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第七章

 斗空は報告を聞いて苦々しい顔をしていた。

 きっかけはつまらない話のはずだった。

 たかが、事故だ。

 それがこれほどまでの騒ぎとなるとは。

 もっともその事故を奇貨としたのは、基錠を含めた彼等だった。

 いまや、炭燈楼は遁牡会の異形と、基錠の煙のような存在が満ちていた。

 確実に、本体がない。

 操っている本人には覚えがあった。

 それは斗空のコミュニティが禍図深を逆撃しようとした時の事だった。

 同時に斗空は為端も探っていた。

 為端がたまたま電子タバコを階に行く先に、その少女はいつもいた。

 日向依葉。

 禍図深の遁牡会を襲う時、二重の手のために、彼女の店を襲撃地点と決めた。

 依葉は当然巻き込まれ、命を絶った。

 その後、彼女の家筋を知った斗空らは、その死体をバラバラにして池に捨てた。猟奇殺害に偽装したのだ。

 全ては上手く行ったはずだった。

 それが、加害者全てが炭燈楼の怨霊めいた存在になるとは思わなかった。

 血筋か。

 斗空は嘆息しつつ、舌打ちした。

 今、ОSが乗っ取った部分が降りてきている。

 自衛隊の特殊作戦群も動いているという。

 まだ、彼は終わらせるつもりはなかった。

 東京周辺の上空に現れた炭燈楼は新天地だ。

 特に禍図深が地上から消滅したなら、彼のコミュニティのシンボルになる。

 巨大で強力なシンボルだ。

 その存在の元、斗空のコミュニティはさらに強力になるだろう。




 椋悠は冷静に、鹿等目の特殊作戦群の侵攻の様子を眺めていた。

 これはひとつの実験でもあると、彼女葉考えを改めていた。

 東雅コーポレーションの技術力を借りて、彼女のОSは炭燈楼に神を造った。

 特殊作戦群相手にどこまで対応できるか?

 いや、特殊作戦群程度にどの程度影響されるか?

 ОSはもう一つの組織から援助を受けていた。

 公安部特別班。

 彼等は、「一月の雨」作戦に興味を持っていたのだ。

 今のところ、特殊作戦群は一進一退を繰り広げて、その足は止まっている。

 椋悠にとって、まずまずな状態だ。

 なにより、ここで自衛隊の特殊部隊を叩いてしまえば、東京上陸の大きな岩礁がとりはらわれるというものだ。

 彼女はコーヒーを口にして、ボードに広げた幾つものウィンドウに目を落としたまま微笑んでいた。




 やっと楓と為端が十階層まで降りてきた。

 相変らず、すっかり廃墟と言って良い風景だ。

 ОSが炭燈楼を乗っ取ってからだろうか。こうなったのは。

 楓は薄暗い中、かつての炭燈楼の賑わいを思い出していた。

 気が重い。

 正直な感想だった。

 それもただ重いのではなく、何かおどろおどろしいものが奥にあった。

『……おう、おまえらか』

 稀宇が、遠くから彼女らを見つけたようで、ボードに通信を送ってきた。

「よぉ、おまえんところに、ガキが一匹いるだろう?」

 為端は驚きもせずに、尋ねた。

『ああ、それが?』

 二人は、壊れた道路を伝って稀宇と七七七に会った。

 楓は一目で、ミケタの隠になった姿だとわかった。 

 遊の身体と七七七は不思議そうに片手を合わせると、またそれぞれ違うところに手をやりつつも、ぴったりと動きが一緒になっていた。

 二人はお互いの顔を覗き見つつ、感嘆の息を吐く。

「何遊んでんだよ、おまえら」

 為端は呆れ気味に声を出した。

『面白いだろう、これ?」

 二人が声を重ねて、当然のように言って来た。

「あー、そうかもな」

 軽く天井を眺めて、為端は適当さ丸出しで答えた。

 炭燈楼は、笛須コミュニティのシンボルになりつつあった。

 こうではくては。

 為端はニヤリとしつつ、電子タバコを口にした。

「それより不思議なんだ。私を呼ぶ気配が上層でずっとしているんだよ」

 七七七は為端に遠慮なく心の内幕を晒した。

 彼女の無意識が、七七七となってはいたが、為端を認識しているようだった。

「ああ、それな。……そろそろ総仕上げと行こうじゃないか?」

 楽し気に為端は答えた。

「楓、認識規定だ。第二条、祇は人や物の姿をとることもある。第七条、祇のいるところを異界と呼ぶ。を発動させろ」

 彼女は言われた通りにした。

 七七七にすぐ影響があった。

 二条項により、今の姿を祇と認められたのだ。

 だがそれは、七七七への効果で終わらなかった。

 第二条が、遁牡会と降りてきているОSにまで影響し、炭燈楼が鳴った。

 斗空も、椋悠も異変を何事かと思った。

 邪魔なもやのようなものが、改造し、神として操ろうとしたものが、祇に変換されたのだ。

 それだけではない。

 祇は明らかに今までと雰囲気が違っていた。

 ただの祇ではない。

 怨霊と言っても良い、巨大な渦巻く怨念を身にまとった祇だ。

 七七七は、あぁあ、と呻くような声を上げて、力なく膝をついた。

 遊のミケタの身体もだ。

「……これはまた。美味しそうな状況になって来たな」

 稀宇がにやけて言う。

「おまえの出番はもう少し後だよ」

 為端が答える。

「次は、第三条、人は個として中心であるときに物が見えるだ」

 



 斗空の目の前に、少女が一人立っていた。

 うっすらとした姿で、ベレー帽をかぶり、着物とチャイナ服を混ぜたような服を着ている。

「……依葉か……」

 斗空は小さく呟いた。

「……おまえはそんなに俺が恨めしいのか?」

 鉈を持った依葉は、彼を睨みつけた。

「……一回死んでみなさいよ、クズ!!」

 鉈の一閃で、斗空の首が飛んだ。




 椋悠の眼前には第一回目の「一月の雨」作戦の映像が流れていた。

 この作戦の失敗で、ОSの上陸部隊は全滅した。

 彼女がその後、再攻の為に日本を調べて手を組んだのは東雁コーポレーションだったが、ОSの神を作るにあたってモデルにしたのは、封じられて怨念を満たしていた九尾の狐だった。

 それが霊的につながりがあったのが、日向依葉の一族でもあった。

 日向依葉は今、身体を取り戻した。

 で、ある以上、常に電子で出来ている造り上げた神たちの基盤が、ただの人とかしてしまった。

 特殊作戦群の兵士たちに神たちが次々と狩られてゆく。

 彼女は、無言で机を思い切り拳で叩いた。

 コーヒーカップが床に落ちて割れる。

 それだけだった。

 椋悠は、直後にはまるで何もなかったかのように、ボードをしまい、新しいカップを出してコーヒーを入れ出した。




 楓たちがいる階層の天井から、何かが落ちてきた。

 見るとそれは人の姿をとっていた。     

 帷乃裏だった。

 すると、まるで七七七が引き寄せられるように宙に浮き、遊が形作っていた身体はゆっくりとかき消えていった。

 帷乃裏と七七七は、塔の一画で出会い、身体が重なった。

 楓は為端に言われる前に、認識規定を発動していた。

 第四条、人間は存在の中にあってこそ人間である。

 だが、炭塔楼はぐらりともしなかった。




 日向依葉が立ち上がった時、目の前に無防備に両手を広げた為端がいた。

「……ひさしぶりだな。巻きこんじまった。ホントに反省してるよ。好きにして良い」

 彼女はまだ鉈を持っている。

「……事故よ」

 彼女は忌々し気に吐き捨てた。

「でも、すべて許したわけじゃない。あたしは、ここで無下に死んでいった人たちを迎える用意をする」

 日向依葉は復活した。生命としてではなく、バラバラになった部分が元に戻ったという形で。

 死者は蘇らないのだ。

「まー、私もいるしなぁ」

 いつの間にか傍にいた稀宇が呑気な言葉を出す。

「……炭塔楼はおまえの記念碑だ。好きにするといい」

「遁牡会と仲良くできる自信ないけどね」

「喰っときながら何言ってやがる」

 為譚は笑って、軽く手を上げてその場を去ろうとした。

「新しい電子タバコがあるんだけど、要らない?」

「ああ、俺にはもう用無しだよ」

 為端は、塔の瓦礫の上を降りて行った。




「任務失敗と……」

 不機嫌そうに、楓は呟いた。

 そこに為端がふらりと通り抜けようとする。

「……あんたさぁ、結局なんだったわけ? 日向依葉の仇打つでもなく……」

 為譚はニヤリとした。

「俺はただの消し屋だよ。それ以上でも以下でもない」

         了

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