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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第1章 異世界のチュートリアル編
15/54

第15話 お嬢様の出陣?

 ※元採掘者デニマ:関連話(第12話)


 

 陽の光がさんさんと照らす街道を、1台の荷馬車が移動している。

 全身を布で覆った見るからに怪しげな風貌の御者と、荷台に男1人載せた荷馬車は、魔物達に占領されたと言う噂で有名な村へ向かっていた。

 

「おい、まだ着かねぇのか」

「もうすぐ着きますよ、旦那」

「さっきから、そればっかりじゃねぇかよ……」


 愛想の欠片もない言葉を御者から返されたが、デニマは特に怒ることもなかった。

 むしろ、怒る元気も無いと言った方が、正しいのかもしれない。

 イージナの町から1日通して、激しく揺れる荷馬車を乗り続けたのが、相当堪えたのだろう。

 目に見えて疲れた表情を見せており、デニマの声には覇気がなかった。


「ケツいてぇー」

「旦那、村が見えましたよ。お知り合いも、いらっしゃるようですね」

「おお、やっとかよ……」


 目的の場所が見えると、心底嬉しそうな表情でデニマが荷台から降りた。

 御者が言うように、村からこちらに手を振りながら歩み寄って来る者がいる。

 デニマが自分の尻を撫でるような仕草を見せると、身体をほぐすように腕を伸ばす。


「お迎えは、3日後で宜しいんですね?」

「とりあえずな」

「分かりました。ご武運を」

 

 フードに顔を覆われて、その表情を詳細に見ることはできないが、口許を不気味に歪ませて御者が笑みを作る。

 御者が手綱を動かして、荷馬車をもと来た道へと向ける。

 知り合いからの紹介とはいえ、デニマがその後ろ姿をげんなりとした表情で見送った。


「おせえじゃねぇか、デニマ」

「わりぃわりぃ。ちょっと野暮用でな」

「野暮用って、それか?」


 デニマが手に持っている剣を男が見つめる。

 鞘から刀身を出すと、デニマが自慢げにそれを見せた。


 迷宮が現れた絡みで最近は、魔物が大量に発生している。

 騎士だけでは人手が到底足りず、国も町から傭兵を募って迷宮の攻略に当たらせていた。

 戦争が発生するということは、当然負傷者や死者もでる。

 そうなると、武具をわざわざ買うより、死んだ者から剥ぎ取った方が早いと思う者も現れる。


 デニマが持っている剣は、そんな曰くつきの物を取り扱う、知り合いの闇商人から手に入れた物だ。

 剣を買う金がないからと、危ない仕事の手伝いをした借りを、ここぞとばかりに返してもらう代わりに譲ってもらった剣であった。


「それで。こっちはどんな感じだ?」

「子鬼とか言うのが村にいたけど、大したことねぇよ。コイツで頭をカチ割ってやったぜ」


 肩に担いでいたツルハシのような物を持つと、その時を再現するかのように振り回す。

 採掘者であったデニマと元同業者である男は、仕事道具を武器代わりにしてるようだ。


「なんでぇ。わざわざ剣も手に入れたのに、使わずじまいかよ」

「おう。それなんだけどよ。これから魔物の棲みかを、探しに行こうかって話をしてるんだよ」

「あん?」


 こちらから迷宮へ攻め込むという話に、思わずデニマが眉根を寄せる。


「大丈夫かよ」

「知り合いから、傭兵も1人雇ってるから大丈夫だよ」

「へぇ。傭兵なんてよく雇えたな」

「魔人がいるんだろ? その話をしたら、喜んでついてきやがったよ。それにこのまま魔人が来るのを待ってたら、俺達以外の奴らがやって来て、取り分が減るかもしれないだろ?」

「……それは困るな」


 無精ひげを撫でながら、デニマが難しそうな顔をする。

 しばらく考え込むような様子を見せた後、面倒臭そうな顔で頭をかいた。

 「しょうがねぇな」と1つ呟いて、仲間達が待つ村へ足を運んだ。






   *   *   *






 薄暗い迷宮の中を、可愛らしい一行が練り歩いている。

 背中から小さなコウモリの羽を生やした、身長1mくらいの悪魔幼女リリスの集団だ。

 鼻歌まじりで歩くその小さな両手には、リンゴくらいの大きさの赤い果実が握られている。

 

 黄金の繭がある部屋に入ると、迷うことなく1人の魔人に歩み寄った。

 近づく悪魔幼女リリスに気づいたのか、本に何かを書いていたエモンナが顔を上げる。

 

「今日の収穫分ですか?」

「キュプイ」

 

 悪魔幼女リリスが頷くと、ゴリンの実を差し出した。

 エモンナがゴリンの実を受け取り、それをいろんな角度に変えて観察する。


「大きさは、問題無いんですけどねー……」


 表面に青い斑点のある果実を、エモンナが1口齧る。

 味合うように口内で咀嚼すると、それを飲み込んだ。

 

「やっぱり、味が薄すぎますね。これでは水と変わりません。残りは全部食べて良いですよ」

「キュップイ! キュップイ!」

 

 不満顔のエモンナが齧りかけのゴリンの実を渡すと、悪魔幼女リリスが嬉しそうな顔で受け取った。

 他のゴリンの実を持ってる集団に駆け寄ると、悪魔幼女リリス達が赤い果実を齧り始める。

 収穫できた数より、産まれた悪魔幼女リリスの方が多いので、皆で仲良く分け合って食べている。

 

 そんな光景にも目をくれず、エモンナが本をめくる。

 目的のページを見つけると、空白のスペースに『4階層で生産した場合、大きさは合格。しかし、魔力が到底足りず。5階層に期待。』と記入した。

 どうやら、魔樹農園の観察日記を書いてるようだ。

 

「暇だわ~」


 魔界から持ち込んだ上等な獣皮の上で寝転びながら、クレスティーナが古めかしい本を放り投げる。

 お昼御飯を食べた後だからか、かなりだらけた態度だ。

 それを見た悪魔メイドが、思わずため息を吐いた。


「クレス様。いくら村との戦争が回避できたからとはいえ、緊張感がなさすぎますよ。私達には、魔人という脅威がまだ残ってるのですから」

「エモンナはそう言うけど、あっちからは大して何もしてこないじゃない。やって来る赤子鬼はいつも同じだし、流石に飽きてきたわ。もうこっちから、攻めても良いんじゃない?」

「流石にそれは、まだ時期尚早だと思うのですが……」


 魔界のお嬢様の物騒な発言に、エモンナが困ったような顔をする。

 ククリという優秀な手駒を手に入れたせいか、子鬼達の狩りも任せてしまったクレスティーナは、同じ本を読んで時間を潰す生活に飽きたらしい。


「クレス様、何をなさってるのですか?」

「こっちから、本当に転移できないか試してるのよ。図書館に戻れたら、他の本が持って来れるでしょ?」

「……」


 黄金の繭に塞がれてない隙間から、クレスティーナが転移門を手で触ってみたり、足をのせてみたりしている。

 本人がどこまで本気なのか分からないが、それを困惑したような表情でエモンナが見つめていた。

 

「……あっ、クレス様。どうせなら、村へ顔を出してみてはどうでしょうか?」

「村? 大して面白い物の無い村なんか見て、どうするのよ」

「まあ、そうなんですが……」


 村の状況については、既にエモンナが事細かに報告している。

 エモンナ自身が、『大して面白味もない村でした』と断言してしまってるだけに、その後の言葉がすぐに続かない。


「えーと……でも、クレス様が初めて手に入れた領地ですよ? つまりあの村は、クレス様の領地です」

「私の領地?」

「そうです。となれば領主として、自分の目で領地を視察してみるのも宜しいかと。……このまま外出しないと、また食っちゃ寝生活に戻りそうですしね」


 最後にボソリと小さな声で、エモンナの本音が漏れる。

 村人視点から考えれば魔人の領地になった覚えはないが、魔物達をけしかければあっという間に征服できる村なので、魔人視点で考えれば既に領地扱いなのだろう。

 まるで衝撃を与えられたかのように、クレスティーナが突然に固まる。


「私の……」

「……クレス様?」

「私の力で手に入れた、私の領地! その響き、良いわね!」

「えっと……。どちらかというと、オニ様のお陰で手に入れた領地だと思うのですが……」

「そうね、そうよね。領主となったからには、自分の領地を見に行く必要があるわよね!」


 もはやエモンナの言葉も耳に入ってないのか、目を輝かせてクレスティーナが拳を握りしめる。

 鼻息も荒くして、まるで新しい玩具を見つけたかのような反応だ。

 フサフサの狐尻尾も、嬉しそうに左右へ激しく揺れている。

 今まで誰かのお下がりである図書館や迷宮ばかりだったからか、自分の力で手に入れた領地という響きが、更に良く聞こえたのかもしれない。


「ククリ、村へ出陣よ!」

「クレス様。自分の領地に、攻め込まないで下さい……」


 いつもの狩りに行く調子でククリを探し始めた主を、エモンナが呆れたような表情で見つめる。


「それとククリでしたら、とっくに食事を終えて、森へ小動物を狩りに出かけてます。誰か様と違って、仕事熱心な魔物ですので」

「鬼族の癖に、仕事熱心とは生意気ね! 人生ていうのはね、もっと自堕落に生きないと駄目なのよ!」

「食っちゃ寝のクレス様に言われると、妙な説得力がありますね。さすが、駄目魔人のお手本ですね」

「はいはい、皆いつまで遊んでるのよ。出掛けるわよ!」


 善は急げとばかりに掌を叩いて、お供として連れて行く魔物達を集める。


「クレス様。分かってるとは思いますが、くれぐれも人界の者達との戦争は避けて下さいね」

「はいはい、分かってるわよ」


 侍女の忠告を煩わしそうな顔で答えながら、犬人コボルトの背中におんぶしてもらう。

 村まで歩く気は、全くないようだ。

 若干心配そうな悪魔メイドに見送られながら、クレスティーナが『暇つぶし』のために村へ出掛けた。






   *   *   *






 簡素な石造りの室内で、数人の男達が難しそうな顔をして立っていた。

 室内には、様々な農具や作業道具が置かれている。

 この家は、手先の器用なスナイフがやっている『修理屋』であり、簡単な農具の修理をやっていた。


 ただし、部屋に置かれてるのは農具だけでなく、角の生えた兜のような物が壁に飾られてたり、剣や盾が立て掛けられていたりもする。

 テーブルを中心にして立っている男達の腰には剣が提げられており、ただの村人ではなさそうだ。

 扉を力強くノックする音が、室内に響く。

 

「俺だ。開けてくれ」

 

 スナイフが鍵を外して扉を開けると、強面の顔が目に入る。

 苦虫を噛み潰した様なダゴックの顔を見て、スナイフが眉根を寄せた。


「なんだよ、その顔は」

「ダナンズに、こっぴどく叱られたんだよ」


 いつも以上に不機嫌そうな顔なので、気の弱い人なら悲鳴でも上げてしまいそうだ。

 ダゴックが先程までのやり取りをかい摘まんで話しながら、テーブルを囲む男達に近寄る。

 スナイフに同情するような言葉を貰いながら背中を叩かれると、テーブルの上に置かれていた1枚の紙切れを手に持った。


「それで、誰かこれに思い当たる奴はいたのか?」


 紙に書かれているのは、不思議な文字が書かれた魔法陣のような絵。

 それはナテーシアの手に刻まれた呪印を、スナイフが描き写したものだった。

 ダゴックが男達に問い掛けるが、皆が首を横に振る。


「まあ、傭兵如きじゃ分からんわな」


 ここにいる者達はただの村人ではなく、若い時には傭兵として活躍していた者達だ。

 隣国へ買い出しに行った、ダナンズの護衛役をしていた者達もおり、全部で8人の元傭兵が集まっていた。

 傭兵ともなれば、様々な所に雇われていた経験がある者達なので、その辺りの知識を頼りにしたのだが、どうやら有益な情報は得られなかったようだ。

 予想通りの結果だったのか、ダゴックはそれほど落ち込んだ様子を見せなかった。


「さっきダナンズと話していて、思い出したんだがよ。先生に聞いてみたらどうだ?」

「先生?」

「おう。貴族で頭良いけど、変わった奴がいただろ? 迷宮のことを調べるセーターケンキュウとかしてた奴だよ。昔は迷宮だった鉱山を調べる時に、力仕事を手伝わされたことがあったじゃねぇか」

「ああ、あの人か! あの人ねー……」


 思い当たる人物がいたのか、スナイフが手を叩く。

 しかし、すぐに難しそうな顔をした。


「でも、小難しいことばかり言って、苦手なんだよなーあの人……」

「そうは言っても、貴族で一番長い付き合いがあったのが、アイツしかいねぇし。こういうのに詳しそうな貴族に、俺は他の伝手はないぞ。誰かいるか?」


 ダゴックが周りに視線を移すが、他の者達は首を横に振る。

 他の意見も出ないのを見計らって、ダゴックは1人の若者に目を移した。


「ハシリ。お前ちょっと行って、これを聞いて来てくれ」

「え? 俺ッスか?」

「前に、先生と実家が近いって話をしてたろ?」

「それは、してましたけど……」


 ハシリが嫌そうな顔をするが、ナテーシアの為だと言われると文句も言えず、渋々了承した。

 スナイフが聞いてきて欲しい内容を紙に書き、それをハシリに渡す。


「そっちはハシリに任すとして。さっきダナンズから聞いたんだけどよ、砦の方で魔人と戦ったんだって?」

「ああ、あれか……」


 ダナンズの護衛をしていた元傭兵5人が、互いの顔を見合わして苦笑する。

 彼らは迷宮から溢れた魔物達により、近隣の村が滅びたことで、国境砦に長い間足止めされていた。

 自分達の村が心配で早く帰郷したかったが、滅びた村の奪還に騎士達が手こずっており、通行を許可してもらえなかった。


「アイツら、面倒臭いことを俺達に押しつけやがって……」

「魔人の賞金も取られた上に、タダ働きなのが腹立つよなぁ」


 ダナンズが騎士達と交渉を続けて、ようやく許可を貰える条件として与えられた任務が、なかなかに厄介な作戦だった。

 村で好き放題に暴れてる子鬼達は、魔人の命令によって行動していた。

 命令を出すリーダーを奇襲して、指揮系統を混乱させるのが、彼らに与えられた任務だ。


 騎士達に気を取られていた魔物達の背後を取って、ようやく大鬼子の魔人を仕留めたらしい。

 魔人を倒すという活躍をしながらも、彼らに与えられた報酬は、村が奪還できたからと通行を許可されたことだけ。

 散々愚痴を言いながら喋る仲間達の話を聞いて、ダゴックが逞しい顎ひげを撫でる。


「魔人1人なら同じやり方で、俺達だけでも何とかなりそうだが……」

「スナイフ! 誰かいないのか!?」


 扉を壊れるんじゃないかと思うくらいに叩く音が、室内に響き渡る。

 尋常じゃない様子に、慌ててスナイフが駆け寄って扉を開けた。


「あっ、スナイフ! た、大変だ! 凄い数の魔物が、森からやって来て!」

「何だと!?」


 泡を吹きながら喋る村人の話を聞いて、剣を構えたダゴック達が血相を変え、家の外へ飛び出した。


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