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対ヤンデレコミュニケーション

俺が生徒会室を出た直後、背後から声がかけられた。


「き、煌斗さん。忘れていましたわ。お話したいことがあります。」


声の主は徳佐芽衣美だった。俺は彼女に促されて再び生徒会室へと戻る。


「どうしたの?予算会議の資料に問題でも?」

「そうではありません。実はわたくしのクラスメイトの事でお耳に入れておいたほうがよろしい事がありますの。」


芽衣美のクラスメイトといえば雲雀のクラスメイトでもある。


「それで雲雀に片思いしているのはどこのどいつなんだい?」


「雲雀さんの事でもありません。シスコンも大概にしてください。」


怒られた。


「実はクラスメイトに来栖胡桃という方がいるのですが―」


それから芽衣美は彼女、来栖胡桃という生徒と先ほど交わしたという会話を教えてくれた。


「なるほど。つまり来栖さんは僕と結婚するつもりでいると。そういう事だね?」


「ええ。彼女の中ではそうなっているようですわ。少し思い込みが過ぎる方のようです。」


「でも彼女、先月、夏休みの作文課題で優秀賞とっているよね。思い込みが激しい分表現力があるのかな。まあ文学部だしね。」


「…なんでそんなに詳しいんですの?」


芽衣美の声が低くなったような気がしたのは気のせいか?


「一応生徒会長だからね。そのくらいは。」


「そんなことはどうでもいいのです!」


わっまた怒られた。聞いてきたのはそっちなのに。


「もっと警戒心をもって頂かないと困ります。」


「えっと、とは言っても僕からなにかするわけにもいかないし、今のところ実害はないから大丈夫じゃない?」


楽観的意見を述べてみる。


「会長ともあろう方がなにを悠長なことを。彼女の様子からすれば近々煌斗さんに接触してくる可能性は高いのです。その時後ろから刺されでもしたらどうするのですか?」


「それはさすがに嫌だね。」


「だったら警戒するに越したことはないです。あまり一人で出歩くのは控えた方がよろしいでしょう。」


「いや、でもそういうわけにも、それにそろそろ教室へ戻らないと。まだ昼食食べてないし。」


もうすでに昼休みの半分以上を消費していた。


「ではわたくしが教室まで送っていきます。」

「いや、教室なんてすぐそこだよ。」

「送っていきます。いいですか?」


念を押された。こうなると基本的にこのお嬢様副会長は意見をまげてくれない。


「…了解です。」


一体教室までの数分にどんな危機的状況があり得るというのだ。まあそれで彼女の気が治まるならいいだろう。







「煌様。私と結婚してください!」


あった。危機的状況。

教室まであと1クラス先という距離である。

出会いがしらでいきなりのプロポーズを受けた。大変稀有な経験といえよう。横にいる芽衣美も鳩が豆鉄砲くらったような実に珍しい表情をしている。彼女も本当に件の人物にこんなに早く遭遇するとは思わなかったのだろう。


「…来栖さん。結婚という概念についてご存じですか?」


おっと、何を聞いているのだ俺は。横にいる芽衣美が睨んでいるじゃないか。俺を。


「愛する運命の男と女が一生そばにいる血の盟約です。何をもってしても切れない絶対の掟、絆。まさに運命そのものです。」


どうやら離婚の概念はないらしい。黒魔法でも使うのだろうか。


「それに煌様が私の名前をご存じだなんて、そんなに私の事を気にしてくれていたのですね。」


「会長は全校生徒の顔と名前を記憶しております。」

即座に芽衣美が補足する。


「さあ煌様。私と結婚してください。」


聞いていないようだ。


「…だが断る。」


断ってみた。


「今なんて?」


彼女の表情が一変、無へと変わった。こ、怖い。


「あ、あの断ると…。」


「私を裏切るの?」


一応言葉の意味は届いていたらしい。しかし、確実に危険度は増していた。


「そんなの許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せ―」


「こら!お前2年の廊下でなにやってんだよ。」



呪いの呪文を唱えだした彼女の頭に軽くチョップが加えられた。


「良助ではありませんか。」


介入してきた人物は同じクラスの相良良助だった。昨日「エムちゃん事件」を一緒に解決した人物。そして文学部。あ、来栖胡桃と同じクラブか。


「いたっ、何ですかあなたは?」


胡桃は頭を押さえながら抗議する。彼のあの筋肉質の肉体からチョップを食らえばさぞ痛そうだが、ほとんど力は入れなかったようで、そんなに痛そうではない。


「何だじゃないだろ。後輩がこんな処で何やってんだよ。」


「なんでもいいでしょ!私を裏切ったあなたには関係ありません。」


胡桃は良助を見ながら言う。え、裏切った?


「裏切った?良助彼女に何かしたのですか。」


「いや、何かって…」


「この人は中学の時付き合っている私を裏切って勝手にこの高校に進学を決めてしまったのです。」


あれ?さっき芽衣美が話してくれた付き合っていた先輩って相良良助の事だったのか?横にいる芽衣美も驚いているようだった。


「付き合ってないし、お前がある日突然、家に押しかけてきたり、大量のメール送ってきたりしてきただけだろうが。」


「え?もしかして付き合っていたというのは来栖さんの思い込みでしたの?」


驚いた芽衣美が声を上げる。確かに俺の事を色々勘違いしていたらしい彼女である。回想話の前半が脚色されていても何ら不思議ではない。


「そんなひどい。私は先輩を運命の人と疑わなかったのに。」


「お前は色々思い込み激しすぎなんだよ。それに、俺お前に南高行くからって言ったよな、確か。」


「そんなの、私の成績じゃいけないのを知ってて言ったとしか思えません。」


「いや、これてんじゃないか。」


「それは、あなたに復讐するために必死で勉強したのです。」


「で、復讐はどうしたんだよ。」


「ま、まだこれからです。」


「はいはい。じゃあその復讐とやらを待ってるから、生徒会長に迷惑かけてやるなよ。」


「迷惑ですて?彼とは真の運命で結ばれているのです。」


「だからそれをやめろっての。」


再びチョップが入る。お互い慣れたやりとりに見えるのは気のせいか?


「煌斗悪いな。コイツこれでも俺の後輩だからまあ悪く思わないでやってくれや。」


言いながら大きな手のひらで胡桃の頭をつかんでぐるぐる回す。


「も、もう。やめてください。バカっ、」


まるで父親と娘?教師と生徒?兄と妹?いずれにせよ良助は良助なりの彼女とのコミュニケーションのとりかたを習得しているらしい。二人の会話に悪意のようなものはないよう感じる。


「い、いえ。僕は別段迷惑行為を受けたわけではありませんので。」


「そうかい。まあまた何かあったら俺に言ってくれ。叱っとくから。ほら、さっさと教室戻れ」


「い、いやです。」


「じゃあ俺が無理やり連れてくぞ。ほれ。」


良助は胡桃の頭をつかんで引きずるように連れていく。


「も、もう。わかったから、手を離してください。」


「へいへい。あと今日ちゃんと部活来いよ。お前文才あるんだから。」


どうやら良助も彼女の才能は認めているらしい。


「ふ、ふんっ。」

プイっとそっぽを向いてしまった胡桃だったが、良助に褒められて嬉しそうな事は誰が見ても明らかだった。




「なんだか、コントに付き合わされた気分だよ。」


良助たちが去り、その場に取り残された俺と芽衣美だった。


「ええ。真剣に忠告した自分が恥ずかしですわ。」


なんだか所在ない気分のまま俺は教室へもどり芽衣美も自分のクラスへと戻って行った。




昼休みは後、3分しかなかった。





      *





「芽衣美。遅いね。昼休み後5分だよ。」


沙織は時計を確認する。先ほど芽衣美が教室を出て行ってからまだ戻ってきていなかった。それに来栖胡桃の姿もない。


「ねえ、私たちも行った方がいいんじゃない?」


沙織は昼食をとり終わり、授業の支度をしている雲雀に言った。


「大丈夫よ。私たちが出ていったってしょうがないし。」


雲雀の態度はやはり冷たいものだった。


「ねえ、ヒバリンってなんで生徒会長にそんなに冷たいの?」


沙織は思わず聞いてしまった。思わずというのはなぜかこの質問をしてはいけないという不思議な感覚が沙織の中にあったからだ。


「別に冷たくしてるつもりはないけど。」


「で、でもお兄さんはあんなにヒバリンの事好きなのに。」



「違うよ。」



「え、何が?」


彼女が一体何を否定したのか沙織にはわからなかった。次に雲雀の発した言葉を聞いてもその意味を理解することはできなかった。





「兄さんはね、私の、ううん私たちの事が『大嫌い』なのよ。」


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