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いじめられっ子世にはばからない 其の弐

 突然だが俺には友達といえるものが一人もいない。


 友達がいないならまだしも若干いじめられてさえいる。


 イジメられ始めてからもう結構長い時間が経つ。

 確か最初は小5のとき野外活動でおねしょをしてしまったとき以来だからもう6年は経つ。

 今ではもう高校2年生だ。


 もういじめられることに関してはスペシャリストといっても過言ではなく、ベテラン選手の域に達しつつある。

 あともう4年ほどイジメられ続けばいじめられっ子人間国宝に認定されるかもしれない。

 やったね。


 俺の通っている高校は地元じゃ結構な進学校なので机や椅子を隠されたり、暴力を受けたりなどの大きいイジメはないのが不幸中の幸いといえる。


 しかし、結構な進学校なのでイジメてくる生徒の頭もそれなりによく、証拠を残さない陰湿なイジメ方がうまいのは不幸中の災いといえる。


 例えば、俺の近くを通るたびにわざとらしく咳込んだり、俺の視界に入らないところで俺の悪口をわざと聞こえる大きさで言ったりするのである。


 これだけ聞くとたいしたことはないと思ってしまうかもしれないが、これを毎日やられると精神にかなり堪えるものだ。


 その結果イジメる方が悪いにもかかわらず、あたかもイジメられている自分自身の方が悪いと思ってしまうのである。

 まあ俺の場合はもう慣れ親しんだもので適当に聞き流すようにしているけどね。


 小5のときからずっと思っていた。


 もう自分の人生は詰んでいる。


 もう普通の人生を歩むことはできない。

 

 なのに、どうして俺は生き続けているのだろう。


 もう生きたいとは思わない。そのくせ自殺する勇気もない。

 

 人生がクソゲーだといわれる所以はゲームオーバーになってもずっと続いていくからだろう。

 ゲームならゲームオーバーになっても最初からやり直しができる。

 しかし、現実世界はそうはいかない。

 いったん失敗するとその失敗が今後の人生に付きまとっていくのだ。


 ……よって俺は、今後の人生は諦めて「来世で頑張る」ことにした。


 もし来世で運よくイケメンに生まれちゃったらどうしよう。うふふ。

 

 芸能プロダクションからモデルとしてスカウトされちゃったり、超絶美人とラブラブ同棲生活が始まったりしちゃってー キャー。


 

 キーンコーンカーンコーン


 「はーいそれじゃ今日はここまで、みなさんまた明日会いましょう」

 さよならー じゃあねー 今日ゲーセン寄らね?

 今日部活中止だって! マジで! やった!


みんなぞろぞろと教室から出ていく。

どうやら帰りのSHRが終わったらしい。

来世でのイケメンな俺を想像して悶えていたらあっという間に時が経ってしまったようだ。


ふう、さて今日もなんとか乗り切った。


いやーそれにしても昼休憩のときはマジで焦ったぜ。高校生活ベスト5にはいる死闘だった。



 いじめられっ子の特等席ことトイレの個室の中で弁当を食べていた時のことだ。

 突然何の前触れもなくサッカー部の野郎どもが連れションにやってきたのだ。

 

 いつもならこういう時のために警戒しているのだが、油断してしまったぜ。

 驚きのあまりバランスを崩して膝の上に載せていた弁当が床に落ちそうになってしまったのだ。


 これはまずい!


 弁当がトイレの床で汚染されることはもちろん、今このサッカー部野郎どものうろつく状況で弁当箱が落ちる音がすれば便所飯をしていることがばれてしまう!

 サッカー部にこのことがばれてこの噂が教室、学年全体へと広がろうものなら、明日からどこで弁当を食べればいいのだろうか。

 それだけは避けねば!!


 膝の上から左側へ落ちていった弁当を左手で地面すれすれでキャッチ!

 中身をこぼすというミスも犯してはいない。

 

 しかし、今度は手元が滑って、右手で持っていた箸が床に落ちていった。

 左手は弁当箱を持っているし、右手も間に合わない!

 どうする! 俺!


 つかめないのなら蹴り上げればいいのだよ!!


 落下していた箸を黄金の右足で蹴り上げたのだ。


 しかし、思いのほか力みすぎて箸は隣の個室の方向へ飛んで行ってしまった。

 ああっ待って! そっちじゃないよ!


 くっ 、もうダメか! すべてを諦めかけた瞬間あることに気付く。


 箸が床に落ちる音が全くしないのだ。


 しばらくしてサッカー部員どもはトイレからつぎつぎと出ていき、トイレには自分以外誰もいなくなった。


 あやしがりて隣の個室によりてみるに、なんと箸が2本とも便器の中の水がたまっている部分に沈んでいたのだ。


 なんという奇跡!


 便器の中に入るだけでもすごいのに、誰かが小便をしてそのまま流さずにいたおかげで普段よりも水かさ増し、落下した箸の衝撃が浮力によって吸収されることで完全なる無音を演出したのだ。


 俺はこんなにも感動したことはない。ってかこんなことってあるんだな。

 もう神様の存在信じちゃう!


 箸が演出した奇跡の余韻にしばらく浸った後、俺はひとり自分以外誰もいないトイレの中でそっと呟いた。


 「弁当どうやって食べよう……」



 




 


 


 

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