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恐竜物語  作者: せりもも
セイスモサウルス(ディプロドクス)

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 ぶーん。

 何かがおじいさん恐竜の腰の辺りから飛んできた。


 ぶーん。

 続いて、もう1匹。



「やあ、モーモ。僕らは、君の体に住むことにしたよ。これは、僕のお嫁さん。たった今、結婚したんだ」


 それは、さっきの虫だった。おじいさん恐竜の体の上で、おじいさん恐竜に運ばれながら生活していた、あの、羽のある虫だ。


「僕らは、君を、新居に選んだ。もうすぐ、赤ちゃんも生まれる」



「さ、モーモ、行きなさい」

虫の新婚夫婦を、優しい目で見て、おじいさん竜は言った。


「わしが生きて目を開けている間は、アロサウルスたちは襲ってこない。これだけ大きいんだから、やつらも、わしのことが怖いんだよ。さあ。あんたたち、モーモを頼むよ」


「う、うん……」


「慌てなくていい。でも、早く。できるだけ早く。その方が、わしも、早く楽になれるから……」


言い終わると、おじいさん竜は、静かに目を閉じた。


「おじいちゃん!」

その体に、モーモが取りすがって泣いている。




 「どうしよう」

おねえちゃんが、圭太に言った。目が、真っ赤になったままだ。


「カイバ、スーパーおろち号を呼ぶんだ。今、ここに!」

圭太は叫んだ。自分の声に力がこもるのが感じられた。


「リョウカイ……」

カイバが言い終わらないうちに、


 ずずずずずーん!


 大きな鉄の塊が、目の前に到着した。



「蛇つかい、電車つかいが、荒いですよ。いっつもいっつも、大急ぎ、なんだから。まだ、貨物車輛を外してもいないのに」


 ぶつぶつ言いながら、白蛇が姿を現した。


 

「白蛇、モーモを群れまで運ぶんだ」

力のこもった声で、圭太は叫んだ。


「もう予算はないって言ったでしょ」

ぴしゃりと、白蛇が言い返す。


「トラック100台と、運転手の人件費で、からっけつですよ。鼻血も出ない」


「スーパーおろちで運ぶんだよ。だってほら、トラックが運べただろ。だったら、恐竜くらい!」


 ましてやモーモはまだ、子どもだ。


「ええーっ! 恐竜をスーパーおろち号に乗せるんですか? そんなこと、したことない!」


 白蛇は、目を丸くした。


 「あれこれ言ってる場合じゃないよ。ほら、あの木の下……あそこに、アロサウルスが……」


「ひえぇぇぇーっ」


圭太が言い終わらないうちに、しゅっと、白蛇は、スーパーおろち号の中に引っ込んだ。窓から首だけ出してきんきん声で叫ぶ。


「恐竜さん、早くお乗りなさい」




 「さ、モーモ、早く!」

おねえちゃんが、モーモのつま先をくすぐって急き立てた。


 モーモは、まだためらっている。



「行くんだ、モーモ」

おじいさん竜が、かっと目を開いた。圭太が初めて聞く、厳しい声だった。


「お前の背中には、虫たちが乗っている。虫の一家……夫婦と、やがて生まれてくる彼らの子ども……を、守る義務が、お前にはある」


 そして、再び、ゆっくりと目を閉じた。



 「僕、行くよ」


とうとう、モーモが言った。言いながら、ぼろっと、涙をこぼした。




 「モーモ、乗れるかい?」


トラックの乗っていた荷台は、枠で囲まれていて、少し高くなっている。


「怖い……。初めて乗るんだ、こんなの」


「誰だって初めてだよ。恐竜はまだ、誰も乗ったことがないんだって。君が、一番乗りだよ」


 垂れた首の、耳元で圭太は囁いた。

 モーモは首を竦めた。


「怖い……。足を高く上げると、転びそうだ」


「大丈夫だ。転んだら、受け止めてやる」


「君に? 無理だよ。怖い」



 「ほら、モーモ、わたしの上に倒れれば、骨折しない!」


 モーモの左側の地面にべたっと寝転んで、おねえちゃんがさけんだ。


「こっちに倒れても、僕がいる!」


圭太も、モーモの右側に寝転んだ。両手両足を長く伸ばして、少しでも多くの地面を覆おうとした。


「僕たちがいるから、大丈夫!」



 「君らを潰しちゃうわけにはいかない」

意を決したように、モーモはつぶやいた。


 そして、ゆっくりゆっくりと、右前足を上げた。

 台の内側奥に前足を降ろす。


 続いて左前足。


 体重を高い台の乗せた2本の前足に移す。


 さあ、勇気を出して、後ろ足!

 圭太のそばで、右後ろ足が、そろそろと地面を離れた。寝転んでいる圭太の上に、砂がぱらぱらと落ちてくる。


 圭太は息を飲んだ。

 右足は消えた。


 残った左後ろ足が、ゆっくりと、荷台の中に引き込まれる。



「やった、モーモ、やったじゃないか!」

思わず、圭太は大声で叫んだ。



 「おじいちゃん……」

架台の上から、モーモが振り返った。


 おじいさん恐竜は薄目を開き、うん、うん、とうなずいた。


 「モーモ、100年経ったら、来てごらん」


 おじいさん恐竜が、謎のような言葉をつぶやいた。ひどくかすれて、聞き取りづらい声だった。









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