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15.友と呼べる人


 「ところでラティーファ様」

 「なんですか?」


 あの後、ラティーファとジェニの二人は行きと同じように人目を憚るように部屋に戻ってきた。向けられる視線の数は変わらなかったが。

 今は、二人向かい合って(本来ならばそうするべきではないが、ラティーファが首を縦に振らなかったのだ)お茶を飲んでいる。


 「ラティーファ様は、本来踊り子なのですよね?」

 「はい。腕はまだまだですけど……」

 「熱砂の国の踊り子……昔聞いたことがあるのですが、とても神秘的な舞を見せてくれると……」

 「神秘的、かどうかはわかりませんけど、中には神に捧げる舞もありました。踊ると気持ちも澄んでくるから、私は好きです」

 「あの、我が儘を申し上げるのは承知の上なのですが、こ、今度、私に舞を見せていただけないでしょうかっ?」


 言葉尻に力を感じ、ラティーファはぽかんとした。しかし、自分の舞を見たいと言ってもらえたのは嬉しく、すぐにその表情は綻んだ。


 「もちろんです! 魔力鍛錬でもジェニさんの力を借りなきゃいけないし……これからも迷惑をかけてしまうと思うから。私なんかの舞でよければいつでも!」

 「ありがとうございます、ラティーファ様!」


 ジェニのエメラルドの瞳が輝く。年齢はそう変わらないはずだが、大人びた様子の彼女からようやく年相応の反応が見られた気がする、とラティーファは思った。


 「ところで、ジェニさん。魔力鍛錬ってどうしたらいいんでしょう? ルーベン様の話だと、月の下で踊ればいいって話でしたけど……」

 「え゛っ!?」


 笑みを浮かべたまま、ジェニの動きが固まる。極端な反応に、ラティーファは目を瞬かせた。


 「申し訳ありません、ラティーファ様…ええと…その……魔法に関しては、リヒルに聞いた方がいいかと……」

 「そうなんですか? でも、ジェニさんも魔力が高いって……」


 はきはきとした彼女の態度がここまで硬化してしまうのだ。何か聞いてはいけないほどのことがあるのかもしれない、と、途中まで言いかけた口を慌てて手で覆った。

 しかし、ジェニにとっては大して変わらない。諦めたように肩を落し、ジェニは重い口を開いた。


 「シェリード家は潜在的に魔力が高い者が多い家系なのです。私やリヒルも例外ではありませんでした。ですが、魔力が高くても、それを上手く扱えなければ意味がないのです」

 「うまく扱う?」

 「ええ。魔法というのは、通常、発動までに三つのステップが必要なのです。まずは、使いたい魔法の発動に必要な魔力を体内で変換し、練り上げる。魔法が使えない人は魔力を練り上げることが出来ないか、根本的な魔力不足が大きな原因だと言われています。それが出来たら、次に必要なのが、効果をイメージすること」

 「イメージ……?」

 「たとえば、ラティーファ様が水の魔法を使うとします。どんな水の魔法があると思いますか?」


 ラティーファは考えを巡らせるように目を伏せた。水と言われても元々貴重だった存在のそれが、魔法としてどのように扱われるのか想像するのは難しい。小さく唸りながらも唇を開いた。


 「えーと……急に湧き出すとか、空からたくさん降ってくるとか……?」

 「今、ラティーファ様が答えたのが魔法の効果になるものです。ぼんやりとしたイメージならば効果はあまり期待できません。しかし、それが実際体験したことであったりして、具体的な効果をイメージ出来ていたら、その規模で発動させることが出来ます。……もちろん、魔力の及ぶ範囲で、という制約はつきますけど」

 「つまり、想像通りの魔法を使いたいなら、たくさんの魔力を練り上げて、具体的な効果をイメージすることができないといけない、ということ?」

 「そのとおりですわ。加えて、最後に練り上げた魔力とイメージを、呪文で調節して放つこと。これが出来れば魔法を使うことができます。ですが、私は……」

 「ジェニさん?」

 「私は、高い魔力を持つだけで、練り上げがうまく出来ないのです。申し訳ありません」


 それまでの大げさな反応とは異なり、ジェニの瞳が複雑な感情を宿したように揺れた。何か言わなくては、と思ったが、ラティーファには伝えるべき言葉が思い浮かばず、唇を噛む。


 「……この件については、私からリヒルへ伝えておきますわ。あぁ、でも鍛錬の場には参加させてくださいね?」

 「ジェニさんがいてくれたら、私、すごく心強いです!」


 揺れていた瞳が見開かれると、ジェニはいつものように華やかな笑みを浮かべ力強く頷いた。


 「ところで、ラティーファ様。やはり『ジェニさん』と呼ばれると、くすぐったいですわ。ジェニと呼んでくださいな」

 「あの……私も様をつけて呼ばれるのは落ち着かなくて。ラティ、と呼んでください」

 「ふふ……それじゃあ、二人きりのときは、ラティと呼ぶわね。ラティも敬語は使わないで?」

 「わかりまし……あっ! うん、わかったよ、ジェニ」


 何となく距離が近づいたラティーファとジェニは、目が合うとどちらともなく声を上げて笑う。

 二人が過ごした日はまだ二日にも満たないが、ラティーファにとって、ジェニはこの国で初めて出来た友人となった。









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