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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第1章 異世界のチュートリアル編
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第01話 新型ゲームが田舎にやってきた!

 

「おにぃ、すごいよ! 公民館で、ゲームができるんだって!」

「はあ? どこ情報だよ、それ」

 

 パソコンを使って作業をしていた勇樹が、座っていた椅子を回して、疑わしげな表情で振り返る。

 ノックもせず部屋に突然入って来た沙理奈は、興奮を隠し切れないのか、鼻息を荒くして1枚の紙を握りしめていた。

 

「回覧板に挟まってたの!」

「……」

「嘘じゃないって! ほら、コレ見て!」


 沙理奈が紙を広げると勇樹に見せる。

 顔に触れるくらいの距離で紙を目の前まで持って来られて、どう考えても読めない状態に勇樹が眉根を寄せると、パソコンのディスプレイへ目を移す。


「ちょっと待て。これ投稿したら、見てやるから」

 

 黙々とキーボードを打ち込むと、先程まで執筆していた小説を小説サイトへ投稿する。

 握り潰されていたせいか、クシャクシャのしわだらけになっていた紙を綺麗に広げると、勇樹が目を走らせる。

 公民館での本の貸し出しに関する注意事項や、お年寄り達の園芸イベントの告知を書いた内容の下に、妹の話すゲームの話が記載されていた。

 

「なんか、ネットで見たような話だな。仮想世界の擬似体験ができる新型ゲームが、開発されたってやつの……え? てことは、うちの村が抽選で当たったのか? マジかよ……」

 

 驚いたような顔で、勇樹はその紙を凝視する。

 紙には、仮想世界を体験できる新型ゲームのβテスター版が、村の公民館に設置されていて、今なら無料体験プレイができると書かれていた。


「おにぃ、見に行こう!」

「えー、今から?」


 面倒臭そうな表情で、勇樹が部屋の壁にかけられている時計を見つめる。

 時刻は、午後1時を過ぎようとしていた。


「うーん。まあ、せっかくだしな……。小説のネタくらいには、なるかな?」


 そんな独り言を呟きながら、妹に急かされるようにして出掛ける準備を始める。

 公民館までは、家から徒歩で30分くらいかかる。

 しかし、高校生と中学生の2人が車の運転をできるはずもなく、当然ながら徒歩で移動することになった。


「公民館に置くとか、うちの村がよく許可を出したよな……村おこしの一環なのか? 小学校も中学校も、全部廃校になってるのに、今更子供を呼び込むようなことをしてもなー」

「ゲーム、ゲーム、新型ゲーム!」


 車が通れるように舗装された山道を、ご機嫌な表情で歩く妹の後をついて行きながら、勇樹が再び紙に視線を移す。

 「家から? 近くのバス停まで、徒歩30分だけど」と言うと、学校の友人に驚かれることも多い。

 しかし、幼少時代から家庭の事情で、田舎にある母の実家に預けられてるためか、2人にとっては慣れ親しんだ道だ。

 

「この中学校、来年から老人ホームに改装するらしいぞ」

「へー」


 既に廃校になった中学校を横目にしながら勇樹が呟くが、沙理奈はあまり興味なさげな返事をする。

 ゲームのことで頭がいっぱいなのか、傍目から見ても上の空な感じだ。

 ツインテールの黒髪をなびかせて、スキップをしながら歩いている。

 村唯一のガソリンスタンドや、お婆ちゃんがやってる駄菓子屋の前を通って行くと、ようやく目的の施設が目に入った。

 

 公民館を見つけるなり、妹が一目散に走り出す。

 勇樹達の祖父が子供時代の頃は、図書館代わりとしてよく利用されていたらしい。

 しかし、今はネット環境さえあれば、パソコンから何でも調べたい情報が探せる時代だ。

 自然と利用する人は減少したらしく、施設の中からはほとんど人の気配がしない。

 1階は、土足禁止ではないのでそのまま入場する。


「ここに入るのも久しぶりだなー。小学生の時以来か?」

「ゲームどこー?」

「視聴覚室だろ? そこを右に曲がって、奥にある部屋」


 玄関を抜けると妹の後をついて行き、奥にある視聴覚室と書かれた部屋に入る。

 室内にはテーブルやプロジェクタが置かれていて、利用者が自由に触れるようにパソコンも数台設置されている。

 しかし、パソコン自体かなり古く、故障中と書かれた紙が貼られていた。

 ネットに繋ぐための専用ケーブルは抜かれており、ヤル気のなさが伺える。

 利用する人がそもそもいないからか、新しいパソコンに変える予定もなさそうである。

 

 そして部屋の隅に、街のゲームセンターで見かけるような、大きくて黒い筐体が置かれていた。

 『世界初の仮想世界体感ゲーム!』と書かれ、ゲームのロゴらしきステッカーが筐体に貼られている。

 妹が駆け寄ると、扉のような物を開けた。

 

「誰もいない、やったー!」

「2人まで座れるのか。ということは、協力プレイが可能なのか?」

「おにぃ! 早く早く!」

 

 興味深げに筐体の周りをグルグル回ってる兄貴を急かす様に、沙理奈が手招く。

 勇樹が中を覗くと、沙理奈がヘルメットのような物を被っていた。

 扉を閉めロックをすると、勇樹も専用ケーブルの繋がったヘルメットを手に取り、頭にかぶる。

 

「おにぃ、真っ暗!」

「俺も真っ暗だ。これちゃんと動くのか? あっ……スイッチ押してないんじゃね?」

 

 そう思って勇樹がヘルメットを外そうとした瞬間、突然に視界が青白い閃光で覆われた。

 

「え?」

「おお!? おにぃが見える!」


 勇樹が思わず振り返ると、楽しそうにはしゃいでいる妹の姿が見えた。

 青白い不思議な世界で、まるでスカイダイビングをしてるかのように両手を広げ、空中で回転して遊んでいる。


「なにこれ、すごいすごい! うっひょー!」

「ヘルメットが、なくなってる……」


 頭を手で触って、勇樹は自分の状態を確認する。

 まるで無重力空間を体験してるように、ゆっくりと落下していく現象に、これが現実世界とは非なる環境だと理解させられる。


「ムササビー!」


 両手を大きく広げて、無邪気に遊んでいる妹を見つめる。


「本体は眠ってる状態で、仮想世界を見てるってことか? 最近のVR技術っていうのは、すごいんだな……。軍や医療ではかなりのとこまで実現できてるって聞いてたけど、ついにゲームもここまできたのか……」


 ネットで聞きかじった情報をもとに、勇樹は腕を組んで考え込みだした。

 そんな兄をよそに、沙理奈は落下する感覚に身体を委ねて、しばしの空中浮遊を楽しんでいた。






   *   *   *






 先程まで薄暗かった洞窟内が明るく照らされ、2つの人影が揺らめいている。

 部屋の中心にある地面には、魔法陣のようなモノが青白く輝いていた。

 

「これは……。半信半疑でしたが、この様子ですと異界門とやらは、本当に開いたということでしょうか?」


 青白い魔法陣からは、更に眩いばかりの光を放つ、黄金の繭のような物が天井に向かって生えている。

 妙齢の女性が、驚いたような表情でその光景を見つめていた。


「そ、そうじゃないかしら? この本に書いてることを、その通りにやっただけなんだけど……。さ、さすが私ね!」


 ポカーンと口を開けて驚いていたクレスティーナが、慌てて腰に手を当て、偉そうに踏ん反り返る。

 本人は格好よくポーズを決めたつもりだろうが、ゴシックドレスを着た狐耳の幼女がそのようなポーズを取っても、可愛らしいという表現しか浮かばない。


「成功したのは宜しいですが、問題はこれから何が出てくるかですね。クレス様、もし相手が私達の言う事を聞いてくれない場合は、どうするおつもりなのですか?」

「へ? えーと、その時は……逃げる?」

「ここに来る時に使った転移門は、この繭のような物に塞がれてしまいました。一応報告しておきますが、先程迷宮内を調べたところ、この階層の出口は見当たりませんでした。下の階層にも出口がなかった場合、我々は退路を断たれている状態なのですが?」

「あっ、そうか。私が迷宮と直接契約したわけじゃないから、入口がまだ……」


 先程までの尊敬の眼差しから一転して、冷めた目で隣りから見つめられ、クレスティーナがたじろぐ。


「うう……そんなこと言っても、転移門を中心にして魔法陣を描くように指示されてたし、ホントに繋がると思ってなかったっていうか……て、ちょっ、エモンナ! なんで貴方が隠れてるのよ!」


 いつの間にか遠くへ移動していたエモンナが、土壁から顔半分だけを出して、クレスティーナを見ている。


「召喚者は、クレス様なので……。食べられても、骨は拾ってあげますね」

「どうして食べられる前提なのよ!」

「クレス様は、大変可愛らしい容姿をしてますので、愛玩用として飼ってもらえると思いますよ?」

「だから、なんで捕まる前提なのよ! すごく、良い奴かも知れないじゃない!」

「それはどうでしょうか? 私は眉唾物な話だと思っておりますが、以前それを召喚された際には、敵味方双方ともに大打撃を与えた怪物だったのですよね?」

「ちょっ、嫌な事を言わないでよ! ま、待ってなさい。たぶん、相手を制御する契約のようなものがきっと……」


 クレスティーナが慌てたようにして、古めかしい本をパラパラとめくって視線を走らせた。

 本を読む事にクレスティーナは夢中になって気づかないのか、繭の中心に縦長の割れ目ができ、その隙間から黒い瞳が外を覗いている。

 黒い瞳が消えると、今度は細い指が割れ目から伸びてきて、カーテンを開くように黄金の繭が左右へ開いた。


「ぶわぁあ!」

「ッ!?」


 黄金に輝く繭の中から、黒髪の少女が両手を広げて、突然に顔を出す。

 クレスティーナの手元にあった古めかしい本が、空中を勢いよく舞った。

 繭から上半身だけを出した沙理奈が、周りをキョロキョロと見渡す。


「おにぃ、なんか外に出たよ! ……あれ?」

「どうした?」

「おにぃ、ケモ耳! ケモ耳人形!」

「は?」


 黄金に輝く繭の中から、転げ落ちそうになりながら、沙理奈が慌てて出てくる。

 なぜか白目になって、口から泡を吹いてるクレスティーナに近づくと、頭から生えている大きな狐耳を触りまくった。


「すごーい、この耳、本物みたーい。うっ、涎垂れてる……可愛くない。あっ……でも……フサフサ気持ちいい~」

「ここ、どこだ?」

 

 繭の中から勇樹も出て来て、地面に降りる。

 大きな銀色の尻尾に顔を埋めて、恍惚の表情を浮かべている妹をよそに、勇樹は周りを調べ始めた。

 

「地面が触れるな……。自分の身体が触れるのはさっきも確認したけど、触感は完璧だな。ホントすげぇな……」

「おにぃも、触ってみて!」

「え? ……いや、やめとくよ。ベータ版だから、同性のボディタッチは許容されてるのかもしれないけど、さすがに異性は禁止事項に引っ掛かりそうだし。このゲームをネットで調べてる時に、無理やり異性に触ろうとしたら、運営にバレて即アカウント削除させられるかもって書き込みがあったしな……」

「ふーん」

 

 勇樹の話を気にした様子もなく、沙理奈はほっぺをプニプニと指でつついたり、獣耳をあむあむと甘噛みしたりしている。

 狐耳のクレスティーナに、夢中のようだ。

 逆に兄の方は、地面に触れたり壁に触れたりして、リアルな感触を体験するのに没頭している。


「おにぃ。このモフモフ、飼って良い?」

「え?」


 気絶したクレスティーナを、両腕で抱えるようにして持ち上げると、妹が兄に尋ねる。


「ペットかよ……。ひどい顔になってるけど、それ人型っぽいから、たぶんNPCだと思うぞ」


 白目を剥き出しにして、口から涎を垂らしてる狐耳の幼女を見て、勇樹は若干引き気味だ。

 一見すると、とても可愛らしい人形に見えなくもないが、身体がピクピクと痙攣してる様子から、生き物と判断できなくもない。


「モフモフ! 獣味モフモフ! すごい、獣臭い!」

「ていうか説明書とか、なにも読まずに始めちゃったから、何をしたらいいのかさっぱり分からんな。チュートリアルは、いつ始まるんだ?」


 興奮したように頭の臭いを嗅いでいる妹を無視して、リアルな触感を一通り楽しんだ勇樹が、手をはたきながら周りをキョロキョロと見渡す。


「この気絶した奴を起こさないと、イベントが進まないのか? おーい、誰かいませんかー!」

「ようこそいらっしゃいました。異界の者達よ」


 突然に闇夜から聞こえた声に、沙理奈達が視線を動かす。


「お? 第1村人、はっけーん!」

「やっとチュートリアルが始まったか……」


 2人が見つめた先に、メイド服を着た女性が立っていた。


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