表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恐竜物語  作者: せりもも
ラプトル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/66

43





 なかなか、おねえちゃんは、帰ってこない。あれだけ間があったから、まさか、捕まったということはないと思う。


 おねえちゃんも心配だったが、卵も心配だ。


 夜になると、寒くなる。今まで、ラプトルの体温で温められたていた卵だ。一刻も早く、鳥の巣に、入れてしまわなければならない。




 そこに、鳥の卵があることは、確認してあった。スーパーおろち号の上から、はっきりと見えた。


 目星をつけていた鳥の巣は、高い、木のてっぺんにあった。

 藁みたいなのを集めて作ってあった。平たいお椀みたいな形をしている。




 ……今なら、親鳥がいない。


 親がいるときに、巣に近づいたら、いけない。怯えてしまうからだ。最悪、親鳥が卵を見捨ててしまうことだって、ある。

 鳥というのは、臆病な生き物だ。


 ……でも、どうやって、木の上まで、この卵を運ぼう。



 おねえちゃんと二人がかりで、なんとか、巣の上まで、引き揚げるつもりだった。

 ところが、肝心のおねえちゃんが、なかなか戻って来ない。


 ……スーパーおろち号に乗って、近づくわけにもいかないし。


 圭太は、途方に暮れた。

 気のせいか、卵が少し、冷たくなった気がする。



 ……タイムパラドックス。


 ここで、グノールの卵が死んでしまったら、大変なことになる。

 恐竜の世界から、グノールが抹殺されてしまうのだ!




 「ケイタ、ケイタ」

掠れた声がした。


「あっ、カイバ!」


「タマゴ、ハコブ。マカセテ!」


「任せてって……」


カイバはタツノオトシゴだ。卵は、カイバより、遥かに重く、大きい。


「ダイジョブ、ダイジョブ」

大きくカイバは頷いた。



「そういえば、」

圭太は思い出した。


「最初に僕を、スーパーおろち号に引き上げてくれたの、君だったよね……」


 ……教室の中に吹き荒れた、もの凄い風。突然、骨ばったものが、圭太の右腕をがっしとつかんだ。そのまま、物凄い力で、引き上げて……。


「あれ、カイバだったんだよね」



「ソウソウ」

 嬉しそうにカイバが頷いた。

「マカセテ、タマゴ、ダイジョブ」



 おずおずと、圭太は、卵を差し出した。

「大事に扱ってよ」


 グノールの卵だ。

 生れる前に、死なせてはならない。



 カイバが頷いた。


 ふう、っと流れてきたカイバは、グノールの卵の上に、立ったまま、ひたっと降り立った。


 そのまま上へ上昇する。


 卵は、しっかりと、カイバにくっついていた。

 ふわふわ、ふわふわと、木の上に上がっていく。



「頑張れ、カイバ」


 木の下で、圭太は、両手に汗を握っていた。


 大きな木の、幹に沿って昇っていった卵は、やがて、広げられた枝までたどり着いた。


 横に移動して、おわん型の鳥の巣へと、運ばれていく。

 青みを帯びた白い卵が、そっと、巣の中へ消えた。



「ケイタ、ニゲル!」


木の上から、鋭い声がした。


「えっ、なんで?」


「オヤ! トリノオヤ!」


カイバが叫んだ時だった。



「うわっ! 痛っ!」


 頭のてっぺんに鋭い痛みを感じた。


 親鳥だった。

 ひどく怒って、空から圭太の頭をつついてくる。


「いで、いでででで……」


 ……鳥は、臆病なんじゃなかったのか?

 ……あ、でも、今、僕って、すごく小さい?


 下手をすると、餌にされちゃうかもしれない!

 圭太は、めくらめっぽう、走り出した。



 鳥は、空から急降下して、圭太を襲い続ける。


 たら。

 生温かいものが、頬のあたりを流れた。


 ……血?


 気を失いそうになった。


 圭太は、血を見るのが嫌いだ。

 テレビを見ていて、怖いシーンになると、スイッチをオフにするくらいだ。




 前方で、木の下生えが交差していた。

 命からがら、そこへ逃げ込む。



 ……助かった。


 下生えが邪魔になって、空からは襲ってこれまい。

 ほっと息をついた。



 少しの間、そこに潜んでいた。

 薄情なカイバは、助けに来ない。


 ……もういいかな。

 そろそろと、這い出す。



「ぐえっ!」


 下生えの外に出た途端、空から、石の礫が降ってきた。

 いや、石じゃない。


 鳥だ。

 鋭いくちばしを持った、鳥。


 しかも、2羽になってる!



 ……そうだった。鳥は、夫婦で子育てするんだった!



 すっかり忘れていた。

 どこかに出かけていた、もう一羽の親鳥が、加勢に来たのだろう。



 ……これなら、僕が、ラプトルの囮になればよかった。


 つくづく、圭太は後悔した。

 恐竜なら、父親が卵の番をしているだけだ。



「おおい。僕は君らの卵を盗んでないって! 卵の数、数えてみろよ! 増えてるだろ!」


 力いっぱい、圭太は叫んだ。


 ……あれ?

 ……鳥って、いくつまで、数、数えられたっけ?









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=568023019&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ