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12.価値

一年以上間が空いてしまいました。申し訳ありません。これからは書きためたものを少しずつ公開していく予定です。



 ぼんやりとしていたラティーファの意識が現実へと引き戻されたのは、それからまもなくのことだった。とても清浄な空気に満ちた室内は、彼女の心を落ち着けるには十分だったようだ。

 天井に目を向けると、幾何学模様で飾られたステンドグラスから様々な色彩を持った光が落ちてきていた。広い空間のせいか、ラティーファ、ジェニ、バインツ、ルーベンの四人それぞれの足音が長く反響する。

 そんな部屋の中央には、とても精巧な造りの女性の像が穏やかな表情で建っていた。一点の曇りもないその女性の表情に吸い寄せられるように、ラティーファは像の目の前まで歩いていくと、くるりと振り返った。


 「これは……?」

 「その像は、この国を守護する女神、オルネイディアの御姿を模したものだと言われています。そして、そのオルネイディアを唯一神とし崇め奉っているのが、グリューエルン国教である、ネイディア教と言います」


 ラティーファの問いかけに澱みなく答えたのは、ルーベンだった。


 「神子様。ここはネイディア教の礼拝堂です。位置的にも政治的にも国の中心に近い場所ですから、信者の方々はここを総本山と呼んでいます」

 「……そんな場所なのに、私なんかが入ってもよかったんでしょうか?」

 「神子様はとても謙虚でいらっしゃる……」


 いつの間にかラティーファの隣に立っていたルーベンは、小さく笑みを漏らした。


 「先ほど申し上げた通り、ネイディア教はこの国の国教です。しかし、信仰心は強制するものではありませんし、ネイディア教自体が開かれた宗教ですからね。許可さえあれば、他教徒であろうとここに入ることは可能なのですよ。……ましてや、貴方は我々にとって必要不可欠な、救国の神子なのですから」

 「あの」

 「何でしょうか?」

 「……やっぱり、私は、私自身がこの国を救えるほどの力を持っているとはとても思えないんです」


 小さな声だったが、強い意志を持った声だった。ジェニやバインツが背後で息を飲むのが聞こえる。

オルネイディアの像をとらえていた菫色の瞳は、いつの間にか伏せられていた。


 「なぜ、そう思うのですか」


 そう問いかけるルーベンの声音は全く変わらず、穏やかだった。


 「私はただの卑怯者です。仲間も救えなかった……自分の命が惜しくて、恩人さえ見捨てた卑怯者なんです……そんな女が、国を救う? 出来っこありません!」

 「神子様」

 「座長も、フューリも、他の皆も、みんな! みんな私が見捨てた! 私が……っ私が……!!」


 ぼろぼろと涙が堰を切ったように流れるのを、最早止めることは出来なかった。


 「神子様。泣くことですべて解決するのなら、貴方のいう『みんな』が戻ってくるのなら、いくらでも泣くといいでしょう。しかし、現実はそうではない」

 「……!」

 「今貴方が居るのは、熱砂の国ではなく、このグリューエルン国なのです。貴方の仲間を探すためにあちらに戻ろうと思うのなら、こちらでの影響力を高めねばならない」

 「どういう、ことですか?」

 「――貴方を喚ぶために使用した魔法は、使用が制限されているのです。あれほどまでに大掛かりなものは、国王不在の今、使用許可が下りる可能性はありません。たとえ、王が万全であっても、神子として力が示せねば貴方はただの少女にすぎない。――国として、利用価値のない人物に、大規模な魔法を使用させるわけにはいかないのです」

 「あ……」


 ルーベンの言葉に、ラティーファはようやく自分の置かれた位置に気づいた。

 この人たちは、『救国の神子であるラティーファ』が必要なだけなのだ。ただ過去を悔やみ、涙を流しているだけの少女には、何の価値もないのだと。

 だが、それも裏を返せば、ラティーファが神子として力を発揮することが出来れば、確かな地位を確立することができ、ある程度の自由と権力を約束するということだ。この国を無事に救うことができれば、熱砂の国へ帰還するための魔法を使うこともできるかもしれない。


 「祭司長様」

 「ルーベンとお呼びいただけますか?」

 「……る、ルーベン様…」

 「様もいらないのですが……まあ、いいでしょう。なんでしょうか、神子様」


 ぐい、と涙を拭ってしっかりと相手を見つめる。深い蒼の双眸が穏やかに揺れていた。


 「私は神子ではないかもしれないけれど、この国を救いたい。貴方の言うとおり、神子でない私はこの国では無価値だから。――だから、神子とその役割について、出来るだけ詳しく教えてください」

 「もちろんですよ、私はそのためにいるのですから」








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