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4.過去【前編】

この話は、流血表現など、残酷な表現が含まれています。

また、ラティーファ視点で話が進んでいきます。


 私は、この熱砂の国のバリバーダという街で生まれました。

 昼間は暑くて、夜は寒い…そんな中で父と母と三人、とても貧乏だったけど毎日楽しかった……そう、あの時までは。




 ある日、盗賊が街を襲ったのです。

 家々から火が上がり、大きな曲刀を持った男達が人々を追いかけていました。どんな人物であっても、捕まれば嬲り殺されるのでしょう。

 もちろん、私も父や母と一緒に逃げました。


 「きゃあっ!!」

 「ラティーファ!」


 父と母の手を握り、懸命に走っていましたが、私は何かに足をとられ二人の手を放してしまいました。 足元を見ると、転がっているのはいつも笑顔で店を切り盛りしていた近所のおじさんらしき体……。彼の体には、首から上がなかったのです。


 恐怖のあまり、声が出ませんでした。父母と逃げているときもどこか非現実的だと思っていたのに、メラメラと燃える火の熱と足元にある首のない死体……それは、これが現実だということをはっきりと告げていました。



 「父様、母様…っ!!」


 二人の姿が見えなくなったことに、急に不安が押し寄せてきます。辺りを見回しても人の波と、何かが焼ける匂い、そして死体――。探すことは非常に困難でしょうが、幼い私は両親の姿を探さずにはいられませんでした。


 「どこ…!? どこぉ…っ!?」


 さっき転んだときに出来た擦り傷も、この恐怖と混乱の中では全く無意味でした。それほど感覚は麻痺していたのです。

 ――そして、ついに……。


 「父様! 母様! よかっ…」


 ほんの僅かな間ではあったものの、はぐれていた両親と再会できました。ほっとした表情が見えたのは一瞬で、二人の目は大きく見開かれ、恐怖に彩られるのがはっきりと見えたのです。

 その原因がわかったのは、次の瞬間でした。


 「ほう……まだ、生き残りがいたか」


 地を這うような、低い声。とてもねっとりしていて、まるで蔦のように体に絡み付いて私の動きを拘束しているようでした。


 「ラティーファッ!! 逃げてぇぇぇっ!!!」


 母の叫びが聞こえたかと思った次の瞬間、私の膝はがくりと折れ、地面に膝をつきました。ヒュッと空気を切る音が聞こえ、頭の上を何かが通り過ぎていきます。--曲刀でした。


 「かわしたか……運のいいガキだ」


 くくく…と喉を震わせて笑っている声が聞こえてきます。両親も私も、一歩も動くことは出来ませんでした。


 「女とガキは連れて行け。男は殺せ」


 聞こえてきた言葉に息を飲み、慌てて両親を助けようと立ち上がろうとしました。しかし、大柄な男が遮り、私を抱え上げました。聞こえるのは、父をかばおうとする母の声と、その母を逃がそうとする父の声だけです。


 そして次の瞬間。


 「逆らうやつは必要ない。その女も殺せ」

 「いやああああああ!!!!!!」

 「や、やめろおおおおおおお!!!!!」


 聞こえてきた両親の断末魔と、ボタボタと地面に落ちる液体の音、重たいものがどうっと倒れ伏す音――。


 「ああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁあぁ……!!!!!」


 私の口から出たのは、最早獣の咆哮のような声。次の瞬間、意識は闇へと落ちていきました。







+++++++++++++++++++++






 ――その後のことはよく覚えていません。

 

 目覚めたときには父も母もおらず、黒い檻の中に私はいました。

 遠巻きに色々な声は聞こえてきましたが、それらが決して聞いていていいものだとは思いませんでしたし、聞きたいとも思いません。

 ぼんやりと枷が付けられた手と、せわしなく動き回る人を見るだけの毎日。

 何日その状態でいたのか、考えることもしませんでした。


 ――正直、その頃の私は、死んでしまいたかった。どうしてあのとき、両親と一緒に殺してくれなかったのだろう、とあの盗賊を恨んだこともあります。


 そんな抜け殻のような私を買ってくれたのは、ある旅の一座の女性でした。


 「座長、私、この子がいいわ」

 「……フューリ、もっとマシな奴がいるだろう。こんなひ弱な者では……」

 「いいえ。 この子じゃないとダメよ。ね、お願い」


 そんなやりとりが行われていることにも全く無関心だった私は、このときもどこか遠くを眺めていました。


 「ねえ、貴女。名前を教えてくれないかしら?」

 「……」

 「ちょっと、聞こえていないの?」

 「……」

 「ねえ!」


 痺れを切らしたのか、女性が大きな音を立てて檻を叩きます。

 その音で我に返った私が目にしたのは、痛みに涙目になった女性の姿と、困ったように眉を下げた男性でした。


 「……あの…大丈夫、ですか…?」

 「大丈夫じゃないわよ! 全く……で、貴女の名前は?」

 「ら、ラティーファ…です」

 「ラティーファ、いい名前ね。ラティと呼んでもいいかしら?」

 「え……?」


 私の目に映ったのは、柔らかな水色の長い髪と、甘く垂れた金色の瞳。

 泉の精かと思いました。彼女は私に言いました。 


 ――貴女は、これから私と一緒に旅をするのよ、と。


 それから、私はフューリの世話係として旅の一座に加わることになりました。









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