表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

パーティー



『優勝おめでとー!』

 家に帰ってきての皆の第一声がこれだった。


 大広間に入ってきた俺に複数クラッカーの破裂音と紙テープが降りかかる。


「……うわぉ」

 俺は思わず声を上げた。

 折り紙で作った輪っかを繋げた天井の飾りや豪華な料理なんかは、一日やそこらで出来るものではない。


 信じてくれてたんだ。俺はそう気付き、思わず顔が綻ぶ。


「なににやけてんの。ほら、主役はさっさと席に着く!」

 サーシャが俺の手を取って場所に導く。

 テーブルに並ぶ食事のメインメニューはやはりハンバーグだった。

「アルフ兄、帰ってきたー!!」


「ハンバーグ、早く!」

「俺、腹減った」

 子どもたちが次々に喋る。その中に俺への祝福がなく食べ物関係が占めているのは少しばかし不本意だが。


「ほらあんたら、静かにしな! 始めるよ!」


 おばさんが一声言うと、今までの騒がしさが嘘のように静まり返った。

 それから、サーシャが喋る。

「えー、それではー、今からアルフの入団テストの優勝おめでとうパーティーを始めたいと思いまーす!」


『イェーイ!!』

 声を揃えて張り上げる子どもたち。そこに楽しそうに顔を崩すゲンさんとマリーおばさんもいた。


「ではっ、パーティーを始める前に主役から一言頂きましょう!」

「え」

 俺は顔をしかめた。いきなりだ。アドリブは苦手なのに。

「いや、別に俺は……」

「いいから! 主役の言葉なしじゃぱっとしないでしょ!」

 無理矢理前に引っ張り出される。

「えーと、それじゃあ……」

 何を言おうかと心の中で考えながら改めて子どもたちを見てみる。



(……目が早く食べさせろって訴えてる)



 一気に考える気が失せた。

「祝ってくれてありがとうございます。…………以上。よし、食べよう」


 歓声が上がった。


「うおおおっ、話が分かるぜアルフ兄ぃー!!」

「ずっと待ってたんだなー」

「俺、腹減ったーー!!」


 口々に雄叫びをあげ、料理(主にハンバーグ)にかぶりつく子どもたち。

 席に戻る際に、ちらりとサーシャのことを見た。苦笑していたが、どこか嬉しそうだった。


 ゲンさんの豪快な笑い声と、「あんたら、いきなりメインから食べる奴があるかい!」と言うマリーおばさんの声を聞きながら、俺はジュースを少し口に含んだ。






「おぅ、何か賑わってんなぁ」

 そんな言葉と共にあの人が来たのは、パーティーもそろそろ終わろうかという頃だった。

 俺の耳がピクリと犬の様に動いた。

あの声、聞き間違える筈がない。あの人だ。

 俺がずっと憧れていて、この人を追い掛けて魔導団の入団テストに参加した。


 俺はがたりと席から立ち上がり、広間に入ってきた声の主の方を見る。



「――リオンさん!!」

 思わず俺が大きな声を上げると、遊んでいた子どもたちも一斉に振り向いた。


「よぅ、アルフ。優勝おめでとう」


「――」


 俺が何かを言おうとしたが……


「リオンさんだー!!」


子どもたちが一斉に集まる。

「リオンさん、久しぶり!」

「リオンさん、俺、腹減った!」

「ねぇリオンさん、また俺の稽古付き合ってくれよ!」

「リオンさんきたー! ぼくうれしい!」


「はっはっは、皆久しぶりだなぁ。元気にしてたか?」


 リオンさんは嬉しそうに笑いながら集まってくる子どもたち一人一人の頭を撫でる。


 この人こそが、俺の憧れの人。あの人の該当人物であり、若くして護衛魔導団団長を勤めている素晴らしいお方である。

 他にも……色々凄いところはあるが仕方なく割愛。


「マリー、これが今月分だ」

「いつも悪いねぇ。あんたも生活があるだろうに」

「別に、これの二倍以上貰ってるから」

「おや、嫌味かい」

「事実だよ」


 そして二人で笑う。 リオンさんは、俺たちの居るこの孤児院を創設してくれた一人だ。後はゲンさん夫婦らしい。


 と、リオンさんが俺の方を見た。


「しかしまさか、今まで一般のガキだった奴が魔術師になっちまうとはな……」

 何故か感慨深そうに呟いた。

「まだチビっちゃかったのになぁ」

「あの頃はどうしたもんかと思ったねぇ」


「止めてくれよ、そんな昔のこと」

 俺は唇を尖らせて抗議した。

 15年前の戦争で、俺は両親を殺され、僅か二歳で戦争孤児となってしまったのだ。余り記憶がないが、街をよたよたと歩いていたその時にリオンさんが拾ってくれたらしい。

 サーシャも俺と同時期にここに入った。


「でもよ、大したもんだよ実際。一般人から魔術師になるやつは少なくないが、優勝となるとここ最近全く無かったもんなぁ」

 ここ数年で、魔術は遺伝すると分かった。術そのものが遺伝するわけではなく、それを扱う才能が、だ。だから、オリクやリミはここに来たときから使えていた。


 俺は、一般人から成り上がってやった奴だが。


「入団式はいつなんだい?」


「三日後だ」

 リオンさんはコップに入ったジュースを口に含んでから言った。

「……酒は飲まないのか」

 ゲンさんが少し残念そうに聞くと、リオンさんは苦笑いで誤魔化した。


「明日も勤めがあるんだ。今日は勘弁してくれ」

 そう言われると無理に勧められない。ゲンさんは黙った。


「まぁ、そういう事だ。しっかり疲れを取っておけよ。初日から厳しくいくからな。容赦はないぞ」


「望むところだよ!」

 俺はどんと胸を叩く。リオンさんは満足そうに頷いた。


「……まぁ、しごくのは俺じゃないんだけどな」

「え?」

 最後にぼそりと呟いたので、よく聞こえなかった。


「いや、なんでもない」


 リオンさんは首を振って。聞き返そうと思ったのだが、先にリメアとリンにとられてしまった。


「ねえねえ! いっしょにあそぼうよ!」


 リオンさんは二人に引っ張られ向こうに行く。


(……まいっか)


 別に大したこと出はないだろうと思い、ハンバーグを食べる。



 三日後が、早くも楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ