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8.綻び



 国中に満たされた魔力が激しく揺らぐ。それは、この国に強大な力を持つ者が現れたことを示していた。

 石造りの床に描かれた巨大な魔法陣。その中心に跪いていた男の白金の髪が、風もないのに肩からさらりと流れ落ちる。


 「……呼んでしまったのか」


 後悔とも取れる言葉ながら、その声音には一切の感情はこもっておらず、ただただ冷たく響くのみだった。


 男は再び魔法陣に集中する。

 国を守護する役割を持つこの魔法陣は、常に国の変化に敏感で、すぐに綻びが生じるのだ。

 そして、その綻びを正していくのは王であるこの男の役割である。


 魔法言語を紡ぐたびに、糸状の光が現れ、陣を一つ一つ繕っていく。魔法が使える者ならその様子がいかに高度なものなのか瞬時に理解しただろう。


 しばらくして、糸が陣を完全な形に整えた。その次の瞬間、描かれた魔法陣が紅く輝き、再び守護の効力が働き始めたことを示す。

 男は床に両手をつき、荒く息を吐いた。


 『……ねえ、ヨースティン。あれだけ神子は呼ばないと言っておきながら、結局貴方は呼んだのね?』


 くすくすとからかうような声が響いてきた。女性の声だが、姿は見えず、反響してあちこちから聞こえるように感じる。


 「……余が呼んだわけではない」

 『そうなの? でも、それはこの国における貴方の影響力が落ちてきていることの証拠にしかならないわね。とても残念だわ』


 口ではそういうものの、声はとても弾んでいる。男――ヨースティンは、忌々しげに虚空を見上げた。


 「何故出てきた。陣は今、機能している。そなたが出る幕などないはずだが?」

 『可愛い我が子の様子を見に来てはいけないの?』

 「……そなたの子になったつもりはない!」


 鋭い声を上げて、魔力を放ちながら空間をなぎ払う。大きな音を立てて、カンテラが破裂した。

 しかし、それが無意味だということはヨースティンにもわかりきっていた。


 『無駄な魔力を使ってしまうなんて……貴方もまだまだ子どもね』


 魔力の影響は全くなかったらしい。女は、からかいを交えながら言った。


 『そろそろ、時間ね。……神子に会うのは、どちらが先かしら?』


 女の声がぐわんと揺らいだ。そしてどんどん遠くなっていく。


 「……そなたに会わせるつもりは毛頭ない」

 『貴方が駄目だと言って、叶うほどの影響力が残っているといいわね』


 声が聞こえなくなった。部屋中に漂っていた、強烈な気配も完全に消えている。

 ヨースティンは、散らばったカンテラの残骸を見て溜息をつく。


 「神子、か……」


 強大な魔力の持ち主だ。宰相たちもすぐに会わせようとするだろう、と安易に考えていたヨースティンだったが――。


 「……ぐ……っ!?」

 「陛下!?」


 突如、視界が暗くなっていく。と同時に、身体から魔力が抜けていくのを感じた。

 誰かの声がしたと思ったが、そちらを見るので精一杯で、駆け寄ってくる者の影を見ながら、ヨースティンは意識を失ってしまった。



 神子が現れたと一部の者たちが湧く一方で、グリューエルン国王が病に伏したとの知らせが国中を駆け巡った。









ようやく王様登場です!

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