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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第3章 奇妙な共闘編

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第53話 国境砦攻防戦 その3

※戦神エルスティア:関連話(第33話)


 

 魔物達が激戦を繰り広げる戦場で、怒号と血飛沫が飛び交う。

 それを塔の上で観戦する指揮官が嬉々とした表情で、身体を仰け反らせて高笑いをしていた。


「フハハハハ! 逃げろ、逃げろ。人界に与するような、脆弱な鬼族など全て滅びるがよい!」

 

 蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う中鬼達を、強化山羊人が巨体を揺らして追い掛け回す。

 果敢にも足止めをしようと飛び掛かる中鬼もいたが、力任せに薙ぎ倒す自軍の兵達を見て、ラドルスが指を差して嘲笑した。

 

「脆い。脆いぞ……フヒヒヒ」

 

 笑いをこらえきれないとばかりに、ニヤニヤと愉悦の笑みを浮かべ、眼下に広がる戦場を眺める。

 50体の強化山羊人の半数は中鬼達の殲滅に忙しいようだが、残りの半数が目的の『樹海の賢者』に向かって黙々と前進を続けていた。


「もうすぐだ。もうすぐで……」

 

 興奮したようにハァハァと息を荒くしながら、前のめりの体勢で宿敵の最後を見届けようと、今か今かと待ちわびる。

 気持ちを抑えきれないように、背中から生えた大きなコウモリ翼がバサバサと羽ばたく。

 

「さあ、どうする。『樹海の賢者』よ……。ここで逃げ出すか、それとも戦いを続けるか? 僕は、どちらでも構わないよ。どちらに転んでも、勝者として名を残すのは」

「デゼムン!」

「……ん?」


 素っ頓狂な声を出しながら、ラドルスが塔の屋上から下へ顔を向けた。

 ラドルスが目を移した先には、塁壁から身を乗り出した大鬼子の女性が、西門の下に向かって何かを叫んでいる。

 まるで誰かが、そこから落ちたような雰囲気だ。

 

 全身を緑色のオーラに包まれた何かが、視界を一瞬チラついたかと思うと、目にも止まらぬ速さで塁壁の上にいる鬼族達の傍を通り抜けた。

 すると突然に血飛沫が宙に舞い、何者かに身体を斬り裂かれた鬼族の悲鳴が砦内に響き渡る。

 しばし口を開けて呆然としていたラドルスだったが、「ハッ」と何かを気づいたように意識を現実に戻し、身を乗り出すようにして眼下をキョロキョロと見渡した。

 

「侵入者!? 馬鹿な。どこから……」


 侵入経路を探して、塔の屋上をグルグルと回るラドルスだったが、ロープや長梯子を壁に立て掛けた箇所は見当たらない。

 ラドルスが周囲を確認してる間も砦内の悲鳴は増え続け、中鬼達に指示を出す役目を担う大鬼子の女性達は、塁壁の上から砦内に蹴落とされて分断されていた。

 塁壁の上に残ってる者も一人いたが、無残にも胴体と首を斬り離された状態で、石床の上に倒れている。

 

 大鬼子の首無し死体の傍で、傭兵の格好をした少女が指を差して命令をすると、他の少女達が四方へと駆け出す。

 ある者は浮足立った中鬼達の軍団に突撃し、ある者は墜落した大鬼子達へ止めを刺そうと階段を降りて行き、またある者は何かを目指すようにして砦の施設内へと駆けて行く。

 その者達の行く先を目で追い、再び指揮官らしき少女へ目を移すと、塔の屋上へと顔を上げていた少女とラドルスの目が合った。

 大きく見開いた目の中にある桃色の瞳が縦長に変化すると、ラドルスが「ヒッ」と情けない声を漏らして思わず後ずさる。


「そこか……」


 吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアのパイアが、相手から奪った騎士の剣を乱暴に放り投げる。

 赤い血糊が刃に付いた剣が、石床の上でカランカランと跳ねた。

 周囲の喧騒に目もくれず、塔へと続く通路を疾走する。

 塔へと繋がる扉を目前にして、パイアは地を蹴り、大きく上空へと飛翔した。

 

 風魔法の力により、羽のように軽くなった少女の身体は、石垣で積まれた塔の僅かな窪みや出っ張りを足場にして、瞬く間に屋上へと駆け上がる。

 恐る恐る下の様子を覗き込もうとしたラドルスの眼前を、緑色の光に包まれた人影が、鳥のような速さで上空へと通過した。

 ポカンと口を開けて見上げたラドルスの頭上を、少女の身体が空中で回転しながら通り過ぎ、塔の屋上へと軽やかに着地する。

 

「よっと……」

「な、何だ貴様らは。どうやって、砦に侵入を……」

「どうやって? 今、やって見せたじゃない」

「……」


 目の前で起きた光景がすぐに理解できなったのか、自身が思わず吐き出した台詞に気付いたラドルスが言葉を詰まらせ、不敵な笑みを浮かべる侵入者を睨みつける。

 ラドルスが手に持っていた杖を素早く構えると、高速詠唱を始めた。

 

「ギャッ!?」

「させるわけないでしょ」


 しかし、その動作は目の前にいる敵により、すぐに阻まれる。

 風魔法による身体能力の強化で、 即座に反応したパイアの投擲ナイフが、ラドルスの肩に突き刺さった。

 カランカランと石床を転がる魔法の杖を、歩み寄って来た少女が手に取る。

 床に膝を落とし、苦痛にあえぐラドルスに近寄ると、吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアのパイアが手を伸ばした。

 

「ぐあぁあああ!?」


 肩を貫いたナイフを手で掴むと、無慈悲にそれを引き抜く。

 傷口を手で抑えて蹲るラドルスを見下ろした少女が、ペロリと唇を舐めると嗜虐的な笑みを浮かべた。


「ここで、大人しくしといてね……。後で、たっぷりと相手をしてあげるから」

「ラドルス様! 外から、侵入者がッ!?」

 

 屋上へと繋がる階段から顔を出した吸血鬼だったが、突然に飛んで来たナイフに額を貫かれる。

 驚愕を浮かべた表情で、吸血鬼の身体が後ろへ倒れた。

 

「さてと……。それじゃあ、まずはその煩い詠唱を止めましょうか」

 

 階段を転げ落ちる音を耳にしながら、パイアが背後へと振り投げた腕を胸元に戻す。

 魔法の杖を楽しそうに振り回しながら、階段の方へと向かう傭兵少女の背中を、ラドルスが憎しみのこもった目で睨みつける。

 

「おのれ……。後、もう少しで……。こうなれば、『樹海の賢者』だけでも道連れに」

 

 傷口から零れ落ちる血で衣服を汚しながらも、ラドルスが壁に寄りかかり、砦の外へと目を向けた。

 そして、目を大きく見開き、驚愕の表情で顔を歪める。

 

「そんな……。どういうことだ……。お前達が、なぜここに……」






   *   *   *






「ヴメァアアアア!」

 

 金色の体毛に覆われた山羊頭の獣人が、咆哮を上げながら両腕を振り上げる。

 血のように赤い肌には、金色に輝く呪印が全身に浮かび、肉体強化された両腕の先にある戦斧の刃が、太陽光を浴びてギラリと輝く。

 歯を食いしばり、2mの巨体から振り下ろされた刃が、目前に立つ獲物へと迫る。

 中鬼の肉体を一撃で引き裂いた渾身の一振りは、金属同士が激しく衝突する音を周囲に響かせた。

 

 攻撃を仕掛けた側の山羊頭の獣人が、なぜか首を傾げる。

 自身の持つ戦斧の刃先を見ると、刃の一部が欠けていた。

 そして、相手の浅黒い肌を見てみるが、刃の触れた部分には傷一つ見当たらない。

 

「どうした? 何を驚いてるんだい。お前達と同じ、身体が固くなる強化魔法だよ」

 

 中鬼を一撃で沈めた攻撃を受けても、女性は涼しげな顔であり、その場に腰を落として身構えたままだ。

 身体中に刻まれた入れ墨のような文様が、呪印の反応を示す金色と赤色の二色に輝く。

 

「ただし、あたいのは特別製だ」

 

 口角を上げて白い歯を見せると、南山族エルーシアの血を引く女性であるダスカが、ニヤリと笑う。

 強化山羊人達が扱う武器に引けを取らない、大きな戦槌の柄を両手で握り締めると、足を踏み込んで地面をかするように振り上げた。

 ドンと鈍い衝突音と共に、山羊頭の魔物の足が地面から離れ、2mの巨体が宙へと浮かぶ。


 強化山羊人が目を大きく見開くと、その重そうな身体はハリボテかと思うような高さへと飛んだ。

 ダスカの相棒であるセリィーナは過去に、護衛任務を請け負ったエジィスとユリィラに、ダスカの肉体に宿った加護をこう説明した。

 

「ダスカが戦神エルスティアから授けられた加護は、南山族エルーシアの中でもかなり特別です。南山族エルーシアの民は、山羊人を強化する魔法で有名な、防御を強化する金色の呪印が一つ授けられるのが、一般的なのですが……。彼女は産まれた時から、もう一つ。赤色の呪印が、刻まれてたそうです」

「ほう。赤色の呪印かね? それは、何の力があるのだね?」

「鋼鉄の鎧も打ち砕く、絶大な力を与える呪印。鬼族の長である、大鬼と同じ力を与える強化魔法です」

 

 強化山羊人の集団の頭上を飛び越え、その巨体が地面へと衝突する。

 その光景をダスカが手をかざして見送り、戦槌を肩に担ぐと豪快に笑う。


「アーハッハッ! そんな簡単に、あたいを抜けると思ったかい? あたいを倒してセリィの所に行きたければ、せめて大鬼でも連れて来るんだね!」

「ヴメァアアアア!」

「おるぁああああ!」


 後続の強化山羊人が咆哮を上げてダスカへと襲い掛かるが、カウンターを仕掛けるように足を地面に踏み込み、ダスカが戦槌を力強く振り回す。

 強化されたはずの鋼の肉体がへこみ、くの字に折れ曲がった巨体が後方へと吹き飛ぶ。

 後方にいた集団に2mの巨体が衝突して、集団が転倒をするのを確認すると、ダスカが戦槌を肩に担いで再び豪快に笑った。

 

「どんどん来いや! アーハッハッ!」

「なぁ、ダザラン。アイツの護衛って、別にしなくてもいいんじゃないか?」


 襲って来た強化山羊人を地面に押し倒し、抑えつけていた大鬼子オーガ・ミニのムデスが、呆れたような顔で高笑いをする南山族エルーシアの大女を見つめる。

 倒れている強化山羊人の横には黒い兜が転がり、白目を剥いた山羊頭の額には短刀が貫かれていた。


「うむ……。エモンナから話を聞いてはいたが、『戦神エルスティアの加護』とやらも、中々に厄介だな」

 

 短刀を刺した張本人である大鬼子オーガ・ミニのダザランが、額から短刀を引き抜くとムデスに同意するように頷く。

 

「ゴギャギャギャ! オラァ、捕まえたぞ。ダオスン、早くやれ!」

「おう!」


 大鬼子オーガ・ミニのダンザが、襲って来た強化山羊人を手慣れたように軽々と押し倒し、弱点を守る黒兜を強引にはがす。

 そして、短刀を握りしめた仲間の大鬼子オーガ・ミニが、額を貫いて止めを刺した。

 この時の為に、普段から山羊人をわざわざ強化して訓練した成果か、周りでは二人組のペアを組んだ大鬼子オーガ・ミニ達が、接近した強化山羊人を次々と要領良く沈めている。

 その様子を満足そうに見ていたダザランの背後に、山羊頭の人影がユラリと近づいた。

 

「ダザラン、後ろ!」

 

 大鬼子オーガ・ミニのムデスの叫びに、ダザランが背後へ振り返る。

 黒い兜の中にある赤い瞳とダザランの目が合うと、頭上高く持ち上げられた戦斧の刃が、勢いよく振り下ろされた。


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