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恐竜物語  作者: せりもも
トリケラトプス
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18




 カイバが、ふわふわと飛んで来て、ぺたっと、圭太の顔にひっついた。


「わっ、カイバ! 何すんだよ」


「キケンキケン」


「はっ? 大体、今まで、どこへ行ってたんだよ」


「アルバートサウルス! アルバートサウルス!」


「なんだって! アルバートサウルスが!?」

「どこに!」


圭太と白蛇が同時に叫んだ。



「アルバイトでいいわね、歯医者。フルタイムで働いてもらうと、お金がかかるから」


おねえちゃんはまだ、まぬけなことをつぶやいている。



 「アソコニ、アソコニ」


 カイバガ浮き上がって示したのは、トリケラトプスの群れをはさんで、圭太たちのいる森とは反対側の、岩場だった。大きなごつごつした岩の陰に、つやつやした恐竜が、じっとうずくまっている。圭太八人分はあろうかというほどの長さだ。


 その鋭い目は、のんびりと植物を食べている、トリケラトプスの群れを追っていた。



 「群れを外れて一匹になるのを、待っているんだ……」



 息をひそめて岩と一体化して見えるアルバートサウルスは、ちょっとやそっとのことでは、その場を離れそうになかった。


 体こそ大きいが、身を伏せて丸まっているその姿は、まるで猫のようだ。ネズミや雀を襲う直前、猫はよく、こんな格好をする。


 アルバートサウルスの静止した沈黙には、獲物を狙う、肉食恐竜の執念が感じられる。 


 うずくまった恐竜を、圭太は、とても薄気味悪く感じた。



「マフラに教えてあげらなくちゃ!」


圭太が叫ぶと、白蛇は、鎌首をあげて、横に振った。


「無理ですよ、ここからじゃ。下手に巻きこまれたら、こっちが危ない。大丈夫、トリケラトプスは、戦うことのできる植物食恐竜です。群れから離れさえしなければ、絶対、大丈夫」



 けれども、アルバートサウルスはしつこそうだった。これでは、獲物を捕まえるまで、決して、トリケラの群れから離れていかないだろう。限りなく、圭太は、不安だ。



 「あっ、子どもが!」


 カイバと一緒に高い木に登っていたおねえちゃんの声が、上から降ってきた。


 1匹のトリケラトプスの子どもが、ふらふらと群れから離れた。そのまま、アルバートサウルスのいる岩場の方へ歩いていく。


「だめだよ。そっちへいっちゃ!」

思わず、圭太も叫ぶ。



 それまでの静けさが嘘のようにアルバートサウルスが、ばっと跳ね上がった。伏せていた姿勢からは、想像もできないような上背だった。アルバートサウルスは、ほとんど直立して、2本のたくましい後ろ脚で砂を蹴って走り始めた。


 物凄いスピードだ。


 おびえた子猫のように、トリケラトプスの子どもが立ち止まった。


 だがそれは、一瞬のことだった。長い、悲しげな悲鳴が、大気をゆるがした。子どもは、不自然な態勢で方向転換すると、仲間の群れめがけて、一目散で逃げ出した。



 その時、トリケラトプスの群れから、駆けだしてきたものがあった。ただ一頭だけ、ものすごい勢いで、子どもの方へ、走ってくる。


 そいつは、頭に2つ、ピンクのリボンを結んでいた。走る勢いの凄さに、リボンはひらひらとゆれ、それでも、ほどけなかった。


 マフラだ。

 圭太は思った。そして、ぎょっとした。


 マフラ、だめ、戻れ、マフラ。

 君の角は、使いものにならない。



 アルバートサウルスは、突進してくるマフラに気がついた。一瞬の、ためらいがあった。だが、肉食竜は、獲物を諦めなかった。



 アルバートサウルスは、一思いに獲物を仕留める作戦に出た。


 丈夫な後ろ脚で思い切りジャンプすると、巨大な口をがっと開き、トリケラトプスの子どもの喉めがけて飛びつこうとした。


 かんだかい悲鳴と、叫び。


 一瞬早く、マフラが到着した。

 渾身の力をふるって、アルバートの腹に、体当たりを食らわす。



 トリケラトプスの群れの中で、雌の1頭が、頭をもたげた。間一髪のところで救われた子どもは、そのトリケラトプスめがけて、逃げ帰っていく。


 マフラの体当たりを受け、たまらず、アルバートサウルスがよろけた。体の長さは互角だが、体重は、マフラの方が重いようだ。


 獲物をとられたアルバートサウルスは、低く脅すようなうなり声をあげた。マフラも負けてはいなかった。2頭の恐竜は正面から睨み合った。


 ぎゃーっ! ぎゃーっ!

アルバートサウルスが吠える。


 ぐおーっ! ぐおーっ!

マフラも低重量の底力のある声で応戦する。


 マフラの襟飾りは、さっきより迫力のある赤緑色に染まっていた。








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