10.異文化交流?
「あの、ジェニさん……」
「何でしょう?」
「わ、私、こ、こんな服着られない……!」
目の前に積み上げられた色とりどりのドレスに、ラティーファは目を白黒させていた。
熱砂の国で生まれ育ったラティーファにとって、フリルがたっぷり使ってあるふんわりしたドレスは異質なものだった。
しかし、ジェニは頑として譲らない。
「ラティーファ様。この国では、女性が肌を人目に晒すことをはしたないこととして避けているのです。ですから、昨日のような格好をしていただくわけには参りませんわ」
「で、でも……に、似合わないもの!」
「そこは私にお任せください! 私の腕の見せ所ですわ!!」
ぐっと両拳を握ったジェニを見て、ラティーファは逃げられないのだと諦め、がっくりと肩を落とした。
「ラティーファ様の瞳は綺麗な菫色ですね」
「すみれ?」
「あら、ご存知でないのですか? 冬が終わって温かくなる頃、咲き始める花の名前ですわ」
椅子に腰掛けたラティーファを、ぴかぴかに磨かれた鏡越しに見つめながらジェニは言った。
選ばれたドレスは、薄い紫で、フリルが少なめなシンプルなタイプのドレスだった。身体のラインははっきりと出ているものの、同じ年代のものと比べて凹凸の少ないラティーファが着ると、かえって慎ましく見える。
ドレスに落ち着かない様子ながら、それに気を取られることなくジェニは手早くラティーファの黒く長い髪を結っていく。
「私が住んでいたところは、すごく暑いかすごく寒いかのどちらかだったから、花なんて見る機会はなかったんです。いつか、見られるといいな……」
「今は秋の季節ですから、あと半年もすれば春がやってきますよ。そのときは、一緒に菫を探しに行きましょう!」
「ありがとう、ジェニさん!」
にっこりと笑ったラティーファにつられて、ジェニも笑みを零した。
「ところで、ラティーファ様。その首に付けられている装飾品のことですが」
髪を結い上げると、紅い石がはめ込まれた黄金の環がついているのが露わになる。不思議なことに、その首環には継ぎ目が一切なく、ジェニにはどうやってそれを付けたのか全く分からなかった。そっとジェニがそれに触れると、指先に熱を感じた。
「外すことは出来ませんか?」
「え? どうしてですか?」
「その……金や銀、宝石は、魔力の影響を受けやすいのです。陛下が倒れた今、魔力の暴走が起こったりしたらどんな影響が出るかわかりませんし……」
珍しくジェニが口ごもった。魔力のことはよくわからないが、どうやらそれ以外にも理由があるらしい。
「もしかして、言いにくいことですか?」
「すみません」
「大丈夫です。でも、これは多分、外せないと思います……私の契約の証だと思うから」
「?」
最後は上手く聞き取れなかったらしい。ジェニは首を傾げたが、すぐに、そうですか、と納得したようだった。
結局、彼女がどうして外せないかと聞いてきた本当の理由は、今の時点では全くわからなかった。