そして相良君の推理が始まる。
「やはり重要なのはメールの文面の内容と送信時間なんだよ。いや、今回に限って言えば送信時間の方だな。俺が注目したこの【校歌の声~】ってメールだがな、送信日時は今日の朝、8時18分。この時間はまだ朝礼の最中だ。ここで考えなければいけないのは、
『誰がこのメールを送ることができたのか?』ってことだ。
朝礼中に人目を盗んで携帯電話を操作することは不可能じゃない。がしかし、周りの生徒からは確実に注目されるだろう。下手すれば先生に見つかって携帯を没収されかねない。かなりリスキーな上に、エムちゃんにっとって人からの注目を浴びるのは好ましい事態ではなかったはずだ。最も朝礼の最中にこんなメールを送ってんだから、どうだか分らないがな。
これは俺の全くの推測だが、煌斗が皆の前で生徒会長として話をした事に興奮してたんじゃないか?メールを見ると節々に煌斗の事を話題にしてるしな。
まあそれはいい。それで誰ならメールが送りやすいのか考えた。これは今言った不明確な仮定を前提としているが、それでもその上で考えてみると一つの答えが浮かんだ。」
「生徒会関係者…ですか?」俺はそこで口をはさむ。
「そうだ。生徒会の関係者は一般生徒から離れていたし、指示を出すために何度も舞台裏にいったりしたはずだ。人の目を盗んでメールを送ることくらいは簡単だろう。
論拠が弱いことは認めるがね。それでも否定できる材料もないだろう。」
論拠が弱いという言葉とは裏腹に良助はそれがゆるぎない真実だと疑っていない自信がにじみ出ていた。
「ええ。その命題を真とするならば、今まで出た命題との論理和を考えるとエムちゃんとして考えられるのは…」
「そう。
『南高の生徒である。』且つ
『2年生である。』且つ
『3組または4組である。』且つ
『生徒会役員』である。
これに該当するのは高城里美一人しかいない。組の制約がなければお前も最有力候補だったんだけどな。」
そういって面白そうに俺を指差す良助。
生徒会にはもう一人2年生がいるというのは今は云わないでおこう。副会長なんですけどね。
「それに前生徒会との連絡のやり取りにフリーメールアドレスを使ってメールをしていたのを思い出した。それでもしかしたら業務用アドレスとして生徒会には記録があるかと考えたんだ。それで煌斗にそれをたのんだ。
結果はドンピシャだったみたいだな。」
そう。俺は良助に言われ、生徒会の端末から役員のアドレスを検索した。その中でエムちゃんの使用したアドレスが高城里美のアドレスとして登録されていた。
「すごいすごい!相良君天才だよ。」
工藤さんは単純に答えが分ったことを喜んでいるようだ。
「いやいや。喜んでもいられないぞ。エムちゃんの正体が生徒会役員だったんだ。一体どういう目的かはわからんが、これは思ったよりも大事件だ。煌斗、彼女はまだ学校にいるのか?」
「いえ、今日は早めに解散しましたからね。高城さんも直ぐに帰ったみたいでしたが。」
彼女は一番に生徒会室を出て行った。今思えば何か急いでいたようにも見えた。
「じゃあ話を聞くのは明日にするか。目的もそれでわかるだろうしな。恵理子もそれでいいか?」
「うん。大丈夫だよ。エムちゃんが誰か分っただけで満足です。」
そう言って良助も工藤さんもすべて解決したことに満足げな表情を浮かべていた。
しかし、俺はここで議論を終わらせるわけにはいかなかった。
なぜならこの事件はまだ何一つ解決していないからだ。
「彼女に話を聞く事は賛成ですが。質問事項はその目的ではありません。
『いつ、誰に自分のアカウントを知られたか』
です。」