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3.フードの男

 暗いあの部屋は、どうやら地下に造られた神殿だったらしい。

 激しい疲労感と空腹感から立ち上がることさえ出来なかったラティーファは、毛布をかけてくれた人物に抱えられ移動していた。

 がっちりとした腕の中で、ラティーファはただただ身を硬くするしかできず、そっと目を伏せる。


 ――どうしてこんなことになったんだろう……?


 未だに自分の身に起こったことが信じられず、無意識のうちに溜め息をついてしまう。一番近くにいる人物でさえ、こちらを一瞥しただけで大した反応は返ってこなかった。


 体を温めるはずの毛布は、水分を吸い取って重く、冷たくなっており、徐々に体温を奪っていく。それだけでなく、心が冷えていくような気がしていた。


 「……大丈夫ですか?」


 さすがに様子がおかしいと思ったのだろう、足を止め、ラティーファへ声をかけてきた。思っていたよりも、聞こえてくる声は若い。


 「……す、すみま、せ、っ…」


 思っていたよりも体温は下がっていたようで、奥歯がカチカチと鳴ってしまった。それを聞いた男は、失礼、と小さく声をかけると、ラティーファの体を一旦地面に下ろす。素足にヒヤリとした石の感触が触れた。


 「これ以上、体を冷やすのは良くない。 その毛布はこちらへ。代わりにこれを」


 フードのついたローブを脱ぐと、目の前には金に輝く髪を持つ男が現れた。やや長めの前髪からは、優しげなエメラルドの瞳がのぞく。相手から感じる気遣いに、心が少しだけ温かくなった。

 毛布を取ると、元々身につけていた衣服の生地が薄いことを改めて感じさせられる。受け取ったローブを身につけると、男の体温が残っていて少し気恥ずかしくなってしまった。


 「私のもので申し訳ないのですが、あと少しなので我慢してくださいね」


 とんでもない、と言おうとした瞬間、再び抱え上げられてしまい、その言葉は喉の奥へと消えてしまった。










++++++++++++++++++++++++++









 案内された部屋は、ラティーファが今まで見たことのないような、とても豪華な部屋だった。毛足の長い真っ赤な絨毯が敷き詰められ、一つ一つの調度品は精巧な細工が施されている。もちろん、周りにいる人物達も、仕立てのよい柔らかな衣服に身を包み、肌は白い。


 明らかに、ラティーファは浮いている。黒くまっすぐな髪はしっとりと湿っており、旅を続けていた体は強い日光に容赦なく焼かれ、身に纏っていた衣は傷のある肌を隠すにはその面積は全く足りていない。今までこの格好で踊ることはなんとも思っていなかったが、急に恥ずかしくなっていた。


 「さて、神子殿」


 目の前にいる人物達は、皆素顔を露わにしている。今、声をかけてきたのは、あの場所でバインツ、と呼ばれていた人物の声だった。年齢は50歳を越えているだろうか、顎には立派に整えられたグレーの髭があった。


 「貴方は、自分を無価値だと評価しているようだが……それを判断するには、我らにはいささか情報が足りぬようだ。是非、貴方のことを語ってもらいたい」

 「私のこと、ですか……」


 ごくり、と喉を鳴らして己を囲む人々を眺める。それぞれ表情は違うものの、一様に感じられるのは好奇に満ちた視線だった。


 こんな視線には慣れている…はずだった。しかし、体の震えが止まらない。 口を開いてもぱくぱくと動くだけで、声にすることができない。


 「バインツ殿、お止めください。彼女は今、とても話せる状態ではないはずです」


 低く静かだが、はっきりとした声が聞こえてきた。先ほど己を抱えてくれた人物の声である。


 「リヒルか。しかしな……」

 「ようやく念願の救国の神子が現れて、気が急く気持ちもわかりますが……それで、彼女が倒れてしまっては、国は救えないでしょう?」

 「うむ…そうだな……」


 リヒルと呼ばれた男は、バインツの言葉を聞くと微笑みを浮かべ、ラティーファの手を取った。


 「ただ、名前くらいは教えていただけると嬉しいのですが……お許しいただけますか、レディ?」


 下がっていた熱が急に頬に集まるのを感じながら、ラティーファはやっとの思いで自分の名前を告げた――。









まだまだ王様出てきません……。次の次くらいで出せると思うのですが…!

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