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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第3章 奇妙な共闘編

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第46話 行列のできるモフモフ食堂

 

「やっぱり皆が集まると、なかなかに壮観ね」

 

 頭から生えた銀色の狐耳をピクピクと動かして、ゴシックドレスを着た小さなお嬢様が、腰から生えた大きな狐尻尾を左右に振って、ご機嫌な笑みを浮かべる。

 フンスフンスと鼻息を荒くして、偉そうに踏ん反り返るクレスティーナの前には、鬼族に獣人や吸血鬼と異なる種族の魔物達が整列していた。

 

「今のところ、攻めて来る気配はないけどさ。もし、こっちから攻めるんだったら、国境砦の方が先じゃない?」

「それを決めるのは、オニ様です。とりあえずは、貴方達が見て来た情報を報告して、オニ様の意見を聞くしかないようですね」


 クレスティーナから少し離れた所では、悪魔メイドのエモンナと傭兵の格好をした吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアの少女達が集まり、真剣な表情で話し合いをしている。


「あっ! お父様!」


 不意に心臓のような鼓動音が迷宮内に響くと、パイアが会話を中断させて嬉しそうに目を輝かせた。


「丁度良いですね……。クレス様、そこにいるとサリナ様に蹴り飛ばされますよ?」

「え? ……あ、そうね」


 背後で明滅を繰り返す巨大な黄金繭を見たクレスティーナが、慌てた様子でその場から移動する。

 皆が定位置に移動した所で、黄金繭の中心に縦長の亀裂が入り、両開きの入口が左右へと開かれた。

 

「……?」

 

 すぐに誰かさんが飛び出して来ないので、黄金繭のすぐ傍に立っていたクレスティーナとエモンナが、不思議そうな顔で中を覗きこむ。

 黄金繭の中で、黒髪のツインテールに銀色の狐耳を生やした少女が、片膝を床につき顔を俯かせて瞑想していた。

 

「サリナ様。どうかされたのですか?」


 いっこうに動く気配の無い沙理奈を見ていたクレスティーナが、思わず声を掛ける。

 すると、沙理奈の口の端が吊り上がり、ニヤリと笑みを浮かべた。


「あいるびー、ぶぁっく」

「……え? 俺達って、未来から転送された、サイボーグの設定だったの?」

 

 妹の奇行をいつも通り静かに見守っていた勇樹が、思わずツッコミを入れる。

 

「ふぉおおおおお! モフモフよ、私は帰って来たのじゃぁああああ!」

 

 奇声を上げながら黄金繭から飛び出すと、一目散に犬人コボルト狼人ワーウルフが整列してる所へと突撃した。

 

「ふぉおおおおお! フガフガ!? ふぉおおおおお!」

 

 犬人コボルトのフサフサな体毛を撫でまわしていたかと思えば、隣りにいた狼人ワーウルフのお腹に抱き着き、顔を突っ込むと思いっきり匂いを嗅ぐ。

 匂いを嗅ぐだけでは満足できなかったようで、頭を左右に激しくブンブンと振って、嬉しそうな表情で顔を擦りつける。

 

「サリナ様。何だか、いつもよりお元気ですね」

「期末テストが、終わったからな。どうせ、しばらくしたら戻って来るから、適当に放っておいて良いよ」


 黄金繭からのんびりと降りて来た勇樹が、クレスティーナの疑問に苦笑しながら答える。


「あれから、何か進展した?」

「はい。森への侵入があってから警戒を強めてましたが、イージナの町と国境砦で魔族による襲撃が発生しました」

「おー。やっと、イベントが進んだか……」

「それと村に、『樹海の賢者』と南山族エルーシアを名乗る者達が現れました」

「ん? 何か一気に、イベントが大量発生した感じ?」


 偵察に出していた吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアからの情報を書き記した本を広げると、エモンナが勇樹への報告を始めた。






   *   *   *






 第六階層には、『厨房』と呼ばれる部屋が存在する。

 主に悪魔幼女リリス達が、迷宮で捕えた一角兎を調理する為の部屋だ。

 

 床には赤い円形の文様が描かれ、それに触れた兎肉が美味しそうな音を奏でながら、ジュージューと焼かれていた。

 今日は特別な日である為、普段の何倍も多い悪魔幼女リリス達が室内にひしめきあい、熱気のこもった厨房を忙しなく移動する。

 駆け足で厨房に入って来た悪魔幼女リリスが、金属製の長い串を小さな手で握り締めながら厨房を通り過ぎると、隣の解体部屋へと顔を出す。

 

「プルップ! プルップ!」

「グギャア?」

 

 解体部屋へと駆け込むなり、ナイフを使って作業をしていた子鬼のククリに声を掛ける。

 部屋にはククリ以外にも、6匹の子鬼兵士ゴブリン・ソルジャーが作業をしており、皮を剥がれた兎肉が山積みになっていた。

 

「ププリ、カルピプイ!」

「グギギ、グギャ!」


 悪魔幼女リリスの意図を理解したのか、子鬼のククリが金属製の長い串を受け取り、生肉を串刺しにして再び悪魔幼女リリスへと渡す。

 それを受け取るや否や、悪魔幼女リリスが厨房へと駆け出してキョロキョロと辺りを伺う。

 誰も使われてない赤く光る魔法陣を見つけると、そこで兎肉を焼き始めた。


「キュルップ! キュルップ!」


 額から汗を垂らした一匹の悪魔幼女リリスが、串刺しにした兎肉を持ち上げる。

 程良くこんがり焼けた兎肉を見て満足気に頷くと、厨房から飛び出して通路の先にある食堂へと向かった。

 

「キュルップ! キュルップ!」

「サリナ様。新しい肉が、来ましたよ!」

「おお! 次の肉が来たのじゃー」

 

 大広間の食堂へ入って来た悪魔幼女リリスが、両手に握りしめた串焼き肉を沙理奈に差し出す。

 沙理奈がご機嫌な表情で、金属製の長い串を受け取ると後ろへ振り返った。

 その先には、茶色の体毛に覆われた犬人コボルトが座っており、目をギラギラと光らせて焼き兎肉を凝視している。

 

「待て」

 

 手をかざして沙理奈が指示を出すと、前のめりの体勢ではあるが、犬人コボルトが大人しく待機する。

 しかし、必死の形相で耐えるその口元からは、涎がだらしなく垂れており、しきりに舌を出して口元を舐めている。

 

「食べてよし!」


 いつも温厚な犬人コボルトが、この時ばかりは焼けた肉へと飛び掛かった。


「そんなに慌てて食べたら、火傷するのじゃー」

「グルルルル!」

 

 鼻に皺を寄せて目を血走らせた犬人コボルトが、串焼き肉に牙を食い込ませる。

 串刺し状態だった兎肉を沙理奈から奪い取ると、それを地面に置いて肉を勢いよく食い千切った。

 しかし、出来たてだから熱かったようで、ハフハフと息を荒くしながらも、濃厚な肉汁が滴る焼き兎肉を一心不乱に喰らう。

 それをニヤニヤと楽しそうに笑いながら見ていた沙理奈が、肉の無くなった串を悪魔幼女リリスに手渡した。

 

「さぁ、どんどん肉を持ってくるのじゃー!」

「キュプイ!」

 

 金属製の串を両手に握りしめた悪魔幼女リリスが、部屋の外へ駆け出す。

 通路を走る悪魔幼女リリスが、エモンナと相談している勇樹達とすれ違う。

 

「敵の数が多いのも厄介だけど。距離があるのが、一番の問題だよな……。一日半、掛かるんだっけ?」

「はい。宿を取らず、街道を使って徒歩で行くとするならですが……。ここからですと、イージナの町と国境砦、共に一日半と掛かる距離です」

「全軍出撃するとしても、食料を運ぶのが大変そうだな」

「そうですね。前回のように、近場に迷宮があれば、食料の確保は何とかなりそうですが……」


 次の戦場が遠い事に頭を悩ませる勇樹が、食堂前の異様な光景に気づく。

 犬人コボルト狼人ワーウルフ達が、捕まえた一角兎を口に咥えて、食堂のある部屋から列をなして大人しく座っている。

 沙理奈の思い付きで、前回から始まったモフモフ食堂だったが、本日も大盛況のようだ。

 

「これを見たら、流石に飯抜きで行けとは言えんよな……。こういうところもリアルにされると、結構面倒臭いなー」

 

 どこまでも伸びるその長い列を見て、勇樹が苦笑しながら小声で独り言を呟く。

 

「とりあえず、そっちは何か良い案が浮かぶまでは保留にして……。何だっけ、なんとか賢者が村にいるんだっけ?」

「『樹海の賢者』ですね。どうやら、この村に魔物が現れたという噂を聞いて、調査に来たようです。一応は警戒して、パイア達に周辺を調査させたのですが、他に兵を置いてる気配はありませんでした。南山族エルーシアもいますが、いろいろと釘は刺しておいたので、こちらとすぐに戦争を始める気はないようです……。いかがなさいますか?」

「個人的には興味があるから、会ってみたいね」

「分かりました。パイア、連れて来なさい」

「は? なんで、私が」


 首を後ろに回したエモンナに言われて、吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアのパイアが露骨に嫌そうな顔をする。


「パイア。連れて来て」

「はーい。分っかりましたー!」


 同じ内容を勇樹から命令されたはずなのだが、途端に花が咲いたような笑みを浮かべて、パイアが元気よく右手を上げる。

 

「ほら、行くわよ!」

「あっ、パイア。ちょっと待って!」

 

 迷宮の外へと向かってパイアが軽快に駆け出すと、他の吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアの少女達が慌てた様子で後を追いかけた。


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