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いじめられっ子世にはばからない 其の伍

 「で結局私たちのクラスはたこ焼き喫茶をやることになったのだけれど、問題はたこ焼きは作るのに時間が結構かかるってことなんだよね。時間がかかるから焼く機械が結構な台数いるし、燃料も馬鹿にならないし」


 「ああそうだな」


 「それに材料の問題もあるんだよ。まだ野菜類とかだったら家が農家の人に頼むっていう手段もとれたんだけどさすがに魚介類は難しいよね。家が漁師っていう人クラスの中どころか学年にもいないっぽいし」


 「ああそうだな」


 「ねえきいてるの?」


 「ああそうだな」


 「いい加減怒るよ」


 「ああそうだな」


 「クラスのみんなに言いつけるよ」


 「ごめんなさい。で何の話だっけ?」


 「はあ~ 武道(たけみち)君って本当に文化祭に興味ないんだね」


 「当たり前だろ。むしろいじめられてる奴で文化祭楽しみな奴いるわけねーだろ。っていうかさ」


 俺は口の中の卵焼きを飲み込んで言った。


 「なんでお前ここにいるわけ?」


 そう俺たち文実の二人は2棟2階のとある空き教室のなかで弁当を食べていた。



 

 

 LHRの時間が終わり、昼休憩の時間になったので俺はいつものベストプレイスである2棟2階の男子便所で昼食をとろうとしていた。

 しかしなんという悲劇、その男子便所が改装工事真っ最中であり、建設会社のおじさんに聞いてみたところ半年間は使用不能とのことだった。昨日までは普通に使えていたのに。

 

 なぜおれがこんなにまで2棟2階の男子便所にこだわっているかというと俺の唯一無二の親友がこの便所で自殺をはかり、帰らぬ人となってしまったから……などという少年漫画のかっこいい過去編のような理由ではなく、単にそこの便所だけ便器が洋式になっていたからというどうでもいい理由である。


 いやでも本当に困ったぞ。

 今日からいったいどこで食べろというのだ。


 他の便所といっても全部和式だし、立って食べるのは足が疲れる。

 かといって自分の教室で食べるのこともできない。気まずいからというのもあるが、俺の席がおそらく他の生徒によって占領されているからという理由が大きい。


 しばらくの間工事中のトイレの前で悩んでいるとある考えがひらめいた。定時制の生徒の教室を借りるのである。


 俺の学校には全日制の生徒と定時制の生徒がいる。

 全日制の生徒は朝の8時30分から夕方5時まで、定時制の生徒は夕方6時から9時50分までとなっており、今の時間は定時制の教室には誰もいない確率が高い。


 そして最大の理由は我が校の定時制の教室には鍵が付いていないからである。

 定時制の生徒は全員とは言わないが基本的にギャルや不良と呼ばれているひとが結構な割合を占めており、その人たちがいたずらでよくものを破損させることが多々あるらしい。教室の鍵もそのひとつだ。

 よって我が校は定時制の教室には鍵をなくし、持ち物は学校においておかず自分で持ち帰るよう指導するようになった。


 俺が定時制の教室に入っている間に他の人が入ってくる可能性があることが最大の欠点だが、そこはもう仕方ない。このことを除けばトイレよりも快適なスペースとなりうる。トイレの個室だったら絶対誰も入ってこないんだけどな。


 こうして俺はちょうど同じ2棟2階にある定時制の教室へと足を進めた。


 「あっ! 武道君こんなとこにいた。探したよ~」


 「……」


 「文化祭まで時間もあまりないことだしさ、昼食食べながらでも事案を進めておこうよ。文化祭実行委員同士で。ねっ いいでしょ!」


 「……」


 「武道君! 聞いてるの!?」


 「えっ俺に言ってんの?」


 びっくりした。ひとりごとのうるせー女だな死ねばいいのにとは思っていたが、まさか俺に対して話していたとは。


 「何でびっくりしてるの!? ここには私たちしかいないし、さっきから武道君って呼んでるでしょ!」


 「そうか俺、武道って名前だったんだ……」


 「自分の名前忘れてたの!?」


 「フッ…… 人に話しかけられることなんて全然ないからな。俺の名前なんて忘却の彼方だったよ。ありがとな。思い出させてくれて」


 「理由が悲しい…… っていうかそれ嘘でしょ」


 嘘である。

 

 自分の名前なんて忘れるわけないだろ。

 ただ無視したかっただけである。うざいから。


 「武道君この教室で食べるの? よしっじゃあ中に入ろうか」


 「えっ何でついてくるの?」


 「さっき言ったでしょ! もう!」


 こうして二人教室で仲良く(?)食べることになったのであった。





  というわけで現在定時制の空き教室の中である。

 

 俺と一緒に食べているのは俺と同じクラスの女子、藍原千佳(あいはら ちか)だ。


 黒髪の中にやや茶色の混じったポップショートで身長はやや高め。おそらく165センチ以上はあるだろう。そのため全体的にすらっとした体型である。(控えめな胸のせいもあるだろう)

 肌はとても白いが病的というほどではなく、顔の表情も相まって実に健康的な印象だ。

 

 クラスの中では目立つタイプでいわゆるリア充。

 学校行事やボランティア活動に積極的に参加しており、教師たちに評判がとても良い。

 頭はあまりよろしくないようだが、クラスのみんなからはその部分も含めてカワイイと男女ともに人気のある生徒だ。現在俺と同じ文化祭実行委員に任じられている。


 「で、なんでお前ここにいるわけ?」


 「それもう何度目!? だから~わたしは……」


 「そんな表向きの理由じゃねーよ。いくら文実の仕事があるとはいえこれはおかしい。こんなの放課後に少しやるだけで十分なはずだ」

 

 普通の他の男子(特にイケてない男子)ならば少し女子からのスキンシップがあっただけで、「あれっ? これもしかしてこいつ俺に気があるんじゃね?」とか馬鹿なことを考えたりするものだ。そして無謀にもその娘に告白し無残に振られ、翌日学校でそのうわさが広まりいたたまれず不登校になるというのが一般的なケースである。


 だが、俺はそんな雑魚とは違う。


 そんなことで女子を気にするような神経などもうとっくの昔に捨てている。

 彼女を作ることなんて小5のときにすでに諦めた。


 話をもどそう。


 藍原のような超イケイケリア充が俺のようないじめられっ子にこんなにまで関わろうとするのは不自然だ。しいて理由があるとしたらその理由は


 「カツアゲか?」


 カツアゲ。それはリア充(不良も含む)が俺のようないじめられっ子と関わろうとする唯一の目的だ。これまでいくつものカツアゲされる経験をしてきた俺だからわかる。いや本当お金だけとるならまだしも本屋のポイントカードへし折るのやめてもらえませんかね、リア充のみなさん。そのカード結構ポイントたまってたんですよ?(泣)


 「へっ!? ちっ違うよ! なんでそうなるの!?」


 「女子までもが俺をカツアゲしようとするとは、随分俺もなめられたもんだな。女子に関しては腕力で勝つ自信は結構あるんだぜ」


 「だから違うって! ていうか発想が悲しすぎるよ…… 私でよかったら相談に乗るからさ」


 「同情するなら金をくれ」


 「う、うん。君が好きそうなドラマだよね」


 まあいざカツアゲされそうになったら藍原を殴ってでも逃げだせばいい話か。

 いいだろう。文化祭の事案を決めるという建前にのっておいてやろう。


 「別にそんな深いわけなんかないよ。カツアゲなんてしないし。それに武道君にはいろいろ謝りたいことがあったから……」


 と少し俯いて弱弱しく藍原は言った。


 「ああいじめられてる俺を見て見ぬふりしていることなんて気にするな。自己保身のための当然の行動だと俺もわかっている。悪いのはいじめる奴らといじめられる俺だけだからな」


 「いや、そういうことじゃないんだけどな…… まあいいか今は。気持ちが落ち着いたら話すよ」


 そういって藍原はこの話題を切り上げ、文化祭に関することについて話し始めた。

 俺もこれ以上疑っても仕方ないので文化祭の話に参加した。




 

 昼休憩が終わりそうな頃には俺たちは結構話し合える仲になった気がする。

 藍原は俺の思っているよりは話しやすい気さくなやつだった。冗談も結構言うし。

 カツアゲをするような奴ではないのだろう。


 しかしこれで友達になれたとか思ってはいけない。

 結局のところせいぜい知り合いレベルだ。いや、まだ知り合い以下かもしれない。


 藍原は一通り文化祭に関して話し合ったことをまとめた。


 「よしっ昼休憩ももう終わることだしそろそろ教室に戻ろうか。」


 「ああそうだな。それと疑って本当にすまなかったな。お前はリア充の中でも良い奴だったよ」


 それとこんな俺に対して話しかけてくれてありがとう。

 心からそう思った。


 「別に気にしてないからいいよべつに。 でもちょっと意外だったな~ 武道君ってちょっとネガティブなとこあるけど結構面白い子だね!」


 藍原は俺の方をむいてニカッと笑った。


 一瞬その表情にドギマギしてしまう自分が情けなく思った。


 すると突然藍原の携帯の着メロがなった。

 藍原は携帯を取り出すとさっきまでの笑顔に影が差してしまった。


 「どうしたんだ?」


 「い、いや~それがね……」


 といって携帯を俺の方に見せてきた。


 どうやらメールが送られてきたらしい。


 そしてそれはこの世のものとは思えぬほどの気持ち悪く、不快で、悪質なメールだった。


 

 藍原千佳はストーカーの被害を受けていたのだ。


 


 

 

 


 

 

 


 


 


 


 


 

 


 


 


 


 


 


 

 



 


 


 

 


 


 


 

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