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ノスタルジック・ダンジョン  作者: 敷知遠江守
第3章 魔法少女プルシェリア③

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第10話 服が無い!

夢野真穂(魔法少女プルシェリア)

クラス:魔法使い +使い魔イルカの「フリッツ」

「またここに戻って来たキュイか? ダンジョンから一旦出るんじゃなかったんだキュイ?」


 あれから、すでに三日。少し冒険に出ても、すぐにこのキャンプ地に心が引き戻されてしまう。

 魔法で作ったふかふかのベッド。魔法で作ったちゃんと戸の閉まるトイレ。魔法で作ったお風呂、シャワー付き。そして魔法で作った冷蔵庫。冷蔵庫の中には、うり坊の肉と、これまた魔法で作った缶ビール。いくらなんでも快適すぎる。

 その多くは元は周辺の壁土や床土。実際にはビールは洞窟の湧き水だけど、魔法がかかっているから完全にビールのそれ。しかもこの味は私の大好きなヱ〇スビール。ビールのお供は、ウリ坊の肉を魔法で焼いて、それをさらに魔法でポークジンジャーステーキに変えたもの。元の肉はちゃんと火が通っているので、魔法が解けても問題は無い。飽きてきたらトンテキやペッパーポークなんて事も。家庭科の成績が壊滅的だった、カップラーメンしか作れない私でも、何ならカップ焼きそばで麺を流し台にこぼすような私でも、こんなに美味しい料理が堪能できちゃう。


 はあ、幸せ。魔法って最高!


「今はウリ坊があるからって思っても、食べ物が何も手に入らなくなる事もあるんだキュイ。こんな刹那的な生活ではなく、一旦ダンジョンから出て、もっと計画的な冒険をした方が良いキュイよ」


 うるさいイルカだなあ、もう。お前は私の母親かっての。やっと見つけた安住なんだから、少しくらい堪能したって良いじゃない。


「どうせさ、地上に行ったって、ロクな事なんて無いのよ、きっと。待ってるのは厳しい現実だけ。そうに決まってる。だって地上って人がいっぱいいるんでしょ。そうしたら嫌な人がいっぱいいるのよ」

「良い人だっていっぱいいるキュイよ」


 苛っ!

 酔っているせいで力の制御が効かず、普通にちゃぶ台にビールの缶を置いたつもりが、思った以上に強く叩きつける形になってしまった。ダンという激しい音にキュイが若干怯んでいる。


「あのね。良い人ってのは向こうからは寄ってきてくれないの。でも嫌な人ってのは積極的にこっちに絡んでくるの。そういうもんなの。それならここで飽きるまでのんびり過ごした方がマシじゃない」

「開いた口が塞がらないキュイ……」


 何とでも言え。誰が何と言おうと、今は飽きるまでこの快適さを私は謳歌するんだ。


 いつものように部屋の入口のドアを閉め、鼻歌混じりでお風呂に入り、ジェラ〇ル・ピケ風のパジャマに着替えて布団の中へ。布団がふかふかで、まるで真綿に包まれているかのよう。キュイには部屋の端に猫ベッドを作ってあげて、そこで寝て貰っている。


 はあ、極楽。おやすみなさ~い。



 ……?

 ……あれ?

 何だろう。なんか……変。

 なんだかお腹の辺りがスース―してる気がする。布団はかけているのに、なんでこんな変な感覚がするのだろう。

 手を伸ばしてみる。布団は確かにある。

 あれ? 私もしかして何も履いてない?


 え!?

 あれ? 下半身裸!?

 何で?

 何がどうなってるの?


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 嘘、嘘、嘘。

 何で?

 何かマットがぬるぬるしている。これ何?


「……ほえ? プルシェリア、どうしたんだキュイ?」

「魔法が消えちゃったのよ! どうしよう、どうしよう、どうしよう」

「ほえ? 僕はここにいるキュイよ?」


 何言ってんだこいつは!

 魔法で出してる服と下着が消えたんだっての。誰もお前の事なんて言ってないっての。


「そうじゃないのよ。そうじゃないのよ」

「落ち着くキュイ。寝てて粗相しちゃったんなら、こっそりと魔法で乾かせば良いキュイ。お尻丸出しでパニックになるような事じゃないキュイ。ふわぁぁ」


 何言ってんだ、こいつ!

 誰がこの歳になってオネショなんかするか!

 それと人が真剣に話をしてる時に欠伸すんな!


 ……て、あれ?

 布団がある。トイレがある。って事は魔法は切れていない?

 じゃあ、なんで服が消えて私は裸になってるの?


「そうじゃないのよ! 寝てたら服が消えちゃったのよ! 何でだと思う?」

「その答えは簡単キュイ。プルシェリアの後ろ、ベッドの上にスライムがいるキュイ。そのスライムは魔力を感知して溶かして食べるんだキュイ」


 え!?


「う、うわぁぁぁぁぁ!」


 慌ててベッドを脱出して振り返ると、確かにそこには大きなゼリー状の生き物がフヨフヨと蠢いていた。ぐちゅぐちゅと音を立て、私のジェラ〇ル・ピケ風のパジャマと下着の布切れを溶かしている。


「どうしよう、どうしよう、どうしよう」

「とりあえず服を着るキュイ。風邪ひくキュイよ?」

「今はそんな冷静な指摘してる場合じゃないでしょうが!」

「そんなに怒らなくて良いのにキュイ……」


 とりあえず、剣を出さなきゃ。

 マジカルスティッキは?

 うわっ、スライムの中だ……どうしよう……


「キュイ! あのスライム、どうしたらいいの?」

「僕の名前は『フリッツ』キュイ!」

「それはもう良いから! で、どうしたら良いの?」

「モンスターなのだから、卵に変えちゃえば良いキュイ。ふわぁぁ」


 もう、いい加減に目を覚ましてよ!

 寝ぼけていい加減な助言ばっかりして、ほんと腹立つなあ、もう!


「だ・か・ら! そのマジカルスティッキが無いのよ!」


 キュイは目を半開きの状態で口を大きく開けた。だから、欠伸しとる場合か! このクソイルカ!


「スティッキなら、ちゃんとあそこにあるキュイよ」

「いや、だからね。スライムに奪われちゃったのよ!」

「魔法を発動するのはスティッキじゃなくて、プルシェリアキュイよ?」


 それって、もしかして手に持ってなくても平気って事?

 いまいちキュイの言いたい事はよくわからないけど、あいつを始末してからじっくり考えよう。


「ミラクル マジカル ラララララ! 卵になれ!」


 マジカルスティッキの先端の大きな星がクルクルと回転し、スティッキを包み込んでいるスライムに小さな星を放出。みるみるうちにスライムが小さく縮んでいき卵になっていく。星の輝きが収まると、ベッドの上にポツンと卵が置かれていた。


 その卵をむんずと掴み、地面に叩きつけて粉砕。なんとなく飛び散った白身がスライムのように見えて、気分が萎える。


「どこからスライムなんて入り込んだんだろう」

「スライムはどこからでも入り込んで来るんだキュイ。プルシェリアがここで魔法をたくさん使い続けているから、それを探知して寄って来てしまったんだキュイ。だから僕は早く地上に戻ろうって言ったんだキュイ」


 まさかのガチ説教。しかもこんな変なイルカに。

 でも、今回のはさすがに私が悪かったと思う。今回は服を溶かされただけだけど、次回は窒息させられるかもしれないし、エッチな事をされる事だってあるかもしれない。そう考えたら、確かにこいつの言うようにあまり同じ所に長居するべきでは無いのかもしれない。


「どうやらわかってくれたみたいキュイ。とりあえず服を着るキュイ。風邪ひくキュイよ!」

「変に起こされたせいでまだ眠いから、もうひと眠りして明日出立しましょうか」


 一瞬、キュイの動きが止まった。

 

「全然懲りてないんだキュイね……」

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