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6.世話係

大変遅くなりました。

これからまた少しずつ展開させていきます。






 燭台に灯された青白い火がゆらりと揺れている。いつの間にか日が落ちていたのだろう、室内は決して暗くはないが寒々とした色を帯びていた。

 一つ一つの言葉を丁寧に語り終えたラティーファは、ケホケホと小さく咳をし、乱れた呼吸を整える。



 「……私は、恩人を見捨ててここへ来ました。ここへ来たのも私の力によるものではありません」

 「ふむ……熱砂の国、か……」


 グレーの髭を撫でながら、バインツは思考を巡らせていた。


 菫色をした少女が語った気候の国があるのは知っているし、彼女のような肌の色が濃い人種も見たことがある。

 彼が何より気になるのは、少女が語ったフューリという人物のことだった。 



 「バインツ殿。神子殿は来たばかりで混乱しているはず。ならば、暫く様子を見てみるのもいいと思いますが?」


 すっかり萎縮してしまっているラティーファを見ながら、リヒルは努めて穏やかな声で言った。


 「……そうだな。では、神子殿、今日はこの辺にしておこう。……ジェニに世話をするよう、言っておいてくれ」

 「わかりました」


 リヒルの提案に感謝しながら、部屋を去っていくバインツたちを見送ると、声音と寸分変わらないような穏やかな表情を浮かべたリヒルが、そっとラティーファの頭を撫でる。


 「辛い過去だったのに、語ってくれて本当にありがとうございました。この後、貴女の身の回りのことを任せる者を呼んでありますので、その者に任せてゆっくり休んでくださいね」

 「あ、あの……私っ…あ、あれ……何で……!?」


 視界がじわじわと滲んで、冷たい雫が両頬を伝っていく。瞬きをすると握り締めた拳に涙が零れ落ち、弾けた。


 「辛い経験をしてきた貴女の傷をえぐるような真似をしてしまった……どうか、私たちを許してください」


 椅子に腰掛けているラティーファの足元に跪くと、どこからともなく出したハンカチでその涙を拭う。

エメラルドの瞳が、悲しげに揺れた。


 そこにノックの音が聞こえる。音もなくドアが開くと、スラリと背の高い女性が現れた。 

 と、同時に女性の目がみるみるうちに大きく見開かれ、弾かれたようにこちらへ駆け出した。


 「り、リヒルーーーーーー!!!!! 貴方、また女の子を泣かしてるのねーーーーーー!!!!!!」

 「じ、ジェニ!? こ、これはちがっ」

 「問答無用!!!!!」


 その言葉と共に、リヒルの身体は綺麗に蹴り飛ばされ、絨毯の上に沈んだ。目の前で繰り広げられる非現実的な出来事に、ラティーファの目から流れ落ちる涙は止まり、ぽかんとした表情で二人を交互に見る。

 ぱんぱん、と手を叩きながら、ジェニ、と呼ばれた女性はラティーファに向き直った。


 「……貴女が、救国の神子様……?」

 「あ、え……はい…?」


 まるで品定めするように、ジェニの目が細くなる。ラティーファはぎゅっと両手を握り締めて息を止め、相手の出方を窺った。


 「……何てこと……! これじゃあ、まるでお人形さんじゃない!!!!!」


 にゅっと白い手が伸びてきたかと思うと、ラティーファの身体はあっという間に抱き締められてしまった。


 ああ、いい匂いなんて思っていたのもつかの間、ジェニの大きな胸に顔を埋めるはめになり、ラティーファの呼吸はどんどん苦しくなっていく。

 そこから救ってくれたのは、さっき勘違いで蹴り飛ばされたリヒルだった。


 「ジェニ!! 彼女が死んでしまう!!!」

 「あっ……ご、ごめんなさい!」


 顔が胸元から離れると同時に、ラティーファは肩を上下に揺らして息を整えていく。


 「……び、びっくりした……」

 「本当にごめんなさい、えーと……神子様?」

 「ラティーファと申します」

 「ラティーファ様! これから、貴女のお世話をさせていただきます、ジェニ・シェリードと申します。 ジェニ、と呼んでくださいね」


 間近で見るジェニは、とても肌が白く、明るい緑の瞳と癖のある金の髪をすっきりと一つにまとめていて、男性に蹴りを入れるような女性には決して見えなかった。


 「よ、ろしくお願いします…ジェニさん」

 「ジェニで結構ですよ、ラティーファ様。それよりも、リヒルに何を言われたのです? いじめられたのではないですか?!」

 「そんなことありませんっ…私が、私が勝手に泣いてしまったんです! それをリヒルさんが慰めてくださってて……」

 「そうなのですか? あら、てっきり」

 「ジェニはいつもそうだね。私の言い分を決して聞きやしない……」


 はぁ、と大きなため息をつきながら、リヒルは肩をすくめた。くだけた言葉遣いに、ラティーファが首を傾げる。


 「あら、説明してなかったのですね。 私とリヒルは双子なのです。非常に不本意ですが、リヒルが兄で私が妹、ということになっています」

 「不本意とはなんだ、不本意とは。……ああ、申し遅れました。 私はリヒル・シェリード。騎士団の副団長をしています」


 よくよく見ると、瞳や髪の色がとても似ている。

 リヒルはその話し方と、わずかに目じりが垂れているせいか、優男のような感じがするが、ジェニはつり目で背も高く、メリハリのある女性らしい身体つきのせいか、気が強そうな雰囲気が漂っている。まさに正反対の美形・美人兄妹、といった感じだ。


 「それでは、ラティーファ様。あとはジェニが全てお世話させていただきますので、私はこの辺りで失礼しますね」

 「は、はい! 今日は、色々とよくしていただいて、本当にありがとうございました」


 椅子から立ち上がったラティーファは、勢いよく頭を下げる。その様子を微笑ましげに見ると、それでは、と言い残してリヒルは扉の向こうへと姿を消した。












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