死神Ⅱ
「あなたの顔に傷をつけたのはだあれ?」
母は俺の頬を手で撫でながら聞く。
「い、いえですからただの事故で、誰も―」
俺が言葉を最後まで言い終える事はなかった。
その原因が頬に感じる熱さ、
その熱さが痛みだと気付き、
その痛みが頬を叩かれたためだと気付き、
叩いたのが目の前でうっすら笑みを浮かべている自身の母親だと認識するのにいったいどれくらいかかっただろうか。
「煌。正直に答えなさいといったわよね。」
まるで小さい子供を叱りつけるような母の声だった。
「え、あ、え?あの」
俺は一体何が起きているのか分らず、声が出なかった。完全にパニックしている脳に母の声だけがダイレクトに響いてくる。
「どうして顔に傷がついたのか、正直に詳しく云いなさい。」
気付くと俺は放課後に起こった一部始終を話していた。言われた通りに。自分のものではないかのように口が勝手に動いていた。
「そう。じゃあ、その傷はその女生徒がつけたのね。」
すべてを聞き終えた母は静かにそう云った。
「え、ええ。で、でもその方も故意にやったわけではなくて、反省していたようですし。」
「…そう。」
言葉が通じているとは思えなかった。
「可愛そうに。痛かったでしょう。」
母は手で優しく切り傷を治療した絆創膏の上を撫でる。
その手つきはとても直前自分の頬を叩いた人のものとは思えなかった。
「私の煌に勝手に印をつけるなんて許せないわね。」
そういって顔に貼った絆創膏やガーゼをすべて剥がされてしまった。まだできて新しい傷口が空気にさらされる。俺の目は焦点が合わずただ彷徨っていた。
目の前にいるのは誰だ?
なんでこんなことをするんだ?
どうしてうっすらと笑みを浮かべているんだ?
そして次に彼女の口からでた言葉が俺をさらなる恐怖に陥れる。
「この上から新しい傷を作れば煌は私のものだって刻みつけられるかしら。」
そう云った時浮かべたのははっきりとした笑顔だった。