表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第2章 鬼族のくせに生意気だ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/54

第27話 調査隊

 

「キュルル」

 

 動物のいななきが聞こえる。

 声のする方向に目を向ければ、数頭の走馬ティバ荷馬レクバが視界に入る。

 

 地面には4本の杭が刺さり、その杭から紐を四角形になるよう張り巡らして、その中で待機させているようだ。

 よく訓練された軍馬かどうかの見極めは、紐で囲いをすれば分かると言われる。

 それを表すように走馬ティバ達は、厩舎きゅうしゃの中で繋がれてない状態でも、大人しくしている。

 ただし、村の中にある厩舎きゅうしゃへ入れずに、このような仮の囲いで待機させているという事は、問題事が発生すればすぐ逃げる段取りであるという意味だ。

 

 軍馬達の視線の先には、家の中を出入りする数人の騎士が見える。

 彼らは魔人及び魔物発生調査の為に、国から調査隊として派遣された騎士達だ。

 調査隊はイージナの町に立ち寄った際、国境砦方面に複数の魔物発見報告があったことを知らされる。

 セナソの村に至っては、魔人が指揮する子鬼達に襲撃されて、村が滅んだという話も聞かされた。

 

 また、村が出した賞金を目当てに、セナソの村へ向かった者からも、話を聞くことができた。

 『元採掘者のデニマ』を名乗るその男は、仲間と一緒に魔物の住処を探していたが、魔人と子鬼達に襲撃をされ、命からがら逃げて来たらしい。

 いくつかの情報を仕入れた彼らは、魔人の目撃情報の多いセナソの村を仮拠点とし、周辺調査を始めていた。


 王国の紋章が描かれた大きな旗の近くで、森を見つめている男に、騎士が1人歩み寄る。

 騎士が利き手で拳を作り、それを胸に当てた。


「グラムン小隊長。野営準備が完了しました」

「うむ。村の空き家とはいえ、雨風くらいはしのげるだろう。後は、森に行った者達の報告待ちだな……。下がって良いぞ」

「承知しました!」


 騎士が背筋を伸ばして敬礼すると、グラムン小隊長から離れて行く。

 その後ろ姿を見送ると、再びグラムン小隊長が森へ目を移す。

 今回、セナソの村へ派遣された調査隊は、グラムンを小隊長とする6人編成の3分隊、19名である。

 うち2分隊は、魔物達の住処である迷宮を探しに森の中へと出かけていた。


「アイツらが帰って来たら、晩飯の用意でも……ん?」


 何かに気づいたグラムン小隊長が、目を凝らす。

 視線の先にある森の中から、見知った騎士達の姿が現れる。

 

 何かから逃げているのか、騎士達は何度も後ろを振り返りながら、村へ向かって走って来る。

 数秒も経たずして、今度は森の中から赤い人影が現れた。

 逃げる騎士達を追いかけるように、次々と現れる赤い人影を見て、グラムン小隊長の目が大きく見開かれる。

 森から出て来たのは、ゆうに100は超えるであろう鬼族の軍勢。

 

「な! 中鬼!?」

 

 子鬼も数匹いるようだが、その周りにいる鬼族の大きさが明らかに異なる。

 子鬼よりも一回り大きく、騎士達と同じ身長はある体格の良い中鬼達が、奇声を上げながら大地を全力疾走で駆け、逃げる騎士達を追いかけていた。

 森の中を逃げ続けたからか、足をもつれさせて転んだ不運な騎士に、中鬼達が次々と襲い掛かる。

 

 倒れた仲間を助けようと、果敢にも戦いを挑もうとする騎士もいたが、やはり数の暴力には勝てず、中鬼達に組み敷かれてしまった。

 騎士の兜を強引に外すと、大きな石を握りしめた中鬼の腕が、何度も振り下ろされる。

 

「グラムン小隊長!」


 村の外で起こった異変に気付いた騎士達が、グラムン小隊長のもとへ駆け寄る。

 村に迫って来る鬼族を、青ざめた顔で見ていたグラムン小隊長が、唇を噛みしめた。


「……撤退だ」

「え?」

「何をグズグズしてる! 撤退するぞ!」

「しかし、まだ森の中に他の者が」

「ならば死にたい奴は、村に残れ!」


 騎士の会話を中断するように、グラムン小隊長が一喝する。

 軍馬達のもとへ駆け寄ると、取り出した短剣で囲いの紐を切る。

 走馬ティバに素早く乗ると、迷わずその場から駆け出した。

 

「糞! なにが子鬼だけだ……やはり素人の話は、あてにできん!」

 

 どうやら村人達から教えられた情報との食い違いがあったようで、顔を真っ赤にして怒り心頭の様子だ。

 イージナの町へ向かって逃げるグラムン小隊長を、部下の騎士達も慌てて追いかける。

 その様子を、森の中から現れた巨漢の魔人が見つめていた。


「なんだアイツら、もう帰るのかよ」


 血糊のついた剣を握りしめ、片方の角が折れた大鬼子が、手を額の前にかざす。

 騎士から奪った剣を肩に担ぐと、つまらなそうに口を尖らせた。


「思ったほど、大したことなかったね」


 声のする方へ振り返ると、握りしめた棍棒を赤く染めた大鬼子が、森の中から現れる。

 もう片方の手には、騎士の片足が握られていた。

 身体の一部が曲がってはいけない方向にねじ曲がっており、既に息絶えた騎士をここまで引きずって来たようだ。

 

「ダンザガがやられたって言うからさ、どれだけ強い奴らかと期待してたのによ。こんなものかよ」

「調子にのるんじゃないよ、ダオスン。ダンザガが負けたのは、他の魔物が子鬼しかいないのに、計画も無しに突っ込んだせいだろうって、ダザランも言ってたじゃない。あたいらは、ダザランの言う通りに、慎重にやれば良いんだよ。そしたら、人界の奴らに負けやしないんだから」

「そうかい……」


 胸と腰に動物の毛皮を巻いた、女性の大鬼子であるムデスが、ダオスンをたしなめる。

 ダオスンは、不満そうな表情で口を尖らせた。


「とりあえず、死体は全部持って帰るよ。親父から貰った魔石も使い切っちまったし、これからは人界の奴らを殺して、魔物を増やさないとね」

「めんどくせぇな」

「ほら、好き放題暴れる馬鹿達を連れて帰って来な。あたいは、森の中で暴れてる奴らを探しに行くから」

「へいへい」


 やる気なさげな顔で、ダオスンが返答する。

 ムデスが森の中へ消えて行くのを見届けると、中鬼達に死体を回収するよう指示を出す。

 鬼族のなかには、死んだ騎士達を玩具にして遊んでいる者もいる。

 まだまだ暴れ足りないようだ。

 

「……」

 

 短い時間で壊滅した調査隊と、好き勝手に暴れ回る鬼族達を静かに見つめる者がいた。

 村から離れた森の中で、小さな子供が顔半分を木から覗かせる。

 黒い髪に桃色の瞳が特徴的な、可愛らしい容姿の幼女だ。


 一見すると、村の子供に見えなくもないが、胸と腰に動物の毛皮を巻いており、普通の村人とは少し様子が違う。

 特に異質なのが、その可愛らしい容姿に見合わない、大きく見開かれた目。

 カメレオンのように飛び出た目玉をギョロギョロと動かし、無言で村の様子を観察している。


「グルルル……」


 幼女の傍では、地面にお座りをする犬がいる。

 犬は顔に深くシワを寄せて、その口から唸り声を漏らす。

 視認はできなくても、優れた耳と嗅覚が戦場の空気を感じ取っているのか、酷く興奮してる。

 

 目を元の状態に戻した幼女が、殺気立つ犬を宥めるように撫でた。

 犬の耳元で何かを囁くと、犬が突然に後ろ足だけで立ち上がる。

 二足歩行する犬を気にも留めず、幼女が犬の背におぶさると、垂れ耳を小さな手で掴んで引っ張った。


「プルプイ! プルプイ!」


 幼女の可愛らしい掛け声と共に、二足歩行する犬が幼女を連れて、森の奥へと消えて行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ