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最後の生徒会役員

「ところで副会長、今日は何日だったかな?」


「13日ですけど、唐突にどうされたのです?」


俺の横でお嬢様副会長はきょとんと首をかしげる。


「そうそう。10月13日火曜日だったね。僕、生徒会長、飛鳥煌斗あすかきらとは昼休みに摩訶不思議女性不可侵領域の一旦を垣間見て、奇天烈な先輩後輩コントに遭遇した後の現在は放課後、予算会議を副会長である徳佐芽衣美とくさめいみさんと共に参加したのだったね。

今日も、大好きな妹の飛鳥雲雀あすかひばりに想いを馳せながらも平和な一日だったということか。」


「…なにをいきなり、説明口調であらすじを説明みたいなことを言っていますの?しかもとても分りにくいですわ。」


「いや、1クールも更新ないと忘れられてしまうよ。」


「誰にですか?更新ってなんのことです?それと最後にさりげなく妹大好きアピールをなさらないでください。」


訳がわからないなりにきっちりと突っ込みを入れてくれる我が生徒会副会長なのであった。


「いやいや、それは核になる設定だからね。ちゃんと強調しておかないとね。さて、この後は召喚戦争だったかな?」


「そんな設定はありません!」


「不幸だ。」


「それはあなたの口癖ではありません。」


「そうでしたっけ。ちなみに目安箱には何か投函されていましたか?」


「よくありがちな設定ですけど、この物語には一度も登場していませんわ。」


つられて不可思議な言葉を並べる芽衣美だった。


「で、では我々生徒会は一体何をしていたんだい? まさか放課後は駄弁っているだけとか。本日の生徒会しゅう―」


「そんな事もしていません。世間一般の生徒会は基本的に事務仕事がメインです。」


残念ながら我ら生徒会はそういた類のステレオタイプには当てはまらないらしい。


「さて、こんなところで物語のあらすじをかねた会話はいいかな。」


「会長。メタフィクショナルな発言もいい加減にしてくださいね。」


やわらかく微笑む彼女だが、これは怒りの感情の表出であることを俺は自身の感じる怖気から確信できる。とにかく彼女は笑顔の使い分けが上手い。というか笑顔が怖い。


「そ、そうですね。では先ほどの予算会議の報告書をまとめましょうか。」


「ええ、でもかい―」




芽衣美の続きの言葉は突然彼女に飛びかかった俺自身によってかき消された。もしくはその直後に耳を刺激した高周波によって。



音源は目の前の教室から飛び散ったガラス。



目の前をいうのは文字通り俺に対しての『目の前』である。


今さらながら簡単に説明すると今俺たちの話している場所は1階校舎の廊下。俺は窓側で芽衣美は教室側に位置して俺たちは今足を止めて対面して話をしていた。

つまり俺の視界には芽衣美後方に位置するガラス戸を通して見える教室の風景も含まれていたのだ。そこになげられた物体が何かまでは定かではないが、その物体が易々とガラス戸のガラスを破壊することは容易に想像できた。

なにも難しいことはない。今芽衣美の直ぐ後ろでガラスが飛び散ろうとしていて彼女はそれを知らない。よって寸前気付いた俺が彼女とガラス戸の間に無理やり割って入ったのだ。彼女からしてみたらいきなり俺に抱きつかれたと思ったかもしれない。


鼓膜を高周波が通過した後に感じたのは鋭い痛み。どうやら何か所か体を切ったらしい。




「芽衣美ちゃん大丈夫?」


一瞬なにが起きたかを理解できず、放心していた彼女は俺のその言葉でようやく事態がつかめたようだ。彼女からはめったに表出しない驚きの表情が見て取れる。


「き、煌斗さんっ、あ、あの、えっと」


声を必至と出そうとしているが中々言葉にならないらしい。本当にこんな彼女を見るのは珍しい。


「煌斗さんこそ、ち、血が。た、大変」


「落ち着いてください。とりあえず状況を把握しよう。できれば早く治療にかかりたいです。」

「わ、分ってます。すぐ保健室に」


芽衣美は慌てて俺の手を引っ張る。


「いえ、でも事態の把握をしないと」


咄嗟に芽衣美を庇ったのはいいが、一体なぜかのような事態となったのかまるで分らない。何かが投げられてガラスが割れたようだったが、そもそも投げられたものなのかも定かではないし、このタイミングと位置を鑑みるに俺か芽衣美を故意に襲ったということも考えられる。教室からはまだ誰も出てきていない。放課後のこの時間はもう生徒もほとんど残っていないはずだし、まずは原因を正確に把握しなければならない。


「そんなこといいですから早く!」


しかし芽衣美が俺を引っ張る手の力を緩める事はなかった。頬は赤く染まり、瞳は涙でうるんでいる。そんなに今の俺の顔はひどいのか。耳や頬に皮膚の切れた痛みを感じているが歩く分には問題ない。が、事態が分らない場所に芽衣美一人を残していくわけにはいかない。




「事態は私が掌握する。会長は早く保健室にいけ。」




対応に困る俺の耳に響いたのはこの場なかったはずの落ち着き払ったアルトヴォイス。




俺は子の声の主をしっている。



 果たしてその音の方向には先ほどまでいなかったはずの生徒会役員がいた。

 音を聞いて駆けつけてきたのだろうか。

 それにしては息が全く乱れていない。

 静かにたたずむ彼女は―




我が生徒会もう一人の副会長黒田静香だった。


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