7.初めての…
シェリード兄妹の会話にやや気後れしていたラティーファも、ここへきて心はようやく落ち着いてきたようだ。
「さて、と。ラティーファ様、お疲れでないなら湯浴みに参りましょうか。お召し替えはそのときに致しましょう」
「は、はい…」
しかし、にっこりと笑うジェニの表情に、一抹の不安を隠すことは出来なかった。
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ほかほかと湯気の上がる大理石で出来た部屋。中央にある大きな石造りの浴槽には、見たこともないくらいのお湯で満ちており、ラティーファは動きを止めていた。
「さあ、その服は脱いでしまいましょう。……ラティーファ様?」
「す、すみません……こんな場所、初めて見たので……」
「まあ、そうなのですか! 心配いりませんわ! 全て私にお任せくださいねっ!」
ジェニはとても嬉しそうに笑った。しかし、その手は容赦なくラティーファの服をはいでいく。
日に焼け、痩せた傷だらけの身体が露わになっていくにつれ、ラティーファはこれまで感じたこともないくらいの羞恥を感じていた。
とはいえ、いくらラティーファが静止しようとも、ジェニの手が止まることはなかったが。
裸に剥かれたラティーファの身体は、湯をかけられたあと、真っ白な泡に包まれている。
「ジェニ、さん……聞いてもいいですか?」
「ジェニ、で構いませんのに。私に答えられることでしたら、どうぞお聞きになってください」
「救国の神子って、何なんでしょう……?」
身体の隅々を優しく洗い上げていく感覚に、ラティーファの身体の力は徐々に抜けていく。
「私も知っているのはおとぎ話程度で、詳しくは存じません。ただ、昔から国が危うくなると、どこからともなく神子様が現れ、国を乱している原因を除いてくれるとか」
「では、この国……グリューエルン国は、危機に瀕している、と……?」
更に視界は狭くなっていく。
「ええ……それも、国王本人に影響が出てきているのです……あら? ラティーファ様?」
かくん、と首が大きく揺れる。どうやら、ラティーファの疲労はここで限界に達してしまったらしい。
ジェニはラティーファの身体が湯に沈み過ぎないように気をつけながら、慎重に身体や髪を洗う。
「神子様、か……今までどんな苦労をしてきたら、こんな身体になるの……?」
大小様々な傷のある身体を痛々しい表情で見ながら、ジェニは呟いた。
「この子は、この国の抱える大きな傷や病を本当に治すことができるのかしら……ねえ、神子様……?」