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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第2章 鬼族のくせに生意気だ編

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第23話 皆で村訪問

 

「おお、ハンモックなのじゃー」

「ハンモック? サリナ様の世界では、これをハンモックと呼ぶのですか?」

「そうなのじゃー」


 沙理奈が見つめる先には、トーテムポールのような石の円柱があった。

 積み重ねた大きな石には、様々な魔物の顔が模られている。

 そして、トーテムポールの上部には、フックのような物が取りつけられており、それに引っ掛けられたロープの先にはクレスティーナが最近買った、大きくて綺麗な布が広がっていた。

 クレスティーナが布の上に座っているが、トーテムポールとククリの家の壁から、ロープで両端を引っ張られているために、布が地面に触れる事は無い。


「この村に、スナイフという手先の器用な者がいましたので、作らせてみました」

「ほうほう。ここで昼寝をするのじゃー?」

「そうです! よく分かりましたね」


 魔界のお嬢様が嬉しそうに手を叩くとハンモックから立ち上がり、沙理奈に場所を譲るよう横へずれた。

 沙理奈が靴を脱ぐと、ハンモックに腰を下ろし横になる。


「これは快適なのじゃー。ロリ狐は賢いのじゃー」

「ですよね! ありがとうございます」

「これなら横になったまま、本も読めるのじゃー」

「なるほど……。その手がありましたか」


 沙理奈が体勢を変えて、まるで本を読んでるようなポーズを取る。

 それを見たクレスティーナが感心したように頷く。

 

「これで近くに飲み物と食べ物があれば、食べながら本が読めるのじゃー」

「サリナ様……天才ですわ! 私には、到底思い付かないような発想ですわ!」

「やっと気づいたのじゃー?」

 

 ドヤ顔をする沙理奈をクレスティーナが褒めちぎる。

 同じ狐耳を持つ者同士なため、2人の素性を知らぬ者であれば、狐の獣人姉妹が仲良く談笑しているようにも見えるだろう。

 2人の傍では子鬼のククリが、悪魔幼女リリスから指導をされながら、地面に寝転がる犬人コボルトを毛づくろいしている。


 狐耳の少女達が、和気あいあいと会話をしてる一方で、村の中は重苦しい空気が支配していた。

 厩舎きゅうしゃらしき小屋の前に、商人のダナンズや村長、それと村の武装した傭兵達の姿が見える。

 緊張した様子の彼らが見つめる先には、見た目は普通の人と変わらぬ黒髪の少年がいる。

 黒髪少年の勇樹が、興味深げな顔で小屋の中を覗き、顎に手を当てる。


「馬か……」


 勇樹が見つめる先にいる生き物は、正確には彼の知る馬とは少し異なる。

 例えるなら、馬と蜥蜴を足して2で割ったような見た目である。

 身体の表面には鱗があり、目も爬虫類のイメージに近い縦長の瞳だ。

 初めて見る者には少々怖い印象を与えるが、餌を与えて懐かせれば、家畜として飼われるくらいに従順な性格を持つ。


 先程まで村長達が話した説明によると、この小屋には2種類の馬がいるらしい。

 足が遅いが身体全体が大きく、重い物を運べそうな荷馬がレクバと呼ばれ、後ろ脚が太く、前足が逆に短くて二足歩行型の走馬がティバと呼ばれるようだ。

 荷馬車として扱う時はレクバを使い、目的地まで素早く移動したい時はティバを使うようである。

 2種類とも雑食で、主に野草を食べるが、果実も好んで食べる。


 悪魔メイドのエモンナが、村の特産品であるオランゲの実を差し出すと、恐る恐るであるが黄色の果実を口先で摘む。

 口の中に入れると、口元から果汁を垂らしながら勢いよく齧りだした。


「使えますでしょうか?」

「うーん、そうだなー。これからは戦場が遠くなりそうだし、そういう時には食料とか武器とか運ぶのに、役立つんじゃないの?」

「なるほど」

「お父様ー!」


 勇樹とエモンナが会話をしてると、背後から女性の声が聞こえてくる。

 2人が振り返った先には、手を上げて左右に振りながら、笑顔で駆けて来る少女の姿が見えた。


「お父様ー! ……邪魔よ!」

「ゴフッ!?」


 吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアの少女が勇樹とエモンナの近くまで来ると、突然に空高く跳躍する。

 勇樹達の後ろに立っていた2mにもなる大鬼子オーガ・ミニが、顔面に綺麗な飛び回し蹴りを食らって、勇樹達の視界から消えた。

 何事も無かったかのように吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアが地面に着地すると、横にくるりと一回転する。


「お父様、どうですか?」

「おお。……良いんじゃない」


 エモンナ達の前にやって来た吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアを、勇樹が上から下へと眺める。

 今朝まで原始人のような獣の皮を巻いただけの少女が、今は平民が着るような服を着ていた。

 もともと吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアは、人に近い可愛らしい容姿をしており、背中に生えた羽が服に隠れれば、その辺にいる村人の少女にしか見えない。

 瞳が桃色なのを除けば、勇樹の世界でも色白の女子高生として認識されるだろう。


「パイアは可愛くなりましたか?」


 目元の黒髪を手でかき上げて、上目遣いで見つめる少女を見て、勇樹が頷く。


「可愛い、可愛い。じゃあ、パイアのはこれで。良いよね?」

「はい、問題無いかと」

「キャッ! お父様に、可愛いて言われちゃった」

「……なぜ、俺は蹴られたんだ?」


 パイアが頬に両手を当てて、嬉しそうな表情ではしゃいでいる。

 頬を赤く染め、落ち着きなく足踏みをしている少女の隣では、地面に倒れたままの大鬼子オーガ・ミニが、不機嫌そうな顔でパイアを見上げていた。


 勇樹達の視界の先では、先程までパイアに試着をさせていたナテーシアが、慌てた様子で走って来ていた。

 どうやらどうしても勇樹に見せたくて、店から飛び出して来たようである。


「後はダンザの服と、適当なのを見繕ってもらおう」

「そうですね。ダンザ、いつまで寝てるのです。行きますよ」

「……分かった」


 エモンナに声をかけられたダンザが、何とも言えない顔で身体についた土ぼこりを払いながら起き上がる。

 理不尽な扱いではあるが、もはや諦めの境地にいるのかもしれない。

 なにしろ吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアのパイアは、迷宮で産まれた時から口よりも先に足が出る性格だ。

 誰に似たのかとても気が強く、大鬼子オーガ・ミニのダンザですら扱いに困るくらいである。


 ちなみに、倒された大鬼子から新たに産まれた2匹に名前を与えたのは勇樹だ。

 元大鬼子から産まれたせいか、エモンナ達の知る魔物と異なるところが多く、子鬼のククリと同じくユニークな魔物と定義されることになった。

 また、普通に勇樹とも意思疎通の可能な会話ができるので、魔人扱いともなっている。

 村人達の恐怖心を煽らないようにするために、生前の名前を若干改名したダンザも引き連れて、勇樹達は雑貨店に足を運ぶ。


 次の戦いに向けて雑貨店で必要な物を買い揃えると、ハンモックで遊んでる沙理奈達のもとへ向かう。

 勇樹が興味深げにハンモックを一通り観察した後、手先が器用だとクレスティーナに紹介されたスナイフの店へ足を運んだ。

 店に入った途端、立て掛けられた剣に沙理奈が駆け寄り、まじまじと見つめる。


「おおー。剣がいっぱいあるのじゃー」

「スナイフ。オニ様が、仕事をお願いしたいそうよ」

「仕事ですか? ……何を作れば宜しいので?」

「うん。ちょっと簡単なやつをね」


 部屋に転がる木の板や木の棒を拾って、勇樹が簡単に作って欲しい物を説明する。

 スナイフから見れば、勇樹が魔人5人を引き連れて、やって来たように見えるだろう。

 突然の訪問に戸惑うスナイフだったが、依頼料を支払うということで渋々と勇樹の話を聞いている。

 

「それくらいなら、すぐに作れますが」

「そう。じゃあ、一先ずそれを作ってもらって、後は実際に試してみて……ん?」


 何かに気づいた勇樹が、壁に飾られたとあるものに近づき、顔を寄せる。

 無言でそれを見つめる勇樹に、エモンナが思わず声をかけた。


「オニ様。その兜が、どうかなさいましたか?」

「うーん……。ちょっとねー」


 壁に飾られた、2本の角を生やした大きな兜をスナイフに取ってもらう。

 勇樹がそれをいろんな角度から、熱心に見つめている。


「こんな兜って、よくあるの?」

「えーと、ここまで大きいのはそんなに多くないですが、南山族エルーシアと呼ばれる連中が好む兜です。強い鬼族を倒した証として、その……角を取って兜を作るそうです」


 勇樹達の後ろにいる大鬼子オーガ・ミニのダンザをチラチラと見ながら、スナイフが言いにくそうな表情で勇樹に説明する。


「ふーん。なるほどねー……」


 スナイフの説明を聞いて何かを閃いたのか、角の生えた兜を見つめる勇樹が、楽しそうな笑みを浮かべた。






   *   *   *






 村の外の開けた場所で、対峙する複数の人影が見える。

 状況としては、背中合わせに立つダンザとパイアを、5人の元傭兵が取り囲んでいた。

 大鬼子オーガ・ミニのダンザは木刀を構え、吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアのパイアは木刀を更に削った短刀を逆手に構えている。

 

「……」

 

 長く続いた睨み合いは、我慢しきれなくなったダンザが動いたことで一変する。

 

「ッ!?」

 

 盛り上がった筋肉に包まれた腕から放たれた一撃は、目の前にいた男の顔を歪ませるには充分だった。

 何とか身体に当てられないように木刀で防いだが、追撃を恐れてすぐさま後ろに下がる。

 突撃してきたダンザに、別方向から剣撃が襲い掛かり、それに気づいたダンザが木刀で弾く。

 

「む?」

 

 しかし、死角を突いた3人目の攻撃は避けきれなかったようで、背中に木刀の攻撃が命中した。

 ダンザの怪力に恐れをなしてるのか、元傭兵組は距離を取った戦い方に専念している。

 

「馬鹿ダンザ! 何発貰ってるのよ! 考えなしに、前へ出過ぎよ!」

 

 3対1に苦戦するダンザの背後に、パイアの罵声が飛ぶ。

 罵声を浴びせた張本人は、2対1の状況にいながらも、相手の攻撃を素早く避けている。

 

「そんなんだから、子鬼ククリにも負けるのよ! さっさと私を援護しなさい!」

「チッ」


 ダンザが不機嫌そうな顔で舌打ちすると、突然にパイアの方へ身体を向けた。

 急な方向転換に面喰らう3人組を無視して、パイアに向かって突撃する。

 急接近して来たダンザに気付いて、パイアと戦ってた1人が後ろへ距離を取る。

 しかしその男も無視して、別の男と戦うパイアの背後を狙うように、ダンザが木刀を振り抜いた。

 

 パイアの頭に当たるかと思った瞬間、それを読んでいたかのか、突然パイアが頭を下げる。

 当然ながら、それを予想していなかった男が、慌てて身を守るように木刀を構えた。

 大鬼子オーガ・ミニの強烈な一撃を正面から喰らって、男が思わず後ろへ仰け反る。


「隙あり」


 そのタイミングに合わせたかのように、身を低くしていたパイアが前へ飛び出た。

 よろめく男の背後へ素早くパイアが回り、背後から抑え込むように手を回して、ナイフに見立てた木の短刀を首元に当てる。


「グッ……。参った」

「よし、1人」

 

 1人が戦線離脱したのを確認すると、すぐさま次の獲物に向かって走り出す。

 4対1の乱戦に飛び込むと、今度はダンザを援護するように戦い始めた。


「おお。今の凄いね。パイアはいつ後ろを見てた?」

「いえ。パイアは、後ろを見てないはずです。何か私達には気づかない、合図のようなモノがあったのかもしれません」


 村の者が用意した木の椅子に座って、模擬戦を眺めている勇樹にエモンナが答える。

 大鬼子オーガ・ミニ吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアがどれくらい戦えるかを調べる為に、急遽村の元傭兵達との模擬戦を始めて見たが、ダンザもパイアもそれなりに苦労してるようだ。


「大鬼子を仕留めただけあって、流石に連携が上手いね」

「そうですね。戦場を経験した者だけのことはありますね」

「逆に、こっちの連携は酷いな。時々、凄く良いのもあるけど」

「パイアに魔法を使わせなければ、こんなものでしょう」


 今回模擬戦に参加してもらった5人組は、以前国境砦付近の村で暴れていた大鬼子を討伐した者達だ。

 長いこと傭兵として苦楽を共にしたパーティーだけあって、息の合った連携を見せている。


「これが真剣だったら、ダンザは真っ先にやられてるな」

「そうですね」


 さっきから何度も木刀で叩かれてる大鬼子オーガ・ミニを見て、勇樹が溜め息を吐く。

 逆に吸血鬼亜種ヴァンパイア・レアの方は、攻撃と防御のタイミングをしっかりと見極めてるのか、一撃も貰ってない。


「パワータイプとスピードタイプか……」

「え?」

「んー。最初は、ダンザだけでもいけるかなーと思ったけど、パイアも一緒の方が良さそうだな」

「そうですね。パイアも少々短気な所がありますが、オニ様の命令であれば大人しく従いそうなので、ダンザと一緒に行動させた方が問題無いかと思います」

「ダンザも守りに徹すれば、そこそこいけそうだけどね」

「あのような性格では、難しそうですね」

「うーん……」

 

 難しそうな顔で、勇樹が模擬戦の様子を眺める。

 急造コンビだけのことはあって元傭兵組相手に苦戦しているが、ひたすら目の前の敵を倒すことに夢中なダンザとは違い、パイアは相手の連携を崩すよう上手く立ち回り始めている。


「とりあえず今日と明日の訓練で様子を見て、大丈夫そうだったら砦の方をお願いしようかな」

「それが宜しいかと」


 勇樹の意見に、エモンナが賛成の意を表すよう頷いた。


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