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3人はエムちゃんの正体について話し合う。

「さて、では現時点で分っている要素からメールの送り主を推察してみましょうか。」


一通り工藤さんからの事情説明を聞き終えた俺、そして良助は彼女の要求に従い、このメールの送り主を突き止める事になった。


「まずメールアドレスですが、これはインタネット上で取得したフリーのアドレスですね。必要事項を入力すれば幾つでも入手できますし、メールの送り主にしてもその辺は一番気にする処でしょうからここから辿るのは難しそうですね。」


 アドレスからの探索は既に工藤さん本人も試みて失敗している。


「まあ、そのことには異論ないんだけどな。」


良助は腕を組んで思案顔をしながら呟く。


「おや、何か含みのある言い方ですね。」


「いや。ただこのメールの送り主はどう考えているんだと思う?こいつは本当に正体を知られたくないのか?それにしてはなんかこう自己顕示的な発言のメールが多いと思うんだが。」


なかなかどうして、良助という男はその体育会系の容姿に反して(偏見であることを認めよう)直情的ではなく多面的な思考をしようとする。彼と知り合ったのは今年の春だったが、体よりむしろ思考を働かせる方を好んでいる印象がある。


「そうですね。その辺をまず検討してみましょうか。」


「そうだな。このメールの送り主―」


「あの。ちょっといいかな。」


良助の言葉を遮って工藤さんが口をはさむ。先ほどから何か発言したいことを我慢しているようだったが、ついに口に出す決意をしたらしい。話を止められた良助は少しめんどうそうに「なんだよ。」と聞き返す。


「『メールの送り主』じゃ分りにくいから、何か名前つけない?」


「どうでもいいわ!」良助の一喝。全面的同意。


「えーだって長いし言い難いよ。」


「ああ、もう。じゃあ『犯人』でいいだろ。迷惑してんだし。」


「それじゃあ、なんか可愛くないなあ。エムちゃんなんてどう?MailのMをとってエムちゃん。」


何故か彼女はうれしそうである。そして呑気である。そう彼女はこの一連の出来事を『ついでに』相談したことを忘れてはならない。あんまり深刻ではないのだ。


「えっと、話を戻しましょう。そのエムちゃんの真意についての検証でしたね。」


「え、なにエムちゃんで通すのか!?」


「まあまあ。いいじゃないですか。それでエムちゃんが恵理子さんに正体を知られたくないか否かでしょ。」


「この手のタイプは単純に分類できるもんでもないかもしれないがな。知られたくないけど知っていてほしい。知られたいけど知られたくない。みたいな、そんな曖昧な感じが案外多いかもしれんな。」


「そうですね。感覚としては掲示板やSNSみたいなものに近いでしょうか。自分のプライバシィを開示して、聞いてほしいがある程度の匿名性も保っていたい、という。」


「だが手段は明らかに迷惑行為だ。それは恵理子が送ったメールに答えないことからもわかる。つか、これを男が送っているとみれば普通にストーカーからのメールだしな。」


確かにメールの送り主、いやエムちゃんが男か女かで受ける印象は大分違ってくる。もしストーカー目的のメールならばその心理は我々の理解の及びがつかないものかもしれない。

 俺はストーカーの気持ちなんて『まったく!』わからないな。


「ではその辺りの先入観はとりあえず、棚上げしてエムちゃんの絞り込みをしてみましょうか。」


 元々あまり実のある検証でないのも確かである。そろそろ本題に入ってもいいだろう。良助も異論はないようだった。


「はいはあーい。私が思うにエムちゃんは南高校の生徒だと思います。」


工藤さんの間抜け―否,明るい声が教室に響く。


「いいからお前は少し黙っとけ。」


消極的同意。


「でもその命題が成立するかどうかはかなり重要ですよ。絞り込みの第一歩です。」


「疑う余地はないだろ。明らかに南高の生徒としての文面だし、偽装するにしても外の人間じゃあ限界があるしな。まあ、兄弟に南高の生徒がいて聞いたってんならありえるかもしれんが。」


「いえ、その可能性は低いですね。」


「どうして?」工藤さんが訊く。


「文面は偽装できてもその送信時間が問題です。さっき見せてもらったメールの中に僕の生徒会長当選を示す文面がありましたよね。その送信日時は10月3日の午前12時45分でした。生徒会選挙の結果が公表されたのが同日のお昼の放送です。放送開始時間は12時30分。僕の当選の知らせは得票数の発表、選挙管理委員会委員長からの言葉の後でしたから40分くらいだったと思います。エムちゃんはそれを聞いて直ぐに工藤さんにメールを送信している。これはエムちゃんが南高生徒であるという論拠として採用してもいいんじゃないでしょうか。」


「お前よくそんな時間覚えてんな。」


工藤さんは驚いているようだったが、云った本人の良助はさほど驚いてはいなかった。おそらく俺の云ったことは良助も考えていただろう。


「可能性を考えても切りがありませんしね。ここは素直に考えていきましょう。」


仮に、生徒ではなく、教師やその他の関係者。もしくはメールは一人ではなく複数人によって送られていると考え出してしまったら収集がつかなくなる。


「よし。じゃあ俺も絞り込んでやる。」良助は自信ありげに云う。


「なになに?どう絞り込むの?」


工藤さんは何やら楽しくなってきたのか先ほどにも増してテンションが高い。


「エムちゃんの学年だよ。」良助が云う。


「学年?でも会長が飛鳥君になったのは全校が知っているよ。」


「俺が注目したのはそのメールじゃない。【次は、大嫌いな数学~】ってメールあったろ。

そのメールが送られたのが9月29日。送信時間は丁度1時間目の後の休み時間。つまり月曜の2時間目が数学だったってことだ。月曜の午前に数学があるのは2年か3年だ。去年と変わってなければだが、煌斗どうだ?」


「ええ。1年生で月曜2時限目に数学があるクラスはありません。」


「ここで1年の線は消える。それであとは2年か3年だが、この日3年生は午前中受験説明会で授業がなかったはずだ。部活の先輩が愚痴っていたから覚えてる。これで3年という線も消えた。さらにクラスもある程度絞れる。ウチのクラスは月曜の2時間目は数学じゃない。確か月曜の2時間目に数学があるのは恵理子の3組と4組だったはずだ。」


「うん。そうそう。3組と4組は合同で授業してるからね。」


「これでエムちゃんは南高2年の3組又は4組ってことになるわけだ。」


良助は満足そうに云い終えた。工藤さんだけでなく彼もまたこの状況を楽しんでいるのかもしれない。


「すごーい。相良くん。探偵みたいだね!」


工藤さんは大げさに拍手してはしゃいでいる。深刻さ皆無である。おそらく今一番この状況に深刻さを抱いているのは俺だろう。


「まあこんだけヒントがあればな。それに3組か4組って分っただけで、個人の特定となると相当たいへ―」


そこまで云った良助はそこで言葉を区切り、目を何度も瞬きさせて息を飲んだ。

彼はしばらくそのままの姿勢で何か考えているようだった。


「おい。恵理子。さっきのメールの中に校歌の声なんちゃらってメールあったろ?あれもっかい見せてくれ。」


良助は興奮した様子で工藤さんにそう頼んだんだった。


【校歌の声が小さいから練習なんて嫌になっちゃうよね。】


携帯の画面を見つめて良助はまたしばらく黙ってしまった。


「…煌斗。今からちょっと生徒会室に行って調べてきてほしい事があるんだ。」


「ん?ええ。それは構いませんが…。」


俺は良助からの指示を受け生徒会室へ向かった。




        *




「結論から言いますと、確かに送られてきたメールアドレスが誰のものか分りました。」

生徒会室から再び戻った俺は待っていた2人にそう切り出した。




「それは生徒会会計、高城里美のものでした。」



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