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「なんですと! タイムトラベル?」
ひとまず、グノールを置いて、圭太とおねえちゃんは、スーパーおろち号へ帰った。
先頭車両に走っていくと、白蛇は、優雅にお茶を飲んでいた。
「うん。グノールが卵だったころへ、行きたいんだ」
圭太は説明する。
「そして、その卵を、鳥の巣へと持っていく」
「鳥の卵と混ぜるのよ」
おねえちゃんが補足する。
「そうすれば、鳥のお母さんは、自分の卵だと思って、いっしょにあたためてくれるでしょ?」
「同じように卵からかえれば、鳥は、自分たちの、きょうだいだと思うよ!」
圭太は、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
「そうしたら、グノールは、もう、鳥の仲間だ! 鳥たちは誰も、彼のことを、怖がったりしない!」
「いや。いやいや、ちょっと待って」
白蛇は、尻尾の先で額を抑えている。
「それで、今回のブツは何です? タイムトラベルは、人間の文明では、開発されていませんよ? 何をいったい、恐竜に売り付けるつもりです? それに、そんなことしたって、ラプトルは、空を飛べませんから!」
「そこは考えてある!」
「気球を売るのよ!」
圭太とおねえちゃんは、同時に叫んだ。
「まっ、待って!」
再び白蛇がストップをかけた。
「気球……なるほど。巨大なディプロドクスやスピノサウルスと違って、小型なラプトルなら、充分、対応可能でしょう。気球で空を飛ぶのも、ありかもしれない。気球は、人間が作ったものだし。けど……けど……」
自分のしっぽを負って、くるくると回り始めた。
「でもその場合は、大きくなったグノールと、今のグノールは、別人というか、別竜になってしまうんですよ? 今のグノールは、いなくなるわけです」
「いいじゃん。その代わり、鳥と仲良しのグノールができるわけだから」
おねえちゃんが、きっぱりという。
「グノールも、そう言っていたわよ」
既に、グノールの了承は、取っていた。
グノールは、どうしても、鳥の仲間になりたいと、言い張った。
「タイムパラドックスだね、白蛇が心配しているのは」
圭太には、わかっていた。
「そうです。私たちが、時の流れを変えてしまうことになるわけですからね」
白蛇は不安そうだ。
「だって、スーパーおろちがすでにそうじゃん。恐竜の滅亡を防いで、人類の繁栄をなくそうとしてるんじゃん」
「それには、大義名分があるからです! 人類などという邪悪なものが、地球を支配してはいけないのです!」
「私達にも、大義名分があるのよ!」
負けずにおねえちゃんが、金切り声をあげた。
「もし、この仕事を失敗したら……私達、グノールに食べられちゃうのよ!」
そうだ。
今回は、他の肉食竜を探しに行かなくたっていい。
哺乳類は、ラプトルの、大好物なのだから。
「わっ、わかりました!」
ついに白蛇は言った。
「行きましょう。ほんの少し前の、この場所へ……」
*
グノールが教えてくれた場所は、すぐにわかった。
森の奥の、小高い場所に、ラプトルの巣はあった。腐葉土がいっぱい積み重なっている。
だが、そこには、親ラプトルがいた。
卵の上に座り込んで温めている……。
「ダメじゃん」
おねえちゃんが囁く。
「これじゃ、卵を取ってこれないよ」
「どっちか、おとりになろう」
思い切って、圭太は言った。
「親をおびき出すんだ。その間に、残った方が、グノールの卵を持ってくる」
盗む、とは言いたくなかった。
だって、グノール自身に頼まれたのだから。
「なるほど。いい考えね。じゃ、頼んだわよ」
「え?」
「あんたが親を誘い出す。その隙に、私が、卵を取りに行く」
「なにそれ。おねえちゃんが、親を誘い出すんだろ?」
「言い出しっぺはあなたでしょ?」
「他に方法はあるの?」
「……ないけど」
「じゃんけんで決めよう」
圭太は提案した。
「公平に決めようよ」
「わかった」
おねえちゃんが了解する。
「じゃん、けん、ぽん!」
圭太がパーで、おねえちゃんがグーだった。
「まっ、負けたわ」
グーのてを握り締め、おねえちゃんが地団駄踏んでいる。
おねえちゃんはあわてんぼだなあ、と、圭太は思った。
小動物となったこの手では、チョキは出せない。
グーかパーしか出せないのに、よりによって、グーを出すなんて。
「仕方ない。中学生に、二言はない」
おねえちゃんは、潔かった。
「途中に、小さな《《うろ》》がある木があったでしょ? あの中に逃げるといいよ」
圭太は教えた。
「木に上らなくちゃならないけど、あの大きさなら、ラプトルは入れないから。それに、羽が傷つくから、前足を突っ込むこともしない」
「ふん。あんたに言われなくたって、そんなこと、わかってるわよ」
おねえちゃんは胸を張った。
「ま、トロイあんたより、すばしこいあたしが行った方がいいわ。まかせといて!」




