鬼や犬人が飛び掛かったり。

 噛む方が得意な犬人は、赤子鬼の腕や足にも噛みついたり、口の周りを血まみれにしながら攻撃している。


 勇樹達の隣では3匹の悪魔幼女が、興奮したように手を振りかざしなら、奇声を上げていた。

 おそらく応援をしているのだろう。

 殴ってる子鬼の真似をしてるのか、シャドーボクシングのような動きをする悪魔幼女もいる。


「なんか、すごいな……。迫力があるというか、あり過ぎるというか」

「この様子ですと、オニ様の魔物達が勝ちそうですね」


 ご機嫌な様子で見守るクレスティーナに対して、あまりの血生臭い光景に勇樹は引き気味だ。

 血生臭い戦いが当たり前の魔界で暮らすお嬢様と、戦争のない平和な国で育った少年の経験の差だとも言える。

 臆病者のお嬢様だが、自分の陣営が有利な状況であれば、冷静に観察できるようだ。


 圧倒的な数の暴力に屈した赤子鬼達が、次々と倒れていく。

 5匹の赤子鬼を倒してしばらくすると、どこかで暴れていたのか、2匹の赤子鬼と3匹の赤子鬼グループが別々にやって来た。

 しかし、大して苦もなく倒すことができた。

 クレスティーナの指示により、死んだ魔物達が迷宮へ運ばれる。


「確認しましたが、赤子鬼を10匹倒しました。それと、どうやらこちらの子鬼が、1匹やられたみたいです」

「そうか」


 赤子鬼を運ぶ様子を眺めてると、皆が似たような大きさなためか、運ぶのに苦労している。

 それを見た勇樹が、数匹で1匹を運ぶように指示を出した。


「すぐに運べる魔物だけを移動させて、また運びに来させますか?」

「うーん……しょうがないな。そうするか」

「キュピポイ、プルピプ!」


 犬人におんぶされた悪魔幼女が、何かを叫びながらこっちへやって来る。

 手をジタバタさせながら、必死に訴えかけてるように見えるのを、クレスティーナが大人しく聞いている。

 悪魔幼女と数度やり取りをすると、勇樹に振り返った。


「人の集団が、周りを警戒しながら、ゆっくりこっちへ近づいて来てるそうです」

「分かった……。多少遠回りでもいいから、その集団に当たらないよう移動できるか?」

「そうですね。そう指示を出してみます」

「よろしく」


 勇樹の指令をクレスティーナが魔物達に伝えると、魔物達が森の中へと進み始めた。

 今回の偵察で、すっかり見張り役が板についた悪魔幼女と犬人のコンビが、周りを警戒しながら誘導してくれたので、人の集団と会うことなく迷宮へと到着する。


「明日からは、ここへは暫く来れないんだけど、今日みたいな感じで毎日偵察できる?」

「はい。私も今日の偵察で、やり方を覚えましたので、大丈夫だと思います」

「そう。ホント優秀なNPCだな。その日のコースを、自動でトレースするプログラムでも仕込んでるのか?」

「え?」

「何でもない。よろしくね」

「分かりました」


 勇樹達が迷宮に帰還すると、エモンナと沙理奈が出迎えた。

 転移門のある部屋に行くと子供達はおらず、勇樹はそのことが気になったが、それ以上に妹の腹時計付きのログアウト催促がうざかったので、その日はそのまま黄金の繭へと入って行った。


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