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決心と怒りと心配と疑問。

異性からモテる。

「モテる」という定義がもし異性から交際したいと思われる人がどれだけ多いか、とするならば南高校生徒会長、飛鳥煌斗は「モテない」カテゴリィに入ると沙織は思う。

いや、正確には「普通の人間にモテない」と言った方がいい。

自分を「普通」だと思っている人間に彼の隣に並ぶだけの覚悟は容易には備わらないだろう。それだけ彼の容姿は女性の領域にまで介入してきているといえる。もし彼が自分から誰かに交際を申し込んだりするならば話は変わってくるが、彼は重度のシスコンである。その可能性は大きいとはいえない。


そして彼はモテる。「普通ではない」人間に。



 目の前の彼女、来栖胡桃はいきなり語り始めたと思えば、後半は「結婚したい」しか言っていなかった。それを沙織たちは呆気にとられて見つめていた。ようやく静かになった処をみるとどうやら話は終わったようだ。


「ね、ねえこの子ってヤンデレだったの?」


沙織は横に座っていた芽李美にこっそり話しかける。


「 “やんでれ”とはなんです?」


芽李美の調子はいつもどおりに見えた。


「彼女みたいな子の事だよ。なんか色々思い込み激しすぎ。」


「確かに。仰っていたことのほとんど理解できませんでしたわ。」


「なんか入学式のときに見つめられたって言ってたけど…」


「ええ、間違いなく煌斗さんが気にしておられたのは雲雀さんでしょうね。」


「昨日、自分を探していたって言ってたけど…」


「雲雀さんをストーカしようとしていて探していた時ですわね。わたくしたちと遭遇する少し前です。」




「あのさ、来栖さん。」


ヒソヒソと話していた二人の上を雲雀の声が飛び越える。


「それで結局あなたはどうするの?」


「結婚するわ。」胡桃は即答した。


「それ、兄さんの了解とったの?」


「とらなくてもわかる。彼も私と同じ気持ちに決まっているもの。」


「そう。でもね。来栖さん。兄さんってあの通り目立ってるから、毎日後輩や同級の女子からもらう手紙すごい量なんだよ。それに先輩からもアプローチがあるみたいだし、妹の中学でも顔が知られているからそこからの人気もあるし。あなたまだまともに話もしていないのに本当にそんな事いえるのかな?」


確かに煌斗には多くの異性からの手紙が寄せられると沙織も訊いていた。それが果たして交際へつながるものであるのかは分らないが、「人気」で言えば南高でトップクラスにいることは間違いない。彼女へは適切なジャブだろうと沙織は思った。


「で、でも昨日はちゃんと話したもん。」


「一言でしょ?それに他の女子も何人か話かけていたわよ。」




胡桃はもどかしそうにして黙ってしまう。




「じゃ、じゃあ今日彼の気持ちを確かめるわ。ちゃんと告白する。」


しばしの後、そう云った。


「あ、そう。頑張ってね。」


雲雀はあっさりと答えた。


「大丈夫、私と彼は―」

「運命で結ばれてるんでしょ?なら大丈夫なんじゃない。直接兄さんに訊いてみればいい。」


「そ、そうするわ。」



そういて胡桃は自分の席へと戻って行った。





「いいの?ヒバリンあんな事言っちゃって?」


胡桃が去った後に沙織は雲雀に訊く。


「あんな事って?」


「だから彼女会長に直接会いに行くなんていってたけど、あんなヤンデレ近づけたら会長危なくない?」


「かもね。でもそんなの私には関係ないし、兄さんの問題でしょ?」


雲雀の調子はいつもの兄に対する態度より、さらに冷たく感じられた。

それが沙織には雲雀が胡桃の事に怒っている証拠であるように思われた。いや、煌斗の事にかもしれない。先ほどのやり取りから見ても雲雀は明らかに怒っていた。

それはいったい何に対する怒りだろう、と沙織は思った。


胡桃の勘違いに?


それとも兄を好きな子に対する妹の嫉妬?


どちらも正しそうで、それでいて真実ではない気がした。この友人の事を沙織はまだちゃんと知らない。


「そうは言われましても、煌斗さんは会長のお仕事もありますし、彼女を近づけてしまう事にはわたくしも危惧を覚えます。」


芽李美も彼女を近づけることに不安を覚えているようだった。


「いいのよ。別に。兄さんが何とかするでしょ。」


そう云って雲雀は残りのお弁当に手をつけ始めた。やはり少しらしくないと沙織は思った。兄の事になると冷たくなるのはいつもの事ではあるが―



『いつもの事』?




沙織は自分のその思考に一つの疑問が浮かんだ。そもそも何故雲雀はいつも兄へ冷たい態度をとろうとするのだろうか?

単純に兄の事が嫌いなのだろうか。

それとも自分の中での気持ちにストッパーをかけているのではないか。

例えば本当は兄の事が好きだとか?…いや、どうだろうか?

それに彼から熱烈な好意を寄せられるというのはいったいどんな気分なのだろうか。

そしてそれを拒み続けるというのはいったいどれほど彼女をそうさせる力が働いているのだろうか。ぞっとしない話だ。と沙織は思った。

羨ましいとは思えなかった。もし雲雀が煌斗と兄妹でなければ問題はなかったのかもしれない。しかし雲雀は煌斗の妹だ。それなら彼女には好意を拒むという選択肢しかないのかもしれない。でも煌斗からの好意は妹に対する、家族に対する愛情の延長線上であるのではないか、と沙織は昨日の二人のやり取りと見て思った。

ただの過保護、シスコン。それが『あの』会長であるという不幸。


 不幸なのかもしれない。それを知るのは雲雀だけだ。




「仕方がありませんね。では私から煌斗さんに注意を勧告しておきますわ。ちょうど生徒会室に行く用事もありましたし、その帰りに彼の教室に寄って行きます。」


雲雀は何も言わなかった。


そして芽李美は教室を出て行った。



沙織は目線を胡桃の席へと向ける。


胡桃は教室にいなかった。


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