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2.青に溺れる

 今まで肌を焼いていた熱が全く感じられず、むしろ体はひんやりとした液体に包まれているように感じる。

 ラティーファが薄く唇を開くと、その隙間から、ゴポゴポと音を立てて気泡が漏れていった。カラカラに渇いていた口内が水分に満たされていく。


 ――ここは、どこなんだろう……?


 目を開くと、そこに映るのは青、青、青……-―。

 自分が吐いた息が、銀色の泡となって浮かんでいくのが見えた。そこで、ラティーファの意識が完全に覚醒する。


 ――早く、早くここから出なければ!!! 溺れてしまう……!!!


 泡が浮き上がっていった方向に、慌てて手を伸ばし、必死に水をかきわける。徐々に青かった視界に、銀色と金色の光が増えてくると、ラティーファの手にも力が増した。


 「ぷはっ」


 胸を上下させながら、辿り着いた場所をきょろきょろと見回す。

 と、同時に周囲から、フードを被った男達のどよめきが聞こえ、遠慮のない視線が投げかけられた。


 澄んだ水面を反射させているのだろうか、暗い石造りの部屋にも関わらず、壁には水色の光がゆらゆらと揺らめいている。よくよく見れば、壁面だけでなく天井にも床にもびっしりと魔法言語と魔法陣が描かれているようだ。そしてそれは、既に発動した後なのだろう、赤い光が徐々に失われていくのが見えた。


 「あの……」

 「成功じゃ!!! ついに召喚に成功したぞ!」


 フードの男のうち、一番ラティーファの近くにいた人物が声を上げる。彼女の声は聞こえていないようであった。


 「しかし、バインツ殿……召喚された者の姿は、神子というより、伝説の魔人……」

 「言うな。 いくら、魔人と似ているとはいえ、わが国に召喚されたのだ。存分に力を振るってもらおう」


 バインツ、と呼ばれた男がどうやらこの男達の中心人物らしい。そして、彼の目がようやくラティーファに向いた。


 「ようこそ、グリューエルン国へ。救国の神子殿」

 「え……? わ、私は…っ…」


 思いがけなく水の中で体温を奪われていたのだろう、発した声は震えていた。雫が黒髪を伝い、ぴちょん、と小さく音を立てる。


 「我々は、貴方を歓迎しますよ」


 響く言葉とは裏腹に、その声音と向けられた視線は冷たいものだった。











+++++++++++++++++++++++










 水―召喚の泉と呼ばれているものらしい―から引き上げられたラティーファは、改めて辺りを見回した。

さっきまで水に浸かっていたせいで分からなかったが、この空間自体の空気も冷たいものらしい。ぺたりと地面に座り込んだまま、自らの体を抱きしめるようにして震えた。

 と、温かく柔らかなものが体を包み込む。見上げるとフードの男の一人が厚手の毛布をかけてくれたようだ。


 「……ありがとう」


 震える声ではあったが、男はほっと息をついて離れていった。


 「さて、神子よ。貴方はどんな力をもっているのであろうな?」


 その言葉に、ラティーファは考え込んだ。そして、おそるおそる唇を開く。


 「私は…神子などではありません。ただの死にかけていた踊り子です。踊る以外に、何の力もない…無価値な女なのです」

 「ほう……?」


 バインツの目がすっと細められる。たったそれだけで、周りの空気がさらに冷たくなった気がした。


 「どうしてこんなことになったのか……私にはわかりません。ただ、貴方が求めている救国の神子というものについて、私は全く知らないんです」

 「……ふむ…貴方の言っていることに嘘はないらしい……が」


 壁面を彩っている魔法言語を一瞥すると、バインツはすぐにラティーファへと視線を戻した。

 日光で焼けたのだろうか、この国では滅多に見ることがない浅黒い肌と、不安げな色を宿した菫色の瞳、そして腰まで伸びた艶やかな黒髪の少女は、とても華奢で、どう考えても彼の脅威とはならないような気がする。


 しかし――。


 「貴方の容姿は、わが国ではいささか目立つようだ。……どちらにせよ、もう暫くはお付き合いいただこう」


 その言葉に、ラティーファは頷くしかなかった。








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