生徒会長は教室で友人に刃物を向ける
俺は一度教室へ戻っていた。考えてみれば鞄を教室に置いたままだったのだ。そうとう浮足立ってしまったらしい。
「おう。煌斗。今帰りか。」
教室には相良良助が残っていた。頑丈そうな体躯をしていて筋肉質の割には所属している部活が文学部というギャップを持つ男。
その男は今放課後の教室で机に座りながら一人の女生徒と対面していた。
「ええ。ちょっと妹に振られちゃいましてね。軽く死にたくなっていたところです。」
「全くお前も飽きないね。お前の妹ってこれといって可愛いわけじゃないと思うがね。」
「……。」
「待て待て待て!そんな無言でカッター取り出すなよ。冗談だって。」
「なんだ冗談か。安心しました。」
無意識につかんでいたカッターを鞄にしまう。
「ふう。まったく妹の事になると人格変わるんじゃねーよ。」
「これは失礼。えっとそちらは3組の工藤恵理子さんですよね。もしかしてお邪魔してしまいましたか。」
先ほどから不思議そうにこちらを見ているので話を振ってみる。
「え、ううん。そんなことないよ。相良君には少し相談に乗ってもらっていただけ。それより会長はなんで私の名前を?」
いきなり話を振られて驚いたのか、少し大げさな手振りで話す工藤さん。
「これでも一応生徒会長ですからね。全校生徒の顔と名前くらいは把握させていただいています。」
「へえ。すごいのね。さすが生徒会長。」
「先日読んだ漫画のセリフですけど。」
「漫画のセリフだったの!?」
「はい。そのセリフがカッコよかったので是非自分も言ってみたいと思って実践してみました。ちなみに今がその初お披露目でした。ありがとうございます。」
実は内心ガッツポーズしていたのだった。
「カッコいいからってそれを実践しちまう生徒会長はきっとお前くらいだろうよ。あんまり面識ない同級生のお前のイメージを壊さないほうがいいと思うがね。」
工藤さんの複雑な表情をみるにどうやら彼女の中にあった俺のイメージが壊れてしまったらしい。
「それでは相談の邪魔をしても悪いですし、僕はこれで。」
「あ、ちょっと待った。」
退室しようとしていた俺に背後から良助の制止が割り込む。
「ちょうどいい。せっかくだからこいつにも相談してみたらどうだ。一応生徒会長なんだし。」
工藤さんを見ながら俺を指差す良助。
どうやら先ほどしていた相談を持ちかけるように打診しているらしい。彼女の方は少し迷うそぶりを見せた後に、
「もし会長がよければ聞いてもらえるかな。」そう切り出してきた。
ああ、妹に早く会いたい。