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黒猫と古老と 2

 翌朝、二人と一匹が出立しようとしていたとき、宿の部屋の窓を叩く音がした。

 窓の外には、薄墨色の大きな鳥がいて、部屋に入れろと羽をばたつかせている。

「え……ふくろうだよね?」

リーゼは自信なさげにカイを仰いだ。

 地上では、朝日が燦々と照らす中を梟が飛ぶのだろうか。

「……まあ、見た目はな」

リーゼの疑問を引き取って、予感とともにカイが息を吐いた。一度だけ、あの羽色を見たことがある。

それに、地上でも、もちろん梟は夜行性だ。

 その間にも大きな梟が騒がしく、カイは仕方なさそうに窓を開けてやった。

 梟はさっと部屋に入り、窓際にあった椅子の背に止まった。

「あんたが化けられるとは知らなかったよ」

カイが言うと、

「まあ、普段はやらんからな」

翼を休めた梟は、その輪郭をにじませ、いつの間にか小さな老人が椅子に腰掛けていた。

「ジーニヤ様がいらっしゃるなら、私が来る必要もなかったですわね」

尻尾を立てた黒猫が、少し拗ねたように言った。

「いやいや。庵を訪ねてくれるのを待つつもりだったんじゃが……。なにしろ、時間が迫っておる」

ジーニヤと呼ばれた老人は黒猫の機嫌をいなすと、軽やかに椅子を降りて、リーゼの前に立った。

「あんたが空族のお嬢さんか」

それから、リーゼを上から下まで眺めて、

「いや、その暁色の髪は……王の末、かな?」

「え……あの……?」

突然現れた老人の言葉に、リーゼは戸惑い、カイを見上げた。

「空族の王は、あんたのような明るい太陽のような髪色をしていたと記憶しとるんだが」

構わず話すジーニヤに、

「まず、何者か名乗るのが先だろ」

カイが割り込んだ。

「この爺さんは、もとはゼクストンお抱えの歴博士でジーニヤ。今は山奥の(いおり)に引っこんでるが、俺に空族の伝説を教えてくれたのもこの爺さんで、あんたをこの爺さんのところに案内するつもりだった」

「手間が省けたじゃろ?」

有難く思えと茶目っ気たっぷりに言う老人の様子がおかしくて、リーゼの表情が綻んだ。

「爺さん、なんかちょっとキャラ変わってねぇ?」

「何年も生きとると飽きるからの」

ジーニヤは、悪びれず笑みを浮かべた。

「で、あんたは……」

「リーゼロッテと申します」

リーゼは年長者への敬意を表して、膝を折った。

「何をしに、地上へ参られたのかな?」

時間がないというジーニヤは、単刀直入に切り込んだ。

「翼の王子を、探しに」

答えたリーゼを観察するかのように鋭い視線を外さないジーニヤは、

「探して、なんとする?」

と畳みかけた。

「……それは」

「まあ、言えんじゃろな」

言いよどむリーゼに、あっさり引き下がるジーニヤ。

「だったら、聞くなよ!」

けれどジーニヤは、思わず突っ込んだカイを、黙っていろといつになく厳しい目で一睨みした。

「空族と翼族との因縁はおいおい話すとして、わしが出向いたのは、シュバルツではもう抑えがきかんようになるからじゃ」

「え、でも、私にはそんなこと……!」

黒猫をここへ来させたのは、そこまでせっぱつまった指示ではなかった。

「シュバルツも、そこまでは分かっておらん。近頃は、抑えるだけで手一杯じゃからな。もってあと数日、というところか」

淡々とジーニヤは語った。

「とにかく、わしがなけなしの残りの力を使ってここまで来たのは、ゼクストンをまとめるためじゃ」

そして、カイに通告する。

「もう、逃げられんぞ?」

「何を……?」

「手遅れになる前に、妹君やそれぞれの両親に、向き合っておくべきじゃろ?」

「……」

カイは、俯き唇を噛んだ。

 カイがゼクストンから飛び出したのは、逃げたかったからではないと言いたかった。だが、妹の権利を侵害したくなかったから、という表向きの理屈は、今は言えなかった。

「……カイ」

いつのまにか、リーゼがそばにいて、明るい緑の瞳がカイを見上げていた。

「行くんでしょう?」

「……けど」

「私のことはいいから」

カイに遺恨が残らないように、動いてほしいとリーゼは思った。ずっと見ていたことは言えないけれど、カイの事情はわかっていた。

「皆で転移するぞ!」

ジーニヤが片手を上げた。

 カイが覚悟を決める隙もない。ジーニヤが振り上げた手を下ろす間に、カイとジーニヤ、リーゼと黒猫は、ゼクストンの王城に転移していた。

 そこは、王の執務室。

 普段は、王と側近だけがいる部屋に集まっていたのは、国王夫妻と王女、王妹。カイが、できれば会うのを先延ばしにしたかった面々だった。








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