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生徒会長の家には死神がいた。

「ぜぇ…ぜぇ…た、只今帰りました。」


俺は肩で息をしながらようやく家への帰還を果たす。



「まあ、(きら)。どうしたの。そんなに急いで。今日は早く帰れると言っていませんでしたか。」


リビングから顔を出して俺を迎えてくれたのは、飛鳥凛子(あすかりんこ)

我が母親である。

母の外見的特徴を述べるとするならばとにかく若く『みえる』。

年齢と外見が完全に乖離(かいり)しているとしか思えない。実際彼女を見て母親というキーワードを連想する人間はウチの家族くらいだろう。その顔からは未だ老いという性質を一切感じさせない、ある種の妖艶さがうかがえてしまう。もし母が若者の格好をして、例えば大学のキャンパスなどに混ざっていても何ら違和感なく受け入れられてしまいそうな気さえする。

それが俺には少し怖かった。自分の母親をこのように評価するのはおかしいかもしれないが、はっきり言って不自然である。不気味といってもいい。

時々俺と母が外で歩いている光景を見た友人が口ぐちに説明を求め、母親だと納得させた後に、「あんな美人な母親がいるなんて、なんて羨ましい。」みたいな事を云う。


しかし、俺から言わせてみれば、顔に皺が増えて、腹も膨れ、テレビの前でお尻を掻いている母親の方がよっぽど羨ましい。そのほうがよっぽど母親らしい。そうなることが自然の摂理ではないのかと考えてしまう。それゆえ目の前の『女性』は自然の摂理を逸脱した存在であると思えてしまうのだ。

大仰な言葉を並べ立てたが、


つまり俺はこの母親の事が少し苦手。ただそれだけの事である。


「少し急用が入ってしまいましてね。それで少し遅くなってしまったのですが、そ、そうだ。ひばりが、雲雀が夕飯作っているという情報が舞い込んできたのですが、それは本当ですか!?」


そう俺はそのために走って帰ってきたのだ。母親に苦手意識を感じている場合ではない。


「もう、落ち着きなさい、煌。雲雀ちゃんなら台所でご飯作っていますよ。」


「や、やっぱり本当だったのか。まさかお兄ちゃんの為に御馳走を作って待っているなんて。」


「いえ、別に煌のためにとは一言も言っていませんでしたよ。明日の調理実習の練習をしたいから、って。」


なんてかわいらしいサプライズだろう。そうか、帰り際少し冷たかったのはこれを驚かすためだったんだな。


「そんなことは瑣末(さまつ)な問題に過ぎません。さあこうしてはいられない。早く着替えて手を洗ってこなくては―。」


「ちょっと待ちなさい、煌。」


俺は足早に自室へ向かおうとしたが何故か進行方向とは逆の力がかかった。気がつけば首の襟の所を掴まれているではないか。

 ゆっくりと振り返るとそこには満面の笑みを浮かべている我が母の姿があった。とゆうか何故女性は笑いながらここまで人を恐怖させられるのだろうか。しかもあのお嬢様副会長より、数段迫力がある。


「ずいぶん嬉しそうね。煌。」


死神の声だ。いや母親の声である。


「いえ、その、えっとですね。」


俺はその空気に押されて中々言葉を紡ぐことができない。


「私の作る料理とはずいぶん反応が違うようだけど。もしかして煌はお母さんの作る料理よりも雲雀ちゃんの料理の方が好きだったりするのかしら。」


「ま、まさかそんな事は。い、いつも母さんには感謝しております。」


声が震えてしまう。全校生徒の前で話すより緊張する。

 俺はこの感覚を『命の危機』と命名している。あくまで精神的にだが。


「それにしては私が作る夕飯の時はそんな走ってまで帰ってきてくれませんでしたよね。最近は毎日遅くなってばっかりでしたし。」


「それは、その生徒会の仕事が立て込んでまして止む追えず…」


「ならなんで雲雀ちゃんが料理をする時に限って早く帰ってくるんですか!?」


「わかりました!明日は早く帰って母さんの料理を頂きます!」


「本当ですか!?約束ですよ。お買い物にも付き合ってくださいね。」


「え、いや、買い物まではさすがに―」


「嫌なんですか。」


「了解しました!」


そこまで俺に言わせ目の前の死神、いや母親は「やりましたっ!」と嬉しそうにリビングへと戻って行った。




 だから言ったでしょ。俺は母親が苦手なのです。


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