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いじめられっ子世にはばからない 其の参

 すいません。

 ちょっと長いです。

 「今日は塾がない」略して「はがない」の日だったので、学校が終わった後俺は駅前の割と規模の大きい本屋へと足を進めた。


 ていうか今日一日の学校で印象に残った話が便器に箸が突っ込んだことってなんだよ。悲しすぎだろ。まあでも他はせいぜい陰口言われまくったことくらいしかないからな。

 あっ弁当はインド風の食べ方で食べました。要するに素手で。


 いつもの通り俺は漫画やラノベの表紙を眺めたり、裏のあらすじの部分を読み漁ったりして気が付けばすでに2時間も経っていた。


 いやホント本屋って時間が経つのがスゲー早く感じるよな。

 受験生が立ち寄ってはならない場所ナンバーワンじゃね?

 

 まあでも俺はまだ受験生ではないし、悪い子ちゃんだからCDショップも寄っちゃうよ。


 CDショップのボカロコーナーへと足を進める。

 ほうほう新作が出たのかーでも今月カネねーんだよなー。

 まてよ。今週支給された昼食代を切り詰めれば…… いやーでもなー。


 結局CDは買わず、お試し版のやつを聞いて帰ることにした。

 なんという時間の無駄遣い、でもこんな自分嫌いじゃないぜ。


 ヘッドフォンを掛けて曲を選択する。聴いてるうちにまたCD購買意欲がわいてきた。

やっぱ買おーかなー。 最悪親にお小遣い前借という手も無きにしも非ずなんだが……


 そのときヘッドフォンで聴いていた曲の音量が小さくなり、代わりにおじいさんのような声が聞こえてきた。


 「少年よ、わしの寿命とおぬしの寿命を交換してはくれんかのう」


 「!!」


 俺は早急にヘッドフォンを外し、辺りを見渡した。だが、おじいさんらしき人物の姿はどこにも見当たらない。おそるおそるもう一度ヘッドフォンをしてみるとやはりヘッドフォンの中から声が聞こえるのだ。


 「おぬし、聞こえておるんじゃろ? 返事をせーよ。まったく最近の若者は……」


 「いやいや、えっヘッドフォンてこんな通話機能備えてたっけ? 確かにフォンって名前につくけど。っていうかあんた誰だよ」


 「わしか? わしはなーまあなんというか現世を調査しに来たものなんじゃが。 わかりやすく言えばあの世の住人じゃな」


 「あの世!!」


 あの世の住人+ヘッドフォンの怪奇現象+姿は見えない=


 この式から導き出される解答は……


 「ギャー!!」


 マジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジか!


 今脳内メーカーで俺の名前打ったら「マジか」っていうワードで脳内が埋め尽くされていることだろう。

 ってか俺って霊感とかあったの? いやいやそんな場合じゃないこの場合は逃げ……


 「いや待ておぬし。逃げるでない」


 「うるせー! こちとら恨めしがられる筋合いはねーぞ!」


 むしろこっちの方がうらめしや~って言いたい生活を送ってんだよ!


 ひゅ~ どろどろ~ リア充うらめしや~


 「いいからちょっと待て。わしの話を聞け。まったく……幽霊ごときと一緒にするとは失礼とは思わんのか」


 「っじゃ、じゃあ何なんだよお前。言っとくけどあれだぞ! 幽霊でなく死神でしたとかそういうオチはなしだぞ!」

 

 「いいから落ち着けおぬしよ。わしはあの世で人口管理部署の課長をしているものじゃ。まあ要するにあの世と現世の人口の調節を仕事にしておる」


 「えっ! お前働いてんの?」

 

 その声やしゃべり方を聞く限りにはどう見積もっても80歳は超えているように感じる。


 マジかよ。あの世ってそんな年になってもまだ働かされるの? あの世の労働基準局は一体何やってんだ。ブラック企業でもそんな年まで働かせねーよ。


 「なんかおぬし誤解しておるようじゃが、この声と肉体は現世での仮の姿であってあの世でのわしはぴちぴちのOLじゃぞ」


 「お前女なのかよ!!」


 くそっ! できることならそのままの姿で現世に来てほしかった!


 っていうかさっきから俺のセリフ叫んでばっかだな。これ周囲の人たちには突然叫びだした痛い少年に見られているよ絶対。やばい、そろそろ店員がこっちに来そうだ。

 

 「そういえばお前最初寿命がどうたらとか言ってなかったか?」


 「ああそうじゃそうじゃ。おぬしがワーワー騒ぐから危うく本題を忘れるとこじゃったわい。」


 いやーホントおぬしが叫びまくるからなーと自分の記憶力の悪さを俺のせいに仕立て上げたところで、おじいさんの声の奴は俺に言った。

 

 「わしは現世での調査のためこっちに来ておるのじゃが、わしの担当地域があまりにも広すぎてこの仮の姿では調査を終える前に肉体の寿命が尽きてしまうのじゃ。そこで、若いおぬしの寿命とわしの残り少ない寿命を交換してもらいたい。頼めんかのう?」


 「いいわけねーだろ」


 即答だった。なんで見知らぬジジイに寿命なんて交換しなきゃならねーんだよ。


 やっぱこいつ絶対死神だよ。他人の寿命を食って生きてる類のやつだきっと。


 そのうち卍解!とか言い出すぞ。もっもしやこいつは元〇斎先生!?


 「なにもタダで交換しようというわけではないぞ? 交換に応じてくれればおぬしの願いをひとつだけ叶えてやろう。まあただしこの世法則を大きく無視したような願いは無理じゃが」


 「願いを叶えるか……」


 こんな怪奇現象を起こせる奴ならそういうこともできそうな気がする。しかし、こんな怪しいジジイなんて信用していいものなのか? 

 願いを叶えるなんて嘘っぱちで寿命を交換したらそのままトンズラこく可能性も大いにあるぞ。

 それに……


 「ちょっと聞きたいんだが、お前の寿命ってあとどのくらいなんだ?」


 「ざっと残り半年じゃな」


 「ハイさよなら~」 


 「ちょっと待たんかあ! いやそりゃ確かに少なすぎるかもしれんが」


 「寿命を残り半年にしてまで叶えたい事なんてねーよ。残念だったな。だいた……」


 『ちょおっとーそこの兄ちゃん、少し騒がしいんちゃうんか。ああん!』


 見るとそこには死神なんて怖くなく思えるほどのいかついヤンキー風の店員が立ってガンを飛ばしていた。これ夜中峠道をバイクで攻めている特攻野郎の方だよ絶対。

 行こうぜ! ピリオドの向こうへ!


 「ひゃい!! すっすみませんでした。すみませんでした!!」


 

 いかつい顔の店員にびびって思わず俺は今までの人生の中で一番美しいであろう土下座でひたすら謝り、ヘッドフォンを置いて逃げるようにその場から退却した。


「あっまだ話が終わってな……」


 ヘッドフォンからわずかにそう聞こえたがそんなことはどうでもいい。

 俺は坊主に刈込を入れたヤンキー風(っていうか純然たるヤンキー)の店員から一刻も早く逃げ出すことで頭がいっぱいだった。


 だってこわいんだもん……




   店員の鬼の形相にビビりまくって無駄に全力疾走をしたおかげで必要以上に早く自宅へ到着してしまった。


 それはそれはとても速かった。100メートル走なら3秒切るぐらいのスピードは出たなと我ながら自負している。この場所が陸上競技大会でないのがとても残念だ。陸上なんてやったことないけど。


 あぁでもしまった。今日は確か親両方遅いんだっけ。


 食べるもん結局買ってねーや。


 まあ冷蔵庫に残ってる物かお菓子で我慢するか。

 

 「ただいまー」


 俺が自宅に入ると何か異変を感じた。特に俺の部屋の前。


 そこには数10冊ごとに積み上げられた本の山が3つほど並んでおり、そして朝俺よりも遅くに大学へ行ったくせに俺よりも早く帰ってきてやがる姉の姿があった。


 姉はその積み上げている本を俺の部屋の中に運ぼうとした瞬間俺の存在に気づき、


 「あ! ぁぁ…… おかえり」


 と姉は何かを諦めたかのように弱弱しい声で言った。大事そうにBL本を抱えて。


 「っておいコラ! てめー俺の部屋に何運ぼうとしてんだ!」


 「だって~明日お母さん休みだから確実に私たちの部屋掃除するでしょ? こんなものお母さんに見られたら恥ずかしくてもうお嫁にいけないよ!」


 「俺は見られてもいいのか! ていうかこれ男が持ってた方がやばい奴だろ!」


 BL本とは若い青少年たち同士が「あっは~ん、うっふ~ん、いっや~ん、だっめ~」なことをする内容が書かれた本のこと、つまり女子のためのエロ本である。


 「しかもなんだよこの量。軽く100冊はあるぞ。」

 

 エロ本なんてせいぜい持ってて3,4冊だろ。


 えっ? お前も持ってんのかって? もっもももも持ってねーし!


 以前持っていただけだし! 今はないもん! ホントだもん!


 「うるさいな~! 女子だってエロに興味があるの! そういうお年頃なの! つべこべ言わずにとっとと置かせろやコラ殺すぞ」


 「開き直ってんじゃねーよ。殺すぞ」


 ホントはた迷惑な姉である。ここにおいてあるBL本を親に見せるぞと姉に脅しをかけて俺に対して絶対服従を誓わせることも可能なのだが、まあいい。 許してやろう。


 ここでこれ以上もめたところで時間の無駄だからな。

 いや~俺ってマジ心広いわ~

 俺の前世キリストとかブッダだったんじゃね?


 「ハア~ まあそれぐらいなら……全部とかは無理だけど3分の1ぐらいは引き取ってやるよ」


 「ほんと!? ありがと~ さすが我が弟! 愛してるぜベイビ~」


 「マジうぜえ……」


 仕方なく俺が5つのBL本の山のうち1つの山を抱えて俺の部屋に入ろうとすると


 「ああ言い忘れてたけどあんたの部屋の中もうBL本だらけで足の踏み場ないから。よろしく~」


 ピッ「もしもし母さん。姉さんが」


 「ちょっと待ったー!!! ごめんなさいごめんなさい。あとできれば部屋の中のもお願いします!」


 姉は俺から家の固定電話の受話器を奪い去った後その勢いのまま空中で一回転し、そのまま土下座の姿勢で着地した。

 

 何この競技。 フィギュア土下座?


 最初から素直にお願いしろよまったく。

 足の踏み場もないとかどんだけあるんだよ…… 押し入れに入りきるかどうか微妙だぞ。


 俺は姉の無駄にきれいな土下座姿に背を向け、部屋の中に入っていった。

                ・

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                ・

                ・

 「俺の想像よりはるかに多い!!!」

 俺の魂の叫び声が夜空に響き渡った。


 姉の言う「足の踏み場がない」は床の上に数冊ずつの本がまんべんなく置かれているとかそういう次元でなく、もうそれはそれは天井まで届くほど高く積み上げられたBL本の高層ビルがいくつも乱立し、床一面を覆っている有様であった。


 最初部屋の中に入ったとき、「あれっここ東京かな?」って錯覚を起こしたほどだ。

 

 あいつ……殺す……




 BL本を押し入れやタンス、学習机などあらゆる収納スペースに無理やり全部詰め込み終わった後、俺はベッドの上に寝転がってMP3プレイヤーで音楽を聴いていた。


 気が付けばもう10時を回っている。BL本収納に思いのほか時間をくってしまったようだ。

 

 はあ、今日は無駄に疲れた。

 CDショップで怪しいジジイの声を聴くわ、BL本押し付けられるわで散々な一日だった。


 今日のことは早く忘れてしまおう。


 すると、MP3プレイヤーで次に俺のお気に入りの曲が流れる直前、音量が突然小さくなりまたもあの声が聞こえてきた。


 「少年よ、わしの寿命とおぬしの寿命を交換してくれんかのー?」




 


 


 


 


 


 


 

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