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マシュマロの中には石ころが入っていた。

俺の言葉を聞いて2人はマシュマロを食べていたら中に石ころが入っていたかのような表情を浮かべた。


「どういうことだ?つまりお前は高城里美がエムちゃんではないと言いたいのか?」


「その通りです。彼女はエムちゃんではありません。」


「いや、だがな。実際に証拠が出てるんだ。疑う余地はないだろ。」


「分ったのは彼女のアドレスから工藤さんにメールが送信されたという事実だけです。高城里美がエムちゃんであるという証拠ではありません。」


「つまり“なりすまし”ってことか。しかし、お前だってさっき言っていたろ。可能性を考えたら切りがないって。彼女のアカウントを不正使用した第三者を疑うより、アカウント所有者本人を疑うほうが自然じゃないのか。」


「いえ、問題なのは

『エムちゃんのアドレスが高城里美のアドレスとして登録されていた』

という事実です。

どうしてエムちゃんはわざわざ生徒会に業務用として登録されているメールアドレスを使用したのでしょうか。始めにも云った通り、フリーメールなら簡単にアドレスを入手する事ができます。エムちゃんが自分の事を知られたいと思っていたかにもよりますが、自身の携帯のアドレスから送っていないことからも少し不自然に感じます。」


「いや確かにそうだがな。そこまで深く考えていなかったんじゃないのか。携帯のアドレスを使用しないだけで十分な偽装になると満足していたかもしれんぞ。事実お前がいなかったら直ぐにはエムちゃん=彼女のアドレスとは分らなかっただろう。」


「その可能性もあります。ですから『高城里美がエムちゃんではないかもしれない』という立場をとってもう一度絞り込みの決め手となった『エムちゃんは生徒会役員』であるという命題を考えてみましょう。

生徒会役員以外にあのメールを送ることができた人間はいないか、です。」


「だが送れたかどうかで考えたら一般生徒だって含まれてしまうだろ。たしかにリスキーではあるが、不可能なわけではないからな。それじゃあまた議論のやり直しだ。」


「いえ。不可能なんです。」


その言葉にさすがに良助は驚いたようだった。


「不可能ってどういう意味だ。」


「そのままの意味です。一般生徒にあのメールを送ることはできません。」


「えーなんでなんでー?」


先ほどから黙って話を聞いていた工藤さんが身をのりだして尋ねる。横にいる良助も早く云えと云わんばかりだ。


「良助の云った通り重要なのはメールの文面の内容と送信時間です。良助は論証に送信時間の重要性を特に使用しましたが、文面の内容にも注目しなければなりません。」


「なぜだ。校歌の声が小さくて練習するってのは俺だって―」


そこで良助は気づいたようだった。


「…俺は馬鹿だな。完全な思い違いをしていた。」悔しそうにそうつぶやく。


「そうです。送信時間8時18分時点で一般生徒がこの情報を知っているわけはないのです。校長先生の話が長引いた影響で今日は急遽予定を変更しました。本来校歌の練習を伝えるはずの『生徒会からの報告』をカットしたんです。一般生徒に伝えたのは朝礼終了後のホームルームでクラス委員長からです。」


もし、予定通りに進んでいれば証明できなかった反例である。


「一般生徒ではないってのは分ったが、それなら一層『エムちゃんが生徒会役員である』という命題の信憑性が増したんじゃないのか。他にこのメールが送れた人間はいないだろう。」


「そうですね。順を追って考えてみましょうか。まず良助の云った

『誰がこの時間にメールを送ることができたか』

ということですが、確かに生徒会の人間であれば可能です。人目を盗んでメールを送るくらいなら司会をしていた高城さんにもできたでしょう。しかし、他にもこの時間に簡単にメールを送ることができた人間がいます。」


「それは誰だ。」



「今日欠席している人間です。」



そこで良助はまた苦い顔をした。マシュマロの中に入っていた石を抜いたら今度はタバスコが入っていたような。


「いやいや。欠席していたやつはそもそも校歌の練習云々についての情報を知り得ないだろうが。」


なにを当たり前のことをと良助が云う。


「その欠席をしていた人間が校歌の練習について知っていたらどうでしょうか。たとえばそれが『校歌の伴奏者』だったら。」


「いやしかし、校歌の伴奏者って今日ちゃんといただろ?」



「ううん。違うよ。あの子は本当の伴奏者じゃないの。」



良助の疑問に答えたのは工藤さんだった。


「そう本来校歌を伴奏する予定だった生徒は本日欠席しています。その生徒の名前は美倉紫乃(みくらしの南高2年の2組の生徒です。」


「そうそう。紫乃ちゃん。ちょっとしか話したことないけど私知ってるよ。こないだ校歌の楽譜もってたもん。」


「彼女なら事前に校歌の練習の事を知っています。それの打ち合わせに行ったのは他でもない高城里美です。」


「だが待ってくれ。彼女がエムちゃんだとしたらクラスに関する命題に矛盾するだろ。エムちゃんは3組か4組のはずだ。エムちゃんが嘘をついたのか?」


「いえ、すいません。始めに云っておくべきでしたが、実は2組も9月29日の2時間目は数学だったのです。その日2組の数学を担当する鈴木先生の都合で本来4時間目にあった数学が入れ替わって2時間目に変更されたんです。つまり彼女はエムちゃんの条件のすべてに該当します。」





 そこまで聞いてようやく良助は納得したようだった。



「まったく、やられたよ。いつから気づいていたんだ。」


「美倉さんが浮かんだのは良助の話を聞いた時ですよ。始めから高城さんがエムちゃんでないことは分っていましたから。」


「なぜだ?」


「彼女がそんなことするはずありません。もし何か正当な理由があったにしても彼女なら他の方法をとります。」俺はそう断言する。


「…なるほどな。お前なら同じ生徒会役員の性格くらい把握してるか。ん―じゃあもしかしてお前アドレスを見た時にこれが高城里美のアドレスだって分っていたんじゃないのか。」


「いえいえ。さすがにそれはありまえんよ。人のメールアドレスなんて一々覚えていません。」


しかし、実は良助の云った事は正しい。俺は工藤さんからエムちゃんのメールを見せてもらったときにそれが高城さんのアドレスだった事には気づいていた。そんな事をいったら大顰蹙だろうな。


「でもすごいね。さすが生徒会長だよ。」


工藤さんが素直に称賛してくれる。


「もっとも僕の案も良助の案もあくまで一つの仮説に過ぎません。実際真実は全く見当はずれなものかもしれない。あなたはエムちゃんに対してあまり悪印象を持っていないようですから個人名を示しました。良ければ本人にアポイントメントをとってみることを勧めます。」


「うん。紫乃ちゃんってたしかに人と話しているイメージないけど、でもとってもいい子だと思うんだ。」そう云う彼女は屈託のない笑みを浮かべる。




そう。彼女なら自分で真実を導けるだろう。






          *






その後、良助と工藤さんに別れを言ったあと、俺は再び生徒会室に来ていた。


そこにいる人物と話をするためだ。





「彼女、ちゃんと分ってくれると思いますよ。」





俺がそう声をかけたのは高城里美だった。


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