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放課後、校庭でキックベースボールが始まった。本当は、一度うちへ帰らなくてはいけないのだけれど、ほんの少しだけなら、先生も多めにみてくれる。
ナツキの蹴ったボールが、大きく弧を描いて、圭太の足元へ落ちた。
「わるーい、藤原、投げてー」
守備チームのタツルが、大声で叫ぶ。
ランドセルを背負ったまま、圭太はのろのろとボールを拾った。
「早く!」
ナツキは2塁を回り、3塁へ向かって全力で走っている。
圭太の投げたボールは、外野の柚奈のところにさえ、届かなかった。
「ちぇっ、なんだよ、へたくそ」
乱暴な言葉でののしると、柚奈はボールが落ちた所まで走った。広い上げ、全力でホームへ投げ返す。
しかし、すでにナツキは、ホームへ滑り込んでいだ。ホームベースの上で、ばんばん飛び跳ねながら、柚奈に向かって、舌を出している。
「ちっくしょ、藤原が愚図なせいだ!」
悔しそうに柚奈が叫ぶのが聞こえた。
再び、次の人が、ホームに立った。
全力でボールをけり上げる。
「……」
しばらく圭太は、楽しそうに遊ぶ友達を見つめていた。
じっとしていると、どんどん寒くなる。
自分も、動きたい。
みんなと一緒にボールで遊べたら、どんなに楽しいだろう。
……僕は、運動が苦手だけど。
……隅っこの方にいるだけなら、みんなに迷惑をかけないと思う。
ここからでは、誰にも聞こえない。きっとそうだ。だから、圭太は言ってみる。
小さな声で。
「いーれーてー」
でも、みんなにはちゃんと聞こえている。
タツルが振り返った。
べろんと赤い舌を出す。
「ムリー、キョヒー、キャッカー」
……聞こえない方がよかったのに。
そして、圭太は、今日も、一人で帰る。