第19話 檻から出して
夢野真穂(魔法少女プルシェリア)
クラス:魔法使い +使い魔イルカの「フリッツ」
HP:普通、MP:高い、STR:貧弱、VIT:根性無し、DEX:不器用、INT:低め、AGT:どんくさい
佐伯瑠
クラス:狩人 +レッドホーク357マグナム
HP:高め、MP:低い、STR:高め、VIT:高い、DEX:凄腕、INT:低め、AGT:素早い
「カリーノちゃ~ん。俺が悪かったよ~」
無視。
「反省してる。だから、機嫌治して、ここから出してよ~」
あんな危険な獣を檻から出してなるものですか。
「ちょっとした出来心だったんだよ。カリーノちゃんだっていけないんだぜ。色っぽい声出して寝てるから」
痛恨。酔っぱらっていたとは言え、そんなあられもない姿を晒しちゃっただなんて。でも、だからって普通それを口に出す? 何考えてんの、この人。
「カリーノちゃん、俺もお腹空いたよ~。ここから出してよ~。一緒に朝食取ろうよ~」
うるさいなあ。そんなに食べたいなら檻の中で食べたら良いじゃない。
バターロールをぽいっと檻の前に投げてやった。無情にもバターロールは檻の手前で停止。佐伯はそれを檻の間から手を伸ばして取ろうとした。だが、微妙に手が届かない。檻をガシャガシャしながら何とかバターロールを取ろうとする佐伯。その姿はまるで動物園のオラウータンみたい。
「くそっ! あと少し、あと少しが、くっ、と、ど、か、ねえ!」
ダメよダメ。見ちゃダメ見ちゃダメ。見たら笑っちゃう。
「そうだ! 銃を出せば届くはず! もうちょい、うわぁぁぁ!」
佐伯は銃を手に持って、バターロールを招き寄せるつもりだったらしい。ところが当たり所が悪く、余計遠くに転がってしまった。ちらりと見ると、この世の終わりのような顔で両手で檻を掴んでバターロールを見続けている。
さすがに可哀そうになってきた。というか、徐々にこっちに罪悪感が芽生えてきちゃった。
「おや? カリーノ様、どちらへ?」
「……トイレ」
「ご、ごゆっくり」
もう少し深く考えるべきだった。男女二人で行動すれば、こういう危険性は多分にあったはずなのに。
よく考えたら、私ずっとブラック上司の下で削り取られてて、こんな風に自分が女性だって事を強く実感させられる事って、もう何年も無かったんだよね。
どうしよう。
こんな貞操の危険を冒し続けるくらいなら、このまま一人で地上を目指す方が良いのかも。ブラック上司の下で働いてた時に嫌っていうほど体験したんだけど、夜ゆっくり寝れなくなったら確実に体力を消耗しちゃうのよ。それと、どうせ私には案内星があるから、そもそも他の人の案内って必要無いのよね。
「あの、カリーノ様、今度はどちらに行かれるのでしょう?」
「一人で地上を目指します。短い間でしたけどお世話になりました」
「いやいやいや。地上までの経路とかわかんないでしょ。俺は知ってるぜ」
「ご愁傷様。私には案内星があるから出口自体はわかるんです」
「待ってくれ!」「行かないでくれ!」と叫んで檻の中から手を伸ばす姿は、まるで囚人のよう。そんな佐伯の方を見向きもせずにそそくさと出立の準備をしていく。ベッドを消して、トイレを消して、ちゃぶ台を消して。
「お願いだ、せめてここから出してくれないか?」
「モンスターを檻から出す事はできません」
「俺はモンスターじゃねえって! 護衛料とかいらないから、だからここから出してくれ。こんなところに檻に入れられて放置されちまったら、飢えて死んじまうよ」
確かにそれもそうね。でもこのまま出すのもなあ。いきなり「よくもやってくれたな!」とか言われて押し倒されても困るし。困っちゃうのは、この人、私よりレベル高そうだから、魔法が効かなさそうなのよね。
そうだ! こういう時はキュイに聞くに限る。
「ねえ、キュイ、どうすれば良いと思う?」
「僕の名前は『フリッツ』キュイ!」
「うん。で?」
「確かにレベル差があって直接かけても魔法は効かないんだキュイ。でも間接的になら効くんだキュイ。例えば腕に手枷をはめるとか」
なるほど。ホブゴブリンの時みたいな事ね。直接は効かないけど、柵を作ってすっ転ばせる事はできるみたいな。……普通に避けられちゃったけど。
「良い案ね。それ採用!」
「でも、手枷をはめるとこの男は銃が撃てなくなるんだキュイ。そうなったら単なる足手まといなんだキュイ」
「……確かに」
「だから、変な気を起こしたら苦しくなるような魔法の何かを付けたら良いキュイ」
ふふん。理解しちゃった。それって孫悟空が頭に付けられるアレよね。堺〇章さんの西遊記の再放送、小さい頃よく見てたんだよね。
「ミラクル マジカル ラララララ! 魔法のサークレットをはめちゃって!」
マジカルスティッキの星がクルクルと回転し、そこから小さな星が数珠つなぎに放出され、佐伯の頭部をぐるりと取り囲んだ。星が弾けるとサークレットになり、佐伯の額にはめられる。それが若干不快らしく、外そうと試みるのだが、全然外れない。
「か、カリーノ様、これは何でしょう?」
「あなたが変な事を考えたら、それがギュッて絞まるようになってるの。試してみる?」
「ちぇっ、信用ねえんだな」
「あ・る・わ・け・な・い・だ・ろ! 胸に手を当てて自分がした事を思い出してみるのね」
檻を消した瞬間に佐伯は私の胸に手を伸ばしてきた。だがすぐにサークレットが絞まったらしく、猛烈な頭痛でのたうち回り始めた。
「痛ででででで!」
「これから私に変な事しようとしたらそうなるから」
「はあ、はあ、はあ。いや、だって、カリーノちゃんが胸に手を当てろって言うから」
「自分のに決まってるでしょ! アホか!」
はあ……私こんなのと一緒で、本当にちゃんと地上まで辿り着けるんかな。もの凄い不安。
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