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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第1章 異世界のチュートリアル編
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第04話 侵入者

 

「どうやら、本当に帰ったようですね」

「みたいね」

 

 入口が閉じられた黄金の繭を、クレスティーナとエモンナが見つめる。

 不思議な力で完全に閉じられているのか、エモンナが手で開けようと試みているがビクともしない。

 その後ろで狐耳のお嬢様が、脱力したように地面へ腰を下ろす。

 

「はぁー……。疲れた~」


 クレスティーナが客人をもてなす態度から、いつものだらけた態度に変わると、自らの肩を揉むような仕草をする。

 それを見たエモンナが後ろに回り、労をねぎらうようにクレスティーナの肩を揉み始める。


「クレス様、お疲れ様です。年中引きこもりの割には、なかなかの接待ぶりでしたよ?」

「それは褒めてるのかしら?」

「もちろん褒めてますよ」


 クレスティーナが横目で不満そうに見るが、エモンナはニコニコと笑みを浮かべている。

 

「グギャア?」

「ヒィッ!」

 

 部屋の中に顔を出した子鬼を見て、条件反射的にクレスティーナが悲鳴を上げる。

 

「クレス様、落ち着いて下さい。オニ様の子鬼ですよ。何か用ですか?」

 

 腰に備え付けた鞭を取り出すと、クレスティーナをかばうようにして鞭を構えたエモンナが、子鬼を睨む。

 子鬼の方は眉根を寄せた後、鬼語で何かを喋り始める。

 悪魔メイドの後ろから顔を出しながら、クレスティーナが子鬼と会話をする。

 しばらくすると、子鬼はどこかへ行ってしまった。

 

「何の用だったのですか?」

「砂の山をのけたら、次は何をするんだ? ですって。オニ様は、明日になるまで来ないから、適当に一角兎を食べて待ってなさいと言っておいたわ」

「随分、仕事熱心な鬼族ですね」

「ホントね。私の知ってる鬼族とは、全然違うわね。でも、やっぱり鬼族は、未だに慣れないわね……」

「お気持ちは分かります。鬼族には私の魔樹農園を荒らされたりと、私もあまり良い思い出がありませんので、どうしても警戒をしてしまいます」

 

 お互いが視線を合わすと、思わず苦笑し合う。

 

「とりあえず、勢いでこっちに逃げてきたけど、これから大変ね」

「そうですね。オニ様達が、思ったより優しそうな方達でしたので、とても助かりました。クレス様が勝手に異界門を開いて、異界の者達に捕えられた時は、本気でどうしたものかと頭を悩ませましたよ。クレス様が気絶している間に、死を覚悟して交渉をした私を、少しは労って欲しいものですね」

「ううっ……。ごめんなさい」


 エモンナに睨まれて、クレスティーナが思わずペコリと頭を下げる。

 

「ひとまず、生活するための拠点を確保できただけ、良しとしましょう。引きこもりのクレス様にしては、珍しく及第点を上げてもよい成果ですね」

「うう……。エモンナの意地悪!」

「ご褒美に、クレス様の一角兎を捕まえてこようかと思いましたが、やめておきますか?」

「エモンナ、いつもありがとう! すごく感謝してるわ!」

 

 分かりやすいくらいに態度を豹変したお嬢様に、思わずエモンナが溜め息を吐く。

 仲が良いのか悪いのか、よく分からないやり取りをした2人が部屋の外に出ると、何やら作業をしてる悪魔幼女が目に入る。

 土壁に手を当てて、何かをブツブツと呟くと、壁に青白い光を灯す文様が描かれる。

 

「貴方も、仕事熱心ですね」

「キュポ?」

 

 悪魔メイドに声をかけられて、壁灯を作っていた黒髪の幼女が喋り出す。

 唯一、悪魔幼女の言葉が分かるクレスティーナが会話を始めた。

 

「オニ様達が、この部屋に来るまで見にくそうに移動してたから、道を照らすようにしてるんですって」

「それは感心ですね。次にオニ様達が来た時に、喜ばれるでしょう。……クレス様。どうされたのですか?」


 壁に作られた円形の不思議な文様を、クレスティーナが食い入るように見つめている。

 

「さっき触れた時に思ったんだけど、この子の魔法って私の魔法とすごく似てるのよねー。詠唱さえ真似れば、意外と私もできるかも……」

 

 悪魔幼女が作った壁灯の隣に手を触れながら、クレスティーナがブツブツと呟き始める。

 するとクレスティーナの手が触れていた場所に、同じような壁灯が現れた。

 

「ほら。やっぱりできちゃった……」

「クレス様、どういうことですか?」

 

 困惑したような顔で自分の手を見つめるクレスティーナに、エモンナが驚いたような表情で問いかける。

 

「私の予想なんだけど……。もしかしたらこの子、私の血を少し受け継いでるかも?」

「キュポ?」

 

 悪魔幼女を見たクレスティーナが、頬をかきながら苦笑した。






   *   *   *






 月明かりのみが照らす暗い森の中を、小走りに移動する人影が2つ。

 まだ幼さが見える少女の手を握って、少年が何度も後ろを振り返りながら、なるべく音を立てないように移動している。

 顔は汗だくで、2人共ひどく疲れたような表情に見える。


「ライ君。私、もう駄目だよぅ」


 少女が思わず腰をおろし、木に背中を預けながらうずくまった。

 少年も疲労が溜まっていたのか、後ろを気にしながら静かに腰を下ろす。


「私達、もう家に帰れないのかな……」

「リコ……。ごめん」


 リコナの呟きに、ライデが思わず謝罪を口にした。

 互いに無言のまま座っていると、2人の鼻腔を香ばしい匂いがくすぐる。


「ライ君……」

「誰か、人がいるのかもしれない」


 2人が顔を上げると、匂いのする方向へと足を運ぶ。

 肉の焼ける匂いにつられて、不思議な明りの灯った洞窟の中へと足を踏み入れた。


「にくぅ~、にくぅ~、美味しいお肉ぅ~」

「ウォン!」

「クゥン……」

「迷宮を利用したこの魔法は、なかなかに便利ですね」


 床に描かれた、赤い円形の不思議な文様に触れた兎肉が、美味しそうな音を奏でながら焼かれている。

 それを作った当の本人である悪魔幼女は、赤い魔法陣を作った後に、どこかへ行ってしまった。

 楽しそうに鼻歌を口ずさむクレスティーナの隣には、2匹の犬人が涎を垂らしながら、大人しくお座りをしている。

 

「あの子が、私の火魔法も受け継いでるのには驚きましたが、異界門を開く際に私とクレス様の血を1滴垂らしたのが関係してると考えれば、確かに納得できる話ですね」

「やっぱ生肉よりは、焼き肉よねー。あ~、良いにほひー。エモンナ、お肉まだぁ?」

「もう少しですよ」


 クレスティーナのリクエストで兎肉を焼いていたエモンナ達に、複数の足音が近づいて来る。

 息を切らせて走って来た少年と少女が、いきなり頭を下げた。

 

「た、助けて下さい! 俺達、鬼に追われて……」

 

 頭を上げた少年と少女が、クレスティーナ達を見て固まる。

 

「ら、ライ君。この人達って……」

「コイツら、人じゃない……。ま、魔物!」


 2人は肉の焼ける匂いと人の声を頼りにして走って来た。

 しかし、近くまで寄ったことで、相手が普通の容姿でないことに気がついたようだ。

 リコナも小さく悲鳴を上げて、ライデの腕にしがみつく。


「妙な気配がすると思えば、どうやら人の子が、迷い込んだみたいですね」

「それだけじゃないわよ。この嫌な感じは……。むー、鬼族も入って来てる……」


 兎肉を丁寧に焼きながら、エモンナが横目で子供達を見つめる。

 狐耳を立てたクレスティーナは、顔に皺を寄せてすごく嫌そうな顔をした。

 2匹の犬人は目をギラギラと光らせて、こんがり焼けた兎肉を凝視している。

 

「まさか、魔人ではないですよね?」

「魔人だったら、私はもう全力で逃げてるわよ。オニ様の子鬼と気配が似てるから、たぶん子鬼ね。それよりエモンナ、早くお肉頂戴!」

 

 エモンナが立ち上がると、木の棒で串刺した兎肉をクレスティーナに渡す。

 それを見たライデが、反射的に持っていた短剣を両手で握り締め、リコナを守るようにして身構えた。


「人の子よ。それを私に向けるということが、どういう意味か分かってるのですか?」

「あ……。ああ……」

 

 目を細めたエモンナの放つ威圧に、ライデの顔が恐怖に歪む。

 手に持っていた短剣を落として、少年が崩れ落ちる。


「俺はいいんです。俺の命は差し上げます……。だから、この子は見逃して下さい。お願いします!」


 ライデは身体を震わせながらも、地面に額を擦りつけるようにして頭を下げる。

 声も震えてるが歯を食いしばって、必死に幼馴染の助けを懇願した。


「ライ君!」

「はぁー。クレス様、どうしますか?」

「あー、え? 私?」


 こんがり焼けた肉の匂いを充分に楽しみ、ようやく齧りつこうと口を開けた所で、クレスティーナが停止する。


「人の子だけでなく、魔物も侵入して来たようなので、とりあえず何かしらの対応をしてないと、まずいと思いますよ? 万が一、外からやって来た魔物達に、オニ様の魔物が減らされた日には、お前達は何をやってたんだとオニ様がお怒りになって、配下の魔物達を私達にけしかけて……」

「え、エモンナ! どうしよう!」


 エモンナに脅かされて、パニック状態になったクレスティーナが、兎肉を放り投げる。

 美味しくこんがり焼けた兎肉が宙を舞い、犬人の顔も自然と上を向いた。

 犬人の視線が下に落ちると同時に、兎肉が地面を転がっていく。


 途端に目を血走らせた2匹の犬人が走り出し、兎肉に飛び掛かった。

 争い合うようにして、兎肉に牙を深く食い込ませ、焼けた肉を勢いよく食いちぎる。

 一心不乱に貪り食う魔物達を見て、2人の子供達は小さく悲鳴を上げ、互いを抱きしめ合い、完全に怯えていた。


「落ち着いて下さい、クレス様。ひとまず子鬼達に、動いてもらえるよう交渉しましょう。相手が少数なら数で囲めば、勝機はこちらに充分あると思われます」

「そ、そうよね! そうしましょう!」

「ひとまず、異界門がある部屋へ参りましょう。貴方達も、死にたくなければついて来なさい」

「は、はひぃ!」


 涙目になって怯える子供達を半ば強引に連れて、クレスティーナ達は迷宮の奥へと移動を始めた。


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