女生徒の口から事件は語られる。
彼女が提示した相談の内容は以下の通りである。
ここ数日彼女の元に送信者不明の不審なメールが届くようになったらしい。それだけなら受信拒否するなり、アドレスを変更するなりといくらでも対策の取りようが考えられる。しかし、現状彼女はまだその対策には出ていないらしい。
その理由はと言えばメールの内容が不可解であることに起因しているという。
「文面自体は普通の友達同士でするメールなんだけど、誰ですか?って返信しても全然こたえてくれないの。頻度もそこまでじゃないから今までそんなに気にしていなかったんだけど、さすがに怖くなってきちゃって。」
【やっほー(*^^)v これでいつでもメールできるね。】
初めてそのメールを受信したときには本当に自分の知り合いだと思って誰かと聞き返したと言う。しかしその問いに対する答えはなく、あくまで友人同士の会話のようなメールを送ってきたそうだ。
【次は大嫌いな数学(-“-) 恵理子はこれから体育だよね。頑張って(*^_^*)】
文面の内容から我が校の人間であると思った恵理子は周りの人間に送信元のアドレスを知らないかと聞きまわったが空振りに終わったらしい。
【明日の生徒会選挙誰に投票しようかなぁ☆恵理子はもう決めた(?_?)】
内容は友好的なものであることから、実害は今のところ全くないが、やはり気味が悪いのだろう。アドレスを変更する前にできることなら送信元を突き止めたいというのが相談目的だった。
【飛鳥煌斗君が生徒会長当選して良かった(*^_^*)私彼に入れたの。】
なぜ相談相手が相良良助だったかということだが、彼女は元々小説を書くことが好きで、自分で書いては文学部部員である良助に見てもらっていたという。そしてその流れで一連の事態を話すことにしたらしい。
大体の骨子を話し終えたところで妹に振られ、絶望していた俺が教室に入ってきたという経緯だった。
「いくら内容が友好的つっても誰かわからん気持ち悪いメールを今まで放置していた事に俺は驚きだがな。」
と言う良助はあまり驚いた様子はなかった。彼女らしいといったニュアンスが含まれていた。
しかし、甚だ同感である。普通なら直ぐにでも受信拒否なりアドレス変更なりをしそうなものである。
どうやら工藤恵理子という人間はあまり人の行為を悪い方向で捉えることをしないパーソナリティの持ち主らしい。“頭のネジが一本飛んでいる”というのは良助談である。
【ねえ、恵理子は好きな人とかいないの?私は…内緒(笑)】
【校歌の声が小さいから練習するなんて嫌になっちゃうよね。】
【会長はやっぱり素敵ね。恵理子もそう思うでしょう?】