第二夜
翌日の放課後。
タカシとケンジは並んで歩きながら部室へ向かっていた。
「てか、お前ら俺コケた時、見捨てていったろ」
ケンジが不満そうに言う。
タカシは苦笑しながら肩をすくめる。
「いや、でもしょうがないじゃん。あんなのいたら逃げるべ?」
ケンジは一瞬むっとした顔をしたが、すぐに吹き出した。
「まあ、大事には至らなかったしな。俺も生きてるし」
二人は笑いながら部室の扉を開けた。
――そこにはすでに、アスファルト(略)マンが座っていた。
机に肘をつき、まるで部員の一人のように静かに待っている。
その隣にはユウジがいて、困惑した顔で二人に説明した。
「なんか、部室に来たらすでに座ってて……でも特に何もしてこないから、放置してたんだけど」
ケンジは即座にツッコミを入れる。
「いや放置してたんかい!」
タカシも思わず声を上げる。
「参加する気満々じゃん!」
部室の空気は一瞬張り詰めたが、すぐに笑いが広がった。
その時、扉が再び開いた。
「ごめ~ん、日直で遅れた~」
ミカが息を切らしながら入ってきた。
だが、部室の光景を見て固まる。
机を囲む輪の中に、当然のように座るアスファルト(略)マン。
ミカは小声で震えながら言った。
「え、参加する感じなの……?」
怪異は無言でうなずいた。
「いや、うなずくんかい!」ケンジが即座に突っ込む。
ユウジは腕を組んで冷静に言った。
「まあ、何もしないなら放置でいいんじゃね?」
タカシは苦笑しながら机に座り直した。
「……じゃあ今日の活動、怪談の続きやるか」
その瞬間、部室の空気がふっと変わった。
昨日聞いたあの音楽のイントロが流れ始める。
電子音のリズムが蛍光灯の白い光に重なり、部員たちは顔を見合わせた。
「え、ちょっと待って……これ昨日の……!」ミカが声を震わせる。
アスファルト(略)マンはゆっくりと立ち上がり、低い声で歌い出した。
「アスファルト、タイヤを切りつけながら♪」
ケンジは即座に机を叩いて叫ぶ。
「いや、歌うんかい!」
ユウジは腕を組んで冷静に言う。
「……まあ、歌うだけなら害はないだろ」
タカシは腹を抱えながら笑った。
「怪談の続きどころか、本人が続き始めたんだけど!」
部室は恐怖よりもツッコミに忙しく、怪談はいつの間にか漫才のような空気へと変わっていった。
こうしてミステリー研究部に、新たな部員が加わった。
部活が終わり、夕闇の校庭を抜けて帰ろうとした4人。
だが――当然のように、アスファルト(略)マンも一緒に歩いていた。
ケンジが頭を抱えながら言った。
「なんか、ついてくるんだけど…」
全員が自転車に跨ろうとしたその時、ふとユウジが言った。
「……これ、運転したらまた追いかけて来るんじゃね?」
その言葉に、全員が同時にアスファルト(略)マンを振り返る。
怪異はただ黙って立っている。何も喋らない。
「……まあ、大丈夫だろ」タカシが苦笑しながら言う。
「そうそう、昨日のは偶然だって!」ミカも無理やり笑う。
そして4人は校門を抜けた。
――その瞬間。
例のイントロが流れ出した。
「アスファルト、タイヤを切りつけながら♪」
「またかよーーー!」全員が叫ぶ。
歌いながら走り出すアスファルト(略)マン。
自転車を漕ぎ出した4人の背後から、再び迫る足音と歌声。
ケンジは必死にペダルを踏みながら叫ぶ。
「昨日の続きやんけ! シリーズ化すんな!」
タカシは笑いながらも汗だくで漕ぐ。
「怪談ってより、もう恒例行事だろこれ!」
ミカは半泣きで叫ぶ。
「やだー! また追いかけてくるのー!」
ユウジは冷静に言う。
「……止まればいいんじゃね?」
だが誰も止まれない。ネタに殉ずる、それがミステリー研究部の鉄則。
夜の街に再び響く歌声。
「アスファルト、タイヤを切りつけながら♪」
こうして彼らの帰り道は、またもや漫才じみた逃走劇へと変わっていった。




