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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第1章 異世界のチュートリアル編
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第02話 子鬼

 

「おにぃ! 第1村人! 第1村人!」

「正確には、第2異世界人だと思うぞ。何か、悪魔キャラぽいな。すげぇリアル……」


 髪の色に合わせているのか、桃色をベースとしたメイド服の女性が、2人に近づいて来る。

 その背中からはコウモリのような羽が生え、腰からも先の尖った尻尾が生えていた。

 本来白目である所が黒く、瞳も桃色だ。


 現実世界には存在しない人間だと、すぐさま判断できるような容姿である。

 悪魔姿の侍女が、深く頭を下げた。


「此度は、我々の召喚の儀により、この世界への召喚に応えて頂き、ありがたく思います」

「おっ、なんかNPCが話し始めたな」

「ボン、キュッ、ボーン!」

「……?」


 妙なことを口走る沙理奈達を見て、悪魔姿の侍女が小さく首を傾げた。

 沙理奈に抱かれて気絶しているクレスティーナを一瞥すると、再び口を開く。


「まずは私共の方から、自己紹介をさせて頂きます。私の名は、エモンナ。そこで気を失ってるクレスティーナ・イネデール・デモネウス様の世話役をしている者です。もし宜しければ、貴方様の名をお伺いしてもよろしいですか?」

「やっぱり、これもNPCだったか。ていうか、名前長っ」

「私? 沙理奈! こっちは、おにぃ!」

「おい……」

「承知しました。サリナ様とオニ様ですね。さて、早速ではありますが、我々は現在窮地に立たされております」

「窮地?」

 

 明らかにおかしい自己紹介をされてしまったが、勇樹はそのことを訂正せず、別のことに強く反応した。

 

「はい。我々の願いを聞き届けて頂けるのであれば、それ相応の報酬をこちらより差し上げるつもりでいます」

「最初の依頼クエストか……。具体的に、何をすればいいんだ?」


 勇樹の依頼クエストと言う言葉にエモンナが反応して、再び小さく首を傾げる。

 しかし、そのことには触れずに話を進めた。


「はい。我々には敵対する勢力がいるのですが、現状クレス様を守護する者が私以外おりません。この迷宮で、支配下に置ける魔物を増やしたいのですが、残念なことに我々は知識があれども、実際に迷宮を構築した経験がありません。それ故に、サリナ様とオニ様には、その魔物を増やす為のご協力をお願いしたいのです」

「迷宮を作って、魔物を増やすか。ふーん……。で、報酬の方は?」

「残念ながら今のクレス様には、サリナ様とオニ様に差し上げるモノはございません。ただし、クレス様と敵対する者達を倒すことができれば、奪われた領地を取り戻し、そこから報酬を差し上げることが可能になります。いかがでしょうか?」

「……まあ、よくあるパターンだな。沙理奈、とりあえずこの依頼クエスト受けて良い? たぶんこれ、受けないと話が次に進まない、強制イベントだと思うから」


 気絶しているクレスティーナのほっぺを左右に引っ張って、2人の話をまったく聞かずに遊んでいた沙理奈が顔を上げる。


「ふぇ? うん。良いよ!」

「その依頼を受けよう」

「おお! ありがとうございます。このご恩は、一生忘れません」

「で、こっちも早速なんだけど、魔物はどうやって増やせば良いんだ?」

「それなのですが……」


 先程までの嬉しそうな表情から一転して、エモンナの顔が困ったような表情になる。


「実は、迷宮に関する知識を持っているのが、そこで気絶してるクレス様なのです」

「え? エモンナは知らないの?」

「はい。私は侍女としての知識は持ってますが、迷宮についての知識はクレス様の話を、聞きかじった程度です。魔界にいた頃のクレス様は、部屋に引き込もって本ばかりを読んでましたので、人界のことも含めて、知識ばかりが豊富でして……」

「ふーん。どっちにしろ、起きるまで待つしかないってことか」

「はい、申し訳ございません」


 深々と謝るエモンナを責めるわけもいかず、勇樹達は大人しく待つことにした。


「それにしても、NPCのテキスト量がすごいな。たぶん、俺の話す単語を拾って、それに合わせた会話をしてるんだろうけど、どんだけ会話パターンが豊富なんだ。声優も棒読みじゃなくて、ちゃんとしたプロっぽいし。最初からこんなペースだと、製品版を出す頃には開発者とか死ぬんじゃないのか?」

「ふぇ?」

「あっ、悪い。独り言だ。えーと、まるで本物の人間と喋ってるみたいだって話だよ」

「おー。確かに、モフモフはリアルだね!」


 饒舌に喋り出した勇樹に対して、沙理奈がちょっとずれた返答をする。

 勇樹がエモンナ達に視線を移すと、気絶した魔界のお嬢様を膝枕して、静かに見つめるメイドの姿が目に入る。

 今までのエモンナとの会話、仕草とどれを見ても生きた者との接し方にしか見えない。

 ゲームだと思っていても、ここまでリアルに忠実な完成度だと、勇樹が内心ひどく興奮するのも無理はないだろう。


「ハッ!? ここは、どこですか?」


 ようやく目覚めたクレスティーナが、上体を起こして周りをキョロキョロと見渡す。


「フヒヒヒ、可愛い子ちゃ~ん」

「ヒィッ! エモンナ!」


 目覚めた途端、両手をにぎにぎと開いたり閉じたりしながら、怪しげな笑みを浮かべて近づく危険人物が目に入る。

 怯えたクレスティーナがエモンナにしがみつくと、沙理奈の頭上に分厚い本が振り落とされた。


「やめんか」

「イダッ!?」


 クレスティーナが落とした本の角攻撃を頭にくらって、沙理奈が両手で頭を抱えてうずくまる。

 見知らぬ人物がいることを初めて認識したクレスティーナが、無言で2人を見つめる。

 

「……」

「クレス様。どうやら今回は、当たりのようですよ」

「え?」


 勇樹達には聞こえないようにエモンナが囁くと、クレスティーナが不思議そうな顔をして見上げる。

 状況が理解できず混乱する狐耳のお嬢様に、エモンナが説明を始めた。






   *   *   *






「おそらくですが、時間だと思います」

「時間?」

「はい」


 エモンナから説明を受けて、ようやく落ち着いたクレスティーナが、勇樹の問いかけに頷く。


「迷宮が主と契約を交わしてから、魔物を産み出すまでには少々時間がかかると、本に書かれていた記憶があります。実際、先程から迷宮内の魔素の流れが、大きく変化してるのを感じます」

「ふむ」

「ほう、ほう、ほう」


 ゴシックドレスを着た狐耳お嬢様が壁に触れながら説明すると、勇樹が頷く。

 クレスティーナの腰から生えているフサフサの狐尻尾が、左右へ揺れるのに合わせながら、なぜか沙理奈が何度も頷いている。


「魔物の気配も感じるようになってきましたので、卵が近くにできてるのではないかと」

「卵?」

「はい。……こっちですね」


 クレスティーナが視線を彷徨わせると、黄金の繭がある部屋から移動を始めた。

 勇樹達もその後をついて行く。

 

「暗いな……」

 

 黄金の繭がある部屋の外に、どこかへ繋がってそうな通路が目に入ったが、通路の奥は真っ暗だった。

 

「あ……。明りを点けますね」


 クレスティーナが何かを呟くと、人差し指が突然に青白く発光する。

 指先に青白い小さな玉のようなモノができて、それが発光しているようだ。


「おお。便利なのじゃー」

 

 それを見た沙理奈が、感心したような表情を見せる。

 

「すみません。私達魔人は、夜目が利くので……」

「ロリは、魔法が使えるのじゃー?」

「ロ、ロリコ? それはもしかして、私のことでしょうか?」

「そうなのじゃー」

「えーと……はい。これくらいのことであれば、多少は……」

 

 洞穴の通路を移動すると、別の小部屋に辿り着いた。

 先頭を歩いていたクレスティーナの光が、室内を照らす。


「あっ……」

「え?」

「ふぇ?」

「クレス様、さがって下さい!」


 光に照らされた人影を捉えたエモンナが、慌ててクレスティーナを守るようにして前に出る。

 腰に備え付けていた鞭を取り出すと、エモンナがそれを構えた。

 

「グギャア?」

 

 口が耳まで裂けた凶悪な顔が、勇樹達に振り返る。

 肌は周りの壁と似たような土色で、身長は150cmくらい。

 中学生の沙理奈と、同じくらいの身長だ。

 

 おでこからは、2つの白い小さな角が生えている。

 警戒するエモンナ達をよそに、沙理奈が前に飛び出した。


「うわー、超ブサイク!」

「お? ゴブリンか?」


 エモンナの後ろから覗き込むようにして勇樹が顔を出すと、人の形をした何かを『ゴブリン』と呼んだ。

 勇樹だけでなく沙理奈も、異世界を題材にしたファンタジーゲームを好んでやっている。

 2人が好むコンピュータRPGで、最初に出る最弱の魔物がゴブリンと呼ばれる人型の魔物だった。

 

 「キャー! キャー!」と悲鳴を上げながら、なぜか沙理奈が嬉しそうな顔で、『ゴブリン』と呼んだ生き物にべたべたと触れる。

 勇樹もそれに近づくと、初めて見る等身大の人型の魔物を、興味深そうに観察している。


「やっぱゴブリンは、ファンタジーゲームのお約束だよな。すげぇな、映画の特殊メイクみたい……うっ、キモ……。お前、よくこんなキモイの触れるな」

「ふぇ?」


 『ゴブリン』の目がギョロリと動き、それを見た勇樹が思わず後ずさった。


「それで、これをどうすればいいんだ?」

「え、えーと……。エモンナ、あれって子鬼よね?」

「はい。私も、そうだと思ったのですが……」

「ゴブちゃんゴブちゃん、ゴブゴブちゃん!」


 沙理奈が楽しそうに話しかけると、目の前の子鬼が首を傾げる。


「グギャ?」


 人型の魔物が一声出すと、その後に続けて似たような言葉で何かを喋り出した。

 しかし、勇樹の眉根がどんどん寄っていき、おでこに皺が深く刻まれる。


「沙理奈、訳して」

「よし、任せろ。おにぃ、分かんない!」

「はえよ。なんで任せろとか言ったんだよ」


 堂々と胸を張って宣言する沙理奈に、思わず勇樹がツッコミを入れる。

 兄妹漫才をする2人に、クレスティーナが恐る恐る近づく。


「あのぅ……。オニ様、私でよければ通訳をいたしましょうか?」

「お? コイツらの言葉、分かる?」

「はい。鬼族の言葉は、分かります」

「おお。ロリコは、ホントに便利なのじゃー」


 クレスティーナが口を開くと、目の前のゴブリン達と同じような意味不明な言葉で話始める。

 鬼族が苦手なのか、鞭を構えて警戒するエモンナの後ろから、顔だけを出して会話をしている。


「どうやらこの子鬼は、オニ様とサリナ様がこの迷宮の主であることを認識しており、食事さえ頂けるのであれば、何でも従うとのことです」

「食事?」

「はい。この子鬼は、一角兎を要求しています」


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