生徒会長の一日はBLにて締めくくられる。
*第2部の内容を若干変更いたしました。
ご了承ください。
人間幸せな時間ほどその流れを早く感じてしまうと言われている。
これは主観的憶測などではなく純然たる事実である。なぜなら俺は今、たった今その時間加速現象を体験したばかりなのだから。
こんな話をご存じだろうか。もし、人が光速を超える速さで移動すればその人間の体感ではそれは数秒先の未来となっているらしい。これは相対性理論から導き出されることなのだそうだ。俺は光速を越えたわけではないのにこれを経験してしまったかと思うほど時間の流れを高速に感じていた。
雲雀の手料理が食べられる食卓はまさに至福と言える瞬間だった。周りからは死神、いや母親から明日の約束の念を押されたり、未来から来た妹から謎の無言の圧力を感じたりと、外乱による居心地のわるさはあったが、それだけの苦に耐える価値はあった。雲雀の手料理というだけで幸福指数は急上昇、オーバーシュートだった。雲雀は幸福感に浸りながら食事をする俺に終始呆れたような視線を送っていたが、それも照れ隠しと分れば爆破的にかわいいものだ。
部屋に戻り携帯を見ると、知らないアドレスからのメールを受信していた。
【工藤恵理子です(*^_^*)
里美ちゃんにアドレス教えてもらいました。
今日は本当にありがとう。
あの後里美ちゃんと紫乃ちゃんのお見舞いに行ってきました。
紫乃ちゃん初めはすごく驚いて恥ずかしがっていたけど、里美ちゃんが強引に入っていちゃって(笑)
おかげで紫乃ちゃんとも仲良くなれそうな気がします。
いつも皆から人気のある会長を遠巻きにしかしか見ていなくて、今日初めて話したけど、とっても楽しい人だなって思いました。よかったらこれからも仲良くしてくれると嬉しいです。
できれば今度役員の漆原佐久君にも会ってみたいな。
今度私の書いた小説よんでね。
でわ(*^^)v 】
どうやら「エムちゃん事件」は大団円を迎えたようだ。
安心しながら携帯の画面を眺めていると今度は着信が入った。ディスプレイには“漆原佐久”の文字が出力されていた。我が生徒会1年書記である。
「もしもし」
『あ、会長。こんばんは、漆原です。あの、いつもの報告の件ですが。』
「結果を聞きましょうか。」
『現在、雲雀さんが特定の男子と仲良くしている事はありません。』
「そ、そうですか。」
俺は定期的に妹の身辺に関する『軽い』調査を佐久に依頼していた。けしてやましい理由などではない。妹に悪い虫がつかないか心配するのは兄として当然の事である。
ちなみにこれをあのお嬢様副会長に知られた時、3時間ほどの説教をされてしまったので、今ではあまり俺の方から催促はできない。あくまで佐久が自主的にやってくれているという体でお願いしたい。
『あの、実はそれとは別件で気になることがあってお電話したのですが…』
「別件?雲雀に何かあったのですか?」
『いえ、雲雀さんの事ではなくてですね。そ、その…』
佐久は何やら言いにくそうに口ごもる。
『僕と会長の事なんです。実は今日少し気になることがあって。』
僕と会長のこと?俺と佐久の事か。
「気になることとは?」
『その。今日の放課後なのですが、生徒会が早く終わったので少し予習してから帰ろうと思いまして、図書室に寄ったんです。それでですね、そこで一枚の紙を拾ったんです。それは原稿用紙で何やら小説と思しき文章が書かれていたんです。』
「別段問題にすべき部分が見つからないのですが。」
小説執筆大いに結構。恐らく図書室で書いていてその中の一枚を忘れて行ってしまったのだろう。
『いえ、その内容が問題でして。』
内容?ああ、もしかしてその内容が青少年倫理に抵触するようなものだったのだろうか。確かに風紀を考えれば好ましくはないが、この年の男子なら仕方がないだろう。
『僕と会長が○○しちゃってるんです。』
「…。」
あー。よくわかんないなー。
○○って何?それって恋人同士とかでするものじゃないの?ああ、佐久と女生徒会長がってことかな。きっとその生徒会長がメイドだったりするのだろう。
大丈夫。俺は勘違いしていないぞ。
「会長って僕の事じゃないんだよね。」
『いいえ。『会長の飛鳥煌斗くん』って書いてありました。』
「へえ。いやまさか佐久が女の子だなんて驚いたなー。」
『ち、違いますよ。会長。僕はちゃんとした男です。あのですね。僕も詳しくは知らないのですが、男同士のなんていうか、そういう妄想をして楽しむ思考を持っている女性がいるらしいのです。』
どうやら俺の勘違いではなく、なにやら本当に秤の知れない世界が存在しているらしい。
「で、でわ。そういった趣味嗜好を持っている女子生徒がいたずらでその小説を書いたというのですか?」
『ええ。多分そんなところだと思います。その、拾った原稿用紙には付箋も貼ってあって、そこには「受け:会長 攻め:漆原君」って書いてあったのです。それであのその小説の中では僕が、あのか、会長をなんだかその、いいいじめてるような感じで。』
佐久は話すにつれてどんどん狼狽していった。確かに衝撃的な内容のようだ。それにこの雰囲気からすると佐久はその一枚の内容を読んだらしい。もっとも自分の名前が書かれていれば当然といえば当然である。
「佐久。正直に教えてほしいのですが、あなたはその内容を不快に思いましたか?」
その質問に佐久はさらに狼狽した。
『い、いえ。あのそ、そんな僕が会長の事を不快に思うなんてありえません。いえでも別に小説の通りにしたいとかではなくて、そのぼ、僕の事よりも会長にご迷惑がかかると思ったので。』
「正直僕はその内容を直接見ていませんので、現時点では判断をしかねます。いたずらとして見て見ぬふりすべきか、作者を見つけ、注意勧告すべきか。どうやら僕と佐久は実名で書かれているようですので、もし佐久が読んでいて不快になるようでしたら、作者には即刻執筆を中止していただきましょう。」
『ぼ、僕もそのどうしたらいいかよくわからなくて。それで会長に電話したんです。』
「ちなみにその用紙には作者の名前などは書かれていなかったのですか。」
『あのそれが実は書かれていたんです。ペンネームかもしれないですけど。』
「教えて頂きませんか。」
『はい。えっとちょっと待ってください。あった、えっと作者は工藤恵理子ってなっています。』
「く、工藤恵理子ですか!?」
『え、ええ。確かにそう書いてあります。会長この人の事知っているんですか?』
たった今彼女から送られてきたメールを読んでいたところだ。今日の放課後は彼女に関する事件にかかわっていたのだ。
「はい。彼女の事なら知っていますし、個人的に話を聞くこともできるでしょう。」
確かに彼女は自分で小説を書くのが好きで、それを文学部の良助に見てもらっていると言っていた。
ん?だとすると今日放課後、良助が見ていた小説というのは俺と佐久が○○してしまっている内容だったというのか!?
体中に言いようのない寒気が襲う。
『会長。どうしましょうか?』
「そうですね。とりあえず明日の昼休みにでも彼女に話を聞いてみます。佐久はどうしたいですか?」
『ぼ、僕も話を訊きに行きます。』
「わかりました。では彼女には約束を取り付けておきますので、明日の昼休み生徒会室で待っていてください。」
『わかりました、会長。』
「それでは」といって俺は電話を切った。
今日一日色々な事があったが、最後も中々衝撃的である。
話を聞くといってもどうしたものか。彼女とは今日知り合ったばかりだが、その性格もある程度知ってしまっている。あまり注意するような事はしたくないものだ。いや、それら含めて明日彼女に会って考えよう。
事情くらいは知っていた方がいい。
それより俺には今解決すべきことがある。
俺は部屋をでて京香の部屋に入った。
「京香ちゃん。『受け』ってなに!?」