表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第2章 鬼族のくせに生意気だ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/54

第29話 釣りと首を傾げる者達

 

「ゴギャ、ゴギャギャ!」

「ゴギャー!」

 

 森の中から、複数の奇声が聞こえる。

 頭から2本の白い角を生やした、赤い肌の中鬼4匹が、どうやら奇声をあげているようだ。

 体格の良い赤中鬼達は、草木の生い茂る森の中を走り、誰かを追い掛けていた。

 

 彼らの前を走っているのは、赤中鬼達よりも一回り小さな土肌の子鬼。

 腰に湾曲刀を提げた子鬼が、何度も後ろへ振り返りながら、一心不乱に森の中を走っている。

 

 子鬼を追う赤中鬼達は、もともと川を渡る橋の前でうろついていた者達だ。

 本来は、彼らの上司である大鬼子から、橋は渡らぬよう言われていたが、橋の反対側から様子を伺う見知らぬ子鬼を見つけてしまい、思わず橋を渡って来た。

 なぜ橋を渡ったのかと聞かれたら、子鬼が橋の反対側から舌を出しておどけたり、お尻を見せて叩いたりと、馬鹿にしたような挑発行為を繰り返していたからである。

 短気な中鬼達の怒りに、火をつけたのも無理はない。


「……」

 

 自分達よりも弱そうな子鬼を追いかけ回し、ついには追い詰めることに成功したようだ。

 崖のような土壁を見上げて途方にくれる子鬼を、4匹の赤中鬼が退路を断つように取り囲む。

 どうやって痛めつけてやろうかと、舌舐めずりをしながら子鬼へにじり寄る。

 

「囮役、ご苦労様」

 

 唐突に、上から女性の声がして、赤中鬼達が顔を見上げる。

 すると黒髪の少女が上から落ちて来て、1匹の赤中鬼に肩車した体勢になると、そのままの勢いでナイフを喉元に突き刺した。

 目の前で喉を切り裂かれた仲間を、他の赤中鬼達が呆けたように見つめる。

 

「よそ見をしていて良いのか?」

「!?」

 

 2匹の赤中鬼が驚いて背後を振り返ると、大きな手で首を掴まれる。

 高い土壁から飛び降りて来たダンザが、赤中鬼達の首を掴んで力強く持ち上げる。

 赤中鬼達もそこそこ体格が良い方だが、2mも身長がある大鬼子オーガ・ミニのダンザには、流石に力負けをしてしまうようだ。

 地面から足が離れた赤中鬼達が、苦しそうな顔でもがきながら、空中で足を激しく動かす。

 

「コフッ」

「カフッ」


 ダンザに首を絞められて、呼吸困難になっている2匹の赤中鬼が、ついには白目を剥く。

 ピクリとも動かなくなると、ダンザが手を放した。

 崩れ落ちた赤中鬼を見下ろすと、視線を隣に移す。

 

 地面に倒れた赤中鬼から、喉元を貫いた湾曲刀を、子鬼のククリが引き抜く。

 木の枝から飛び降りた吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアのパイアに、見取れている赤中鬼を背後から襲い、喉元を切り裂いたようだ。

 顔についた血糊を乱暴に手で拭うと、ダンザと目を合わせたククリが、嬉しそうな笑みを見せる。

 

「グギャ!」

「うむ。上出来だ、ククリ」

「よーし。とりあえず、コイツらを運んで頂戴」

「グギャギャ!」

 

 パイアが指示を出すと、ククリが土壁を見上げて奇声を上げる。

 すると、待機していた子鬼ゴブリン達が顔を出す。

 子鬼ゴブリン達が次々と飛び降りると、上にいる子鬼ゴブリンが降ろした木製担架を受け取る。

 ダンザ達に手伝ってもらいながら、倒した赤中鬼達を担架に乗せると、子鬼達が肩に担いで運び始めた。

 

 迷宮へと死体を運ぶ子鬼達と入れ替わるようにして、別の集団がパイア達に近づく。

 2mの鬼族と黒髪の少女、それと先程倒した赤中鬼達の肌が土色になった鬼族が10匹。

 その集団に視線を移すと、パイアが楽しそうな表情で白い歯を見せる。

 

「まあ、ざっとこんな感じ。どう、できそ?」

「うん、大丈夫だと思う」

「うむ」

 

 新たに仲間入りした、吸血鬼亜種ヴァンパイア・レア大鬼子オーガ・ミニにパイアが説明すると、魔人達が頷いた。

 ダンザも魔人達の後ろにいる中鬼ホブゴブリン達に、鬼語で説明する。

 理解はできたのか、木製担架を持つ中鬼ホブゴブリン達も頷いた。

 説明を終えたタイミングで、ククリがダンザに何かを喋り始める。

 

「ほう。他にも、良い待ち伏せ場所があるのか。案内しろ」

「グギャ!」

 

 生前のムナザが、自分の庭のように狩りをしていた森の中を走り回っていると、身体に刻まれた記憶が掘り起こされるらしい。

 ククリが楽しそうな顔で、ダンザ達を別の待ち伏せポイントへ案内しようとする。

 ダンザ達が走り出すと、数匹の中鬼ホブゴブリンがその後を慌てて追いかけ始めた。

 

「ちょっと、ダンザ! そいつらに、橋は絶対に渡らないよう言っといてよ! もし、勝手に橋を渡ったら、あの馬鹿みたいに迷宮へ埋めるって!」

「分かってる!」


 ダンザが早口気味に鬼語で喋ると、パイアを見た中鬼達が激しく首を上下に振って、コクコクと何度も頷く。

 実は、本来ここには中鬼がもう1匹いるはずなのだが、なぜかナイフで全身を切り刻まれて、魔樹農園の入り口前で事切れていた。

 無知とは怖ろしいもので、不運にもパイアの怒りに触れた仲間の末路を見た中鬼達は、大鬼子オーガ・ミニのダンザより吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアのパイアに、恐怖を抱くようになったらしい。

 他の魔人達と簡単な打ち合わせをすると、パイアも次の獲物を求めて走り出す。

 

「さーて。今日は何匹釣れるかなー。お父様のために、仲間をいっぱい増やさないとねー」

 

 可愛い顔して、怒らせると仲間に心の傷を残す程に怖い少女が、森の中を楽しそうに駆け抜ける。






   *   *   *






 光の届かぬ迷宮内で、激しく争い合う音が響く。

 どうやら中鬼よりも身体の大きな大鬼子が、反抗的な赤中鬼達に躾をしてるようだ。

 身体を赤く染めたダザランに、片角が折れた大鬼子が近寄ると声をかけた。


「戻ってない中鬼がいる?」

「おう。なんか騒いでる中鬼に聞いてみたらよ。そんなこと言ってやがったんだ。昨日から、帰って来てない奴がいるってよ」


 ダオスンの話を聞いて、ダザランが眉根を寄せる。

 手で汗を拭ったダザランの下には、体中が青痣だらけの赤中鬼が数匹倒れている。

 

「数は分かるか?」

「そこまでは、分からねぇってよ。ただ、1匹じゃないのは、間違いないみてぇだな」

「そうか……。とりあえず、外にいる奴等も集めて、数をかぞえ直すか。さすがに中鬼が200もいると、3人だけでは目が行き届かないな」

 

 2人の大鬼子が、迷宮の外へと向かって通路を歩いていると、見知った顔が現れる。

 胸と腰に動物の毛皮を巻いた、女性の大鬼子であるムデスが、腰に手を当てて口角を上げた。

 

「どうしたんだい。難しい顔して」

「ムデスか。頼んでた用事は、終わったか?」

「終わったよー。剥がしたやつは、とりあえず全部遠くに隠して来たよ。あーあ、1人で全部運んだから、もう疲れたよー」

 

 腕を回しながら、ムデスが自分の肩を揉む仕草をする。

 ムデスに頼んだ用事とは、調査隊として村へ訪れた騎士達の亡骸から、装備していた鎧や兜を剥いで、遠くへ持ち運ぶことである。


 2mもの身長がある魔人達は、人が着るサイズの鎧や兜は装備できない。

 中鬼達がそれを着れば、装甲は厚くなるが、中鬼達の反乱を警戒した魔人達が、それを良しとしなかったのだ。

 産まれて日が浅い中鬼達に装備させるのにはまだ早く、しっかりと躾ができるまでは遠くに隠しておくよう、ムデスに指示を出したのである。

 

「中鬼達には、気づかれない場所に隠したか?」

「もちろんだよ。1人で行って来たから、中鬼達には気づかれてないよ。よっぽど目か鼻でも良い奴が、あたいの後をついてなきゃ、あたいが隠した所なんて、誰にも分かりやしないよ」

「なら問題ない」

 

 ケラケラと笑うムデスを見て、ダザランが頷く。


「それで、こっちは何があったんだい?」

「うむ。どうやら中鬼達が何匹か、勝手にどこかへ行ったまま、戻ってないらしい。外にいる時に、何か気づかなかったか?」

「そうだねー。村にいたような奴らが、まだ森に隠れてたなら、それにやられたのかもしれないけど……。あっ、気になることと言えば……」

「何かあったのか?」


 顎に手を当てると、何かを考え込む様子のムデスを見て、ダザランが尋ねる。


「遠吠えが聞こえてたね」

「遠吠え?」

「うん、川の向こうの森からね。鎧とか隠すのに、目印になる石とかを川で探してる時に、獣の遠吠えが聞こえたんだよ。人界には、立って歩く獣人はいないけど、犬や狼はいるんだろ?」

「らしいな」

「なんか魔界にいる獣人にも鳴き声が似てたから、もしかしたら中鬼達が反応しちゃうかもねーって、思ったのさ」

「獣か……」


 腕を組んだダザランが、難しそうな顔で考え込む。


「デゼムンの報告だと、橋を渡った先に村があるって、ダンザガが言ってたらしいね。獣を追いかけてる時に、村を見つけて、勝手に暴れてるかもしれないねー」

「なんだと! アイツら、抜け駆けしやがって……」

「ふむ……。ありえるな」


 ムデスの言葉に、片角の折れた大鬼子が反応する。

 抜け駆けされたと思って、悔しそうな顔をするダオスンを見て、ダザランが苦笑する。


「橋はまだ渡るなって、言っといたんだけどねぇー。やっぱ数が多いと、全部は見張りきれないねー」

「ゴギャギャー!」

「騒がしいぞ。どうした?」


 顔が青痣だらけの中鬼が、慌てた様子で走って来ると、ダザラン達の前で喚きたてる。


「はぁー。また喧嘩かい。困った奴らだねー」

「そっちの喧嘩は、俺が止めに行こう。ムデス、悪いが俺の代わりに外へ行って、村や森でうろついてる奴らに、日が暮れたら必ず迷宮に戻るよう言ってくれ。そこで一度、何匹いるか数え直そう」

「あいよ」


 ムデスが1つ頷くと、迷宮の外へ向かって歩いて行く。


「ダオスン。お前は中鬼達を連れて、橋を渡って様子を見て来い。そうだな……。30匹もいれば、充分だろ」

「それはいいけどさー。俺も村で暴れたいぜ」

「分かってる。村を見つけたら、多少暴れても良い。そのかわり、他の奴等を見つけたら、ちゃんと連れて帰って来い」

「よっしゃー!」


 片角の折れた大鬼子が、思わず拳を握り締める。

 分かりやすいくらいに、嬉しそうな顔で返答する様子からして、村で暴れる気満々なのだろう。


「それと、殺した奴らの死体も、忘れず持ち帰れよ?」

「おう、分かってる!」


 足取り軽やかに迷宮の外へ向かうダオスンを見送ると、喧嘩の仲裁をする為に、迷宮の奥へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ